時代を映し出すミューズ起用の先駆者。
あまたのスーパーモデルの中でも、シャネル(CHANEL)とフェンディ(FENDI)を牽引するカール・ラガーフェルドのクリエイティビティを触発しつづける女性は、ほんの一握りだ。彼に起用されるということは、ファッション界における最高の地位を約束されたことを意味し、外見の美しさだけではない独自のスタイルを持つ女性のみに許される特権だ。歴代ミューズを務めてきた女優、ミュージシャン、モデル、親しい友人、時に男性たちは、カールが解釈するその時々の時代精神、美意識やムードの代弁者となって、さまざまな場所で表現してきた。
こうした「ミューズ」の存在をファッション業界にもたらしたのは、ほかでもないカールだ。今では恒例になりつつあるが、カールは1980年代初期のイネス・ド・ラ・フレサンジュを皮切りに、ミューズとクリエイティブ・パートナーを結ぶ先駆者となった。イネスが起用されるや否や、彼女は単なるマネキンでもキャンペーンモデルでもなく、彼のスタジオのクリエイティブ・パートナーとして、新作デザインに影響を与えるまでになった。そして、ブランド初となるオフィシャル・アンバサダーとしての役割も務めるに至ったのだ。2011春夏コレクションでは、約20年ぶりにランウェイに復帰したのも記憶に新しい。
そして、イネスとのパートナーシップ以降、クリステン・マクメナミー、リンダ・エヴァンジェリスタ、クラウディア・シファー、ステラ・テナント、ケンダル・ジェンナーといったスーパーモデルたちが、カールのミューズとして、コラボレーションを果たしてきた。
「人生と仕事とは、我を忘れること」
カールはまた、いわゆるモデルだけでなく、ハリウッドを象徴する女性たちにも賛美を惜しまなかった。ダイアン・クルーガー、ジュリアン・ムーア、ティルダ・スウィントン、クリステン・スチュワートたちが、カールのデザインを纏い、そのデザイン哲学を体現してきた。
彼には、類稀なる先見の明があったのだろう。過去10年間には、リリー・アレン、マイリー・サイラス、ウィロー・スミスなどを才能を見出している。また、カールが名付け親まで務めた10歳のハドソン・クローニングは、シャネル(CHANEL)のショーに幾度となく登場し、カールと手を繋いでフィナーレに登場するのが今やお決まりだ。その他、帝王が「私のもう一つの目」と賞賛したクリエイティブ・コンサルタントのアマンダ・ハーレックなども、彼のミューズとして欠くことのできない存在だ。
カールはかつて、スージー・メンケスとのインタビューで次のように語っている。
「人生と仕事とは、我を忘れること」
カールは決して過去を振り返らない。常に前を見つめて前進する彼の創造性に対する執着が、新時代の顔となる女性たちとの出会いを呼び寄せ、ともに新たな文化を生み出し続けるのだ。
85歳にして最前線を突き進むカールの誕生日を讃えて、時代を映してきたミューズたちを振り返ろう。
Text: Kasia Hastings