オスカー主演男優賞を獲得!
ブレンダン・フレイザーが『ザ・ホエール』の演技で第95回アカデミー賞主演男優賞を獲得した。本作でフレイザーは、疎遠になっている10代の娘との絆を取り戻そうとする、余命わずかの過食症でひきこもりの教師チャーリーを演じている。体重272キロの巨漢の男を演じるために、ブレンダンは40日間45キロのファットスーツを着用。過去に恋人を失ったショックと、肥満により外出もできずに精神的に疲弊し、暴食することで自らを死に追いこむ孤独な中年を、恐ろしいほどリアルに演じている。
アクションスターとしての絶頂期から、鬱と逆境を乗り越えて
ブレンダン・フレイザーといえば、『原始のマン』(1992)で人気を博し、29歳のときに出演した『ジャングル・ジョージ』(1997)でファン層を拡大。そして、31歳で出演した『ハムナプトラ』シリーズ(1999~2008)で世界を席巻して大スターとなった人物。189センチの長身が繰り広げる迫力満点のアクションと、甘いマスクで大人気を博していた。しかし、2008年以降、表舞台から遠ざかるようになった。一体それはなぜなのか? 彼は2018年に米 『GQ』誌にこう語った。「2008年に公開された『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』の撮影中は、アイシングとテーピングが欠かせませんでした」。長年にわたるアクションシーンの撮影で体はボロボロになり、それ以降何度も手術を余儀なくされ、結果的に7年近く入退院を繰り返したというのだ。さらに、同じ取材で彼は、ゴールデングローブ賞を選出するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の当時の会長フィリップ・バークから、下半身を触られるという性的暴行を受けたことが主たる原因で、「自分を責めて惨めな気持ちになり」、鬱状態に陥ったという。そして、このことを公表したことで、HFPAのブラックリストに載ってしまったとも示唆している。
第95回アカデミー賞の受賞スピ―チでは、『ザ・ホエール』の監督ダーレン・アロノフスキーに「クリエイティブな命綱を投げてくれてありがとう」と感謝の気持ちを述べ、会場の涙を誘った。
今年の賞レースがいつになくエモーショナルなのは、ブレンダン・フレイザーを始め、アジア人には役がないからと一度は俳優の夢を諦めなければならなかったキー・ホイ・クァン、さらにどれだけ活躍しようとも、やはりアジア人(特に年齢を重ねた女性)には役がないからと言われてきたミシェル・ヨーといった、一度はハリウッドから締め出された人たちが再評価されているからだろう。
キー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーとの共演歴も!
そんなブレンダン・フレイザーとミシェル・ヨーは、実は『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』で共演しており、キー・ホイ・クァンとブレンダン・フレイザーも『原始のマン』で共演の過去がある。クァンとフレイザーは今年の1月に『原始のマン』以来、31年振りに米「ハリウッド・リポーター」主催の座談会「アクターズ・ラウンドテーブル」で顔を合わせている(その後はあらゆるアワードで会っているが)。久々の再会に感極まるクァンにフレイザーはこう声をかけた。「(大丈夫)。僕たちはまだここにいるんだから」。諦めずに前進を続けた人には希望があることを教えてくれる、まるで映画のセリフのようなひと言だった。そんな二人が揃ってアカデミー賞を受賞したことは、多くの映画ファンにとっても最高に喜ばしい出来事だったに違いない。
Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto