「今、地球は転換期にあり、私たちは大変厳しい選択を迫られています。今のままの状態を続けて、回復不可能なダメージを地球に与え続けるのか。それとも、人間の英知を結集し、革新的なソリューションを持ってこの問題を解決するため努力し続けるのか。人間は、偉大なことを成し遂げることができます。今後10年はまさに正念場であり、地球を修復するための行動を起こす時です」
2021年10月、ケンブリッジ公ウィリアム王子は、イギリス王室のチャリティ財団「ザ・ロイヤル・ファンデーション」のプロジェクトの一環である「Earthshot Prize」初の授賞式に際し、こう言葉を寄せた。このプロジェクトでは、「自然環境保護」「大気汚染対策」「海洋汚染対策」「ゴミ対策」「気候変動対策」の5部門で、環境問題への優れたソリューションを開発・実施した国や自治体、団体組織などを選出する。それと同時に、それらの団体のさらなる活動資金として100万ポンド(約1億5000万円)を提供するという。この活動は、2030年まで毎年続けていく予定だ。
近年、環境活動家としてますます影響力を強めているウィリアム。彼がこれほどまでに環境問題に尽力する理由は、ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子の3人の子どもたちの存在にほかならない。
「父(チャールズ皇太子)が気候変動問題を警告したとき、なかなか周囲の理解を得られず道のりはとても困難なものでした。彼は、祖父の故エディンバラ公の影響を受け、まだ誰もこの問題に気づいていない非常に早い段階で、多くのことを語っていました。ですが、私の息子のジョージが30年後にも今と同じ問題に対峙しているなどということは、あってはならない事態なのです」
2021年10月、ウィリアムは『People』誌にジョージとのこんなエピソードを語っている。
「ジョージは学校の活動の一環でゴミ拾いに参加しました。ですが翌日同じところにまたゴミを発見し、困惑と苛立ちをあらわにしていました。8歳になった彼は、すでにさまざまなことを理解しているようで、環境問題に敏感に反応しています」
そして、世界各地で多発する異常気象による災害を目にするたびに、その代償を彼らの世代が負わされることに強い危機感を感じるとウィリアムは語気を強める。
「6歳のシャーロットや3歳のルイのように、人は幼い頃は無邪気に人生を楽しむことに集中できます。ですが、ジョージが気がついたように、成長するにつれて徐々に地球そのものの未来が大きな問題を抱えていることを知るのです。私は、子どもたちにそう感じさせてしまうことがとても辛い。重荷を背負わせたくないのです。昨今私たちは、気候変動によるさまざまな不安に直面しています。そして今を生きる若者たちの未来は常に脅かされています。これには本当に心が痛みます」
ウィリアムはまた、近年過熱する宇宙開発事業に、強い懸念と危機感をあらわにする。
「世界の優れた頭脳と精神は、地球以外の惑星に安住の地を開拓することではなく、この地球を修復することに尽力すべきだと思うのです」
“世界の優れた頭脳と精神”とは、宇宙旅行ビジネスを行う3社「Virgin Galactic」社のリチャード・ブランソン、「Blue Origin」社のジェフ・ベゾス、そして「スペースX」社のイーロン・マスクだ。
今年7月にブランソンが自ら乗りこんだ有人宇宙船の試験飛行を成功させると、10月には映画『スター・トレック』(1966)のカーク船長を演じた俳優ウィリアム・シャトナーを乗せたベゾスのロケット「ニューシェパードNS-18」が宇宙旅行から帰還。一方、すでにアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士を自社ロケットで国際宇宙ステーション(ISS)に送った実績のあるマスクは、2026年までに人類を火星に送り込む計画を構想中だ。ウィリアムはこの過熱状態を「スペースレース」と呼び、今年10月イギリス「BBC」の取材でこう語った。
「宇宙開発事業にしのぎを削るビリオネアたちが、地球の修復にその頭脳を使わず、地球以外の惑星にそのソリューションを求めようとする姿勢に私は懐疑的です。私個人は宇宙へ行くことに興味がなく、それよりも宇宙旅行の際に排出される二酸化炭素の量に疑問を抱いています」
そうウィリアムが危惧するのも無理はない。というのも、今年7月にベゾスはNBCの取材に対し「次世代が未来を築けるよう、私たちは宇宙への道を作らなければならない。宇宙から見なければ、地球の大気の状態について想像すらできないでしょう。だから、すべての重工業と汚染産業を宇宙に移動させる必要があるのです」と持論を述べていた。しかし、その後ウィリアムと直接対話したベゾスは、今年11月にEarthshot Prizeへの資金提供を発表した。“次世代のため”という共通の大義名分を持つ二人だが、そのアプローチは正反対にも見える。だがウィリアムは、他の惑星に新天地を求めるビリオネアと対立するのではなく、彼らが持つ力を信じて手を組むことを選択したのだ。
「これは非常に重要なことです。若者たちの未来を案じるなら、地球を諦めて宇宙に移るというソリューションを考えるより、地球上でこの問題に集中する必要があります。あまりにも長い間、私たちは十分に地球保護を行ってきませんでした。Earthshotは皆さんのためのものです。これからの10年間、私たちは行動を起こします。そして、地球を修復するための解決策を必ず見つける。どうか学ぶことや変化を求め続けることをやめず、希望を捨てないでください。私たちはこれらの課題に必ず立ち向かいます」
Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba