ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019)が、2020年の第92回アカデミー賞各部門を総なめにした歴史に残る授賞式はわずか1年前だが、すでに遠い昔の出来事のようだ。厳しい状況のなか、立て直しに奔走する映画業界は、このwithコロナ時代のアカデミー賞をどのように行う予定なのか。
当初2月28日(現地時間)に予定されていた第93回アカデミー賞授賞式は、4月25日(現地時間)に司会者不在で開催される。スティーブン・ソダーバーグをはじめとするプロデューサー陣は、授賞式が「映画セット」のような形式で行われ、新型コロナウイルス感染防止対策を万全にした上で「安全で楽しめる」イベントになると説明している。
授賞式の延期によって、今年はアカデミー賞へのノミネート対象期間が変わり、例年12月31日だったデッドラインが2月28日に延長された。選考対象となるのは、この締切日までに公開された映画だ。アカデミー会長、デビッド・ルービンと同CEOのドーン・ホブソンは声明にこう綴っている。
「映画は過去1世紀以上にわたり、どんなに暗い時代にあっても私たちを慰め、元気づけ、楽しませてくれるものとして大切な役割を果たしてきました。COVID-19に覆われた2020年も、映画は変わらずそういう存在でした。選考対象期間や授賞式の日程を延ばしたことで、映画づくりに携わる人々が、コロナのような不可抗力により不利な状況に翻弄されることなく、余裕をもって作品を制作し、公開することができたらと思っています」
3月15日(現地時間)、ニック・ジョナスとプリヤンカー・チョープラーがノミネーションを発表。デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』が作品賞をはじめ、ゲイリー・オールドマンの主演男優賞、アマンダ・サイフリッドの助演女優賞、監督賞など最多10部門でノミネートを果たした。同作は第78回ゴールデン・グローブ賞でも最多6部門で候補入りしていたが、無冠に終わっている。
続く『ノマドランド』『ミナリ』『シカゴ7裁判』『ファーザー』『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』『Judas and the Black Messiah(原題)』の6作品が、それぞれ6ノミネートと並ぶ。
2020年4月にアカデミー協会は、2021年は劇場公開されない映画も選考対象とすると発表していた。その結果、Netflix配信作である『Mank/マンク』をはじめ、アーロン・ソーキン監督の『シカゴ7裁判』、チャドウィック・ボーズマンの遺作となった『マ・レイニーのブラックボトム』などもノミネートの対象となった。
>第93回アカデミー賞のノミネーションが発表! 主要部門の候補をチェック。
主催の映画芸術科学アカデミーは4月12日(現地時間)、オスカーを授与する役割を担うプレゼンターたちを発表した。そのリストには、昨年の受賞者であるホアキン・フェニックスやレネー・ゼルウィガー、ブラッド・ピット、ローラ・ダーンをはじめ、レジーナ・キング、リース・ウィザースプーン、ハル・ベリーら歴代のオスカー俳優たちが名を連ねている。またハリソン・フォードやゼンデイヤ、アンジェラ・バセット、ドン・チードル、ブライアン・クランストン、そしてポン・ジュノ監督なども登壇予定だ。
授賞式は通常の会場であるハリウッドのドルビーシアターに加え、ロサンゼルスのユニオン駅と2会場で開催される予定だ。アメリカではABC TVネットワークがライブ放送し、世界の225を超える国と地域でもライブ放送される。だが、今年は過去数カ月の厳しい状況により、例年よりもスリム化される模様。「ヴァラエティ」によると、今年の授賞式には候補者、その同伴者、そしてプレゼンターのみを招待するという。しかし、関係者らは授賞式によって業界を元気づけたいと考えている。
ABCエンターテインメント社長のカーレイ・バークはこんな声明を出している。
「私たちは未曾有の状況と対峙していますが、今後も引き続きアカデミーのパートナーたちと協力して、2021年の授賞式が安全な祝賀イベントとなるよう努めます」
また当初、候補者たちに対してビデオ通話での参加の「選択肢にない」と伝えていたが、その後にロサンゼルスに移動できない出席者のためにロンドンやパリなどに会場を設けることを明らかにしている。
>名スピーチに気になる同伴者。アカデミー賞2020を総ざらい。
パンデミックにより、映画のプレミア試写会やメットガラ、映画祭などが次々と中止になった時、従来型のレッドカーペットはもう終わりだと言う人も多かった。しかし、2020年8月に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードやグラミー賞では、感染対策を取った上でレッドカーペットは行われている。アカデミー賞でも例年通り、華やかなファッションパレードが繰り広げられる可能性がなくなったわけではない。もちろん、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを取りながら、であることは確かだ。
Text: Radhika Seth