「野生動物の肉には、緊張感が漲っています。常に死を意識しながら生きているからです。オスかメスか、若いか老いているかで肉質は全く違いますし、季節によって香りも異なります。個体の背景を推察し、食材に真剣に向き合う。そこがジビエ料理の面白さです」
そう語るのは、一般社団法人日本ジビエ振興協会代表理事であり、オーベルジュ・エスポワールのシェフ、藤木徳彦だ。長野を拠点に料理人として腕を振るう傍ら、2012年に現在の協会の前身となる団体を立ち上げ、ジビエの普及に尽力し続けている。
現在日本では、シカやイノシシ等の増え過ぎた野生鳥獣による農作物被害額が160億円を超えており(令和2年時点)、森林へのダメージや高山植物の絶滅危機なども引き起こしているという。こうした中、国は鳥獣駆除に補助金を交付し、平成27年度の全国シカの捕獲頭数は62万頭と増加傾向にある。だが、そのうち食肉処理施設を通じてジビエとして販売されているのはわずか10%程度。残りの9割は、自家消費という形で食べられていたり、ペットフードに使われたり、埋設処分や焼却処分されている。
ジビエを無駄なく活用するためには、国の衛生ガイドラインに基づく安全な食肉加工施設と流通が整備されることが必要だ。そこで、農林水産省では2018年に「国産ジビエ認証制度」を制定。その規範に則った食肉加工処理施設は国内に既に30カ所ほど存在し、今後も増えていく見込みだという。最近では、認証マークの付いた安全で質の良いジビエが購入できるオンラインプラットフォームなども整ってきた。今後一層、ジビエが食肉・食文化として一般化していければ、地域を活性化する資源になりうる。
同協会の鮎澤廉はジビエの楽しみ方について「食糧=安定供給という観念が強いですが、ジビエは自然の恵み。獲れた時に楽しむ心持ちも大切ではないでしょうか」と示唆する。“命”に思いを馳せながら、FOOD LOSS BANKの杉山絵美が家庭で親しめるジビエレシピを教える。
エスニックなローストヴェニスン。
【材料】(2〜3人分)
・鹿肉ロース 300g
・ハチミツ 大さじ1/2
・カレー粉 大さじ1/2
・ケチャップ 大さじ1/2
・塩 小さじ1/4
・プレーンヨーグルト 50cc
【作り方】
1. 鹿ロースを袋(シリコン容器など)に入れて、蜂蜜を塗り込む。
2. ヨーグルト、カレー粉、ケチャップ、塩を混ぜ、1. に入れて肉をマリネする。冷蔵庫で半日から一晩寝かせる。
3. 天板にオーブン用シートを敷き、鹿肉にヨーグルトソースをからめたまま乗せる。そして160℃のオーブンに入れて15分焼く。さらに、裏返して15分焼く。
4. オーブンから取り出したらアルミホイルで包み、約20分室温で放置。中心部まで余熱で温める。
5. ローストされた鹿肉をスライスして、器に盛りつける。
【ワンポイントアドバイス】
肉を冷蔵庫から出してすぐに使うのではなく、常温に戻しておくことで火の通り具合がちょうどよくなります(ほかの肉類同様に中心まできちんと加熱することが必要)。焼き時間の目安は、肉300g〜350gの場合はトータル30分、肉500g〜1kgの場合は、20分ずつ両面を焼きトータル40分がベスト。中心部まで加熱するためにも、オーブン焼きの後にアルミホイルで包むことが大事。アルミホイルの上からさらにタオルでくるんでも◎。
【アレンジ】
ヨーグルトソースに生姜やニンニクのすりおろしを加えても美味しい。鹿肉が手に入らない場合には、チキンやポーク、ビーフにももちろん合うレシピだが、ヴィーガンメニューとして、鹿肉の代わりにカリフラワーに合わせても相性抜群。
チーズ香るイタリアンカツレツ。
【材料】(調理時間15分)
・鹿もも肉 200〜300g
・赤ワイン 50cc
・小麦粉 大さじ1
・卵 1個
・パン粉 カップ1/2
・パルメザンチーズ 大さじ2
・トマトの水煮缶 カップ1/2(100cc)
・玉ねぎ 1/2個
・コンソメキューブ 1/2個
【作り方】
・トマトソース
1. 微塵切りにした玉ねぎを、オリーブオイル(分量外)をひいた鍋に入れ、薄茶色になるまで中火で炒める。
2. トマトの水煮とコンソメキューブを入れて、中火で10分ほど煮詰める。塩胡椒で味を整える。
・カツレツ
1.鹿肉を袋(シリコン容器など)に入れて、赤ワインでマリネする。
2. パン粉とパルメザンチーズをボウルで混ぜる。
3. 鹿肉を1.5cmくらいの厚さにスライスし、軽く塩胡椒(分量外)し、小麦粉、卵、チーズ入りパン粉の衣をつける。
4. フライパンにオリーブオイル(分量外)を入れて中火にかけ、湯気が出て温まったら、3.の鹿肉を片面1分半から2分くらいこんがり焼く。
5. お皿に鹿肉のカツレツとトマトソースを盛り付けて出来上がり。
【ワンポイントアドバイス】
鹿肉を食べやすい厚さにスライスし、赤ワインにつけて袋に入れて冷凍しておくと、食べたい時にさっと調理できる作り置き食材に。冷凍する時は、出来るだけ袋の空気を抜くこと。
【アレンジ】
赤ワインと一緒にローリエ、ローズマリー、ニンニクスライスなどを加えると、風味が増してさらに美味しくなる。また、衣にドライハーブや砕いたナッツを混ぜても香ばしくなる。トマトソースの代わりに、シンプルにレモンを絞れば爽やかな一品に。
Text: Maiko Morita Special Thanks: Emi Sugiyama Editor: Mina Oba