FASHION / TREND & STORY

ランウェイデビューからデジタル配信まで、2022-23年秋冬東京コレクションのダイジェスト。

3月14日〜19日の間に開催された「Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 A/W」。ランウェイデビューを飾ったハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)やブラックミーンズ(BLACKMEANS)から、デジタルで配信を行った人気のハイク(HYKE)やチノ(CINOH)まで。注目の10ブランドを振り返る。※「by R」プロジェクトで参加したトーガ(TOGA)トモコイズミ(TOMO KOIZUMI)のショーも要チェック!

PILLINGS/理想と現実の狭間で迷う人間像をニットに込めて。

「人間という存在を見つめ直してコレクションを伝えたかった。理想と現実の狭間でもがく人間像や、道に迷っている人がテーマです」──ピリングス(pillings)のデザイナー、村上涼太は、ショーの後にこう語った。pillings=繊維が絡まってできる毛玉。得意とするニットへのこだわりは、ブランド名からも一目瞭然だ。

ランウェイの天井にはロープで逆さに吊るされたピアノを設置。「社会のメタファーとしてピアノを使った」という。静かなピアノの旋律とともに登場したルックのすべてには、アランセーターをはじめとするバルキーなニットを起用。そこには大きく立体的なトンボやカブトムシや、編み込まれた蟻があしらわれ、まるで編み地に置かれた標本のようなイメージだ。「多様性と言われる社会の中で、きっと、虫一匹一匹も意志や個性を持っているはず」と村上は説明する。

ニットに合わせたボトムの多くは、デニムを中心にトレーンを引くスーパーロング丈。メガネを掛けたモデルたちの顔にも、時折虫のモチーフがあしらわれている。ニットの精巧なテクニックと社会性を加味したコンセプトを十分に感じつつも、つい着たくなる、愛らしさやユーモアもたっぷりと込められたコレクションだった。

HARUNOBUMURATA/女性の仕草にエレガンスを添える服づくり。

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)は、2018年のブランド設立以来、初めてショー形式でコレクションを発表。今季、インスピレーション源に掲げたのは、フランスの代表的写真家であるジャック=アンリ・ラルティーグの作品だ。

ファーストルックは、黒のロングドレス。実にシンプルだがウエスト部分に大きな膨らみを加えており、モデルが歩く度に柔らかく流れるようなラインが見て取れる。その後も、陶器を連想させるような全身を優しく包むフォルムが続く。カラーは黒を基調に、ベージュ、ブラウン、ホワイト、ブルーで構成。どのルックもニュートラルな印象で、女性の仕草がエレガントに映る魅力を備えている。

ショーの中盤には、モデルで女優の三吉彩花が白のパンツルックで登場。シャープに絞ったウエストに流線的なシルエットを掛け合わせたデザインだ。デザイナーの村田晴信は以前、ジル・サンダーJIL SANDER)を手がけるルーシー&ルーク・メイヤーの元でウィメンズデザインを学んだ経歴を持つ。着る人の個性を引き立てるロング&リーンのシルエットは、端正でシックなスタイルを好む現代女性のワードローブにぴったりだ。

BASE MARK/1つに繋がることで2つの世界を往来。

ベースマーク(BASE MARK)のテーマは「シュルレアリスム」。ショー会場は真っ赤なライトに照らされ、バイオリンなどの生演奏が現実と非現実世界の狭間を演出しているかのよう。

ベースマークと言えば、レイヤードがブランドを語る上で外せないシグネチャーデザインだ。今回も一見、重ね着の妙を披露しているように見えたが、実際は襟もとで2着が繋がっているニットやスウェットをはじめ、袖をまくったり、胸もとで裾を結んだり。これらのディテールは、着脱時に必然的に生まれる服のフォルムを表現するためだという。さらに、鮮やかなライムグリーンが印象的なダッフルコートは、デコルテに大胆なカッティングを加えることでベーシックなアウターをデフォルメしている。歩く度に揺れるトグルボタンのフリンジもユーモアと軽さを強調。

デザイナーの金木志穂が最もこだわったのは、1つに繋がることで2つの世界を往来できる服。誇張したディテールを加えることで、より現実味のあるムードも生まれている。スタンダードに見える服がもつ無限の表情を垣間見るショーだった。

HYKE/ミリタリーや古着をモダンに再解釈。

服飾史や古着から着想した独自の解釈で、進化し続けているハイク(HYKE)。毎シーズン、特定のテーマを設けないという哲学のもと物作りをしているデザイナーの吉原秀明と大出由紀子だが、今季キーワードとして提示されたアイテムには、セイラーシャツやパンツ、ミリタリージャケットなど、ユニフォームに焦点を当てたものが並んでいた。

ダッフルコートの祖と言われる50年代フェアノウトスモックのディテールを盛り込んだコートは、ブランドが得意とするモダンで柔らかなフォルムに再構築。シャツドレスの上からニットのグローブをあわせたバルーンドレスも、優しくノスタルジックな雰囲気を添える。静寂したエレガンスの中に力強さを感じるスタイルは、この春夏も健在だ。

そしてハイクのショーを語る上で欠かせないものが、恒例となった靴やバッグコラボレーション。その筆頭は、シューズデザイナーの竹ヶ原敏之介のもと新ブランドとして始動した、フランスの老舗シューズメーカー、マルボー(MARBOT)との初タッグ。ハイテク素材を使用した耐久性に優れたシューズは、マルボー社のベルトシューズがベースとなっている。ほかにも、同じ竹ヶ原が手がけるビューティフル シューズ(BEAUTIFUL SHOES)とのコラボブーツ、先シーズンからスタートしたPORTER(ポーター)とのバッグ、継続的に共作を発表しているチャコリ(CHACOLI)のレザーフラットポーチなど、話題性にあふれた小物からもますます目が離せない。

CINOH/自然界の生命力をテクスチャーで表現。

洗練された大人のリアルクローズを追求するチノ(CINOH)は今季、デジタル配信でコレクションを発表した。フィジカルショーではウィメンズとメンズともに発表してきたが、今回のデジタルではウィメンズのみにフィーチャー。「ユニセックスブランドと思われることもあるのですが、それぞれ男性像・女性像と違うイメージで服作りをしているので、そこをミックスした見せ方にしたくなかったから」とデザイナーの茅野誉之はその理由を語る。

イメージソースは、自然界から生み出される生命力や温もり。「植物の生命力を感じるようなイメージで生地を作り始めました。植物などが不規則に成長していく様がわかる柄や凹凸を要所に取り入れています」。抽象的なストライプを描く暖かみ溢れるアルパカのコートやジャケット、揺れ動いて陰影が変容するベロアのワンピース、レザーに刺繍とカッティングを施し軽さを加えたセットアップやパンツなど。さまざまな素材を使用しながらも、全体的にボディを優しく包み込む、有機的な雰囲気が感じられる。

ベージュやモノトーンの中に時折ミックスされた、大地や大空を思わせるブルーやグリーンの色彩。そして厚手のストールをアウターから覗かせたような異素材を巧みに合わせたスタイリング。リアルクローズでありながらも、絶妙なバランス感覚が光るコレクションだった。

REQUAL≡/新たなファッションの価値を創造。

週末の午後、目黒にあるヨーロッパの街並みを再現した屋外スペースが会場に。リコール(REQUAL≡)は、小さな小展が何十メートルも連なり、古物をたくさん扱う雑多なフリーマーケットの光景を再現した。テーマの「New Fashion Market」は、デザイナーの土居哲也が以前バルセロナの海岸沿いを散歩していた時に目にした、ブルーシートの上で売られていたブランドのブート品が元になっているという。“NF”や“THE FAKE FACE”などのパロディロゴをトップやアウターに配することで、フェイクマーケットは本物を超える新しい可能性があるのかを提議していた。

また土居は「古着を敢えて意図的に二次加工し、古いアイテム同士を掛け合わせることでこれまでになかった新しさを表現したかった」と言う。古い絨毯をつなぎ合わせたようなルックや、大きめのシャツをパッチワークのように仕立てたドレスもあった。今回、オーダーメイドで人間の服を愛犬の服にリメイクする「FLAFFY」とのコラボも展開。愛くるしい犬たちのランウェイが観客を笑顔にさせていた。

TANAKADAISUKE/刺繍でモードに魔法をかけて。

2021年秋冬にデビューし、今季ブランド初のランウェイショーを行ったタナカダイスケ(TANAKADAISUKE)。「浪漫について」をテーマに掲げたコレクションは「誰もが幼少期に見てきたもの(少女漫画や映画など)、その時感じたドラマティックでロマンティックな感情を思い出してほしい」という想いからスタートしたという。

ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)から独立後、刺繍アーティストとして活動していた田中。「主人公が魔法少女へと変身していく様を表現した」全21ルックは、田中の得意とする刺繍を中心に展開されていく。お城に配される柵をイメージした美しくも棘のあるビジュー装飾や、動くたびに揺れる愛らしいスワン。そしてグローブの指先からキラキラとこぼれ落ちるように輝いていたビーズ刺繍は、暗闇の中でも特別な光を放っていた。

「大人になって控えめになっていく、感情表現やアウトフィット、声に出して言いにくくないく理想や浪漫。その中でも自分で好きなものを貫いて、それを自分で守っていって欲しい」と語った田中は、自身がそれを貫くことで作品のコンセプトを体現した。「刺繍」を武器にファンタジーを切り開くタナカダイスケに、今後も注目したい。

DAIRIKU/思い入れのある大阪をテーマに、ランウェイデビュー。

テーマは「アフタースクール」。デザイナーの岡本大陸が学生時代に通っていた大阪・アメ村の古着などがインスピレーション源だ。岡本は、バンタンデザイン研究所大阪校在学中にブランド、ダイリク(DAIRIKU)を設立し、現在は東京を拠点に活動。「東京ファッションアワード 2022」を受賞し、今回ついにランウェイデビューを果たした。

オープニングを飾ったのは、アーガイルセーターの上にチェックのジャケットを羽織ったスクールガール調の女性モデル。ジャケットにはピンバッジ、バッグにはキーホルダーと懐かしいディテールが多く盛り込まれつつも、サイハイブーツでパワフルさもプラスしている。他にも、カラフルなローファーに厚手のレッグウォーマーを合わせるなど、80年代後半〜90年代の要素が満載。一方のメンズは、スカジャンからスーツ、パンクなニット、デニムの上下などとバリエーションに富んだテイストだ。大阪の古着文化を軸に、ストリートからテイラードまでさまざまな要素を盛り込んだいかにもダイリクらしいコレクションに、さらなる期待が集まる。

BLACKMEAMS/日本的なモチーフを散りばめた進化系パンク。

ブラックミーンズ(BLACKMEANS)は、岐阜県にあったレザー商品のOEM事業に携わるメンバーが2008年に設立したレザーブランド。ショー形式でコレクションを発表するのは今季が初めて。今回「日本文化としてのファッション」をテーマに、和楽器を用いるパンクバンド「TURTLE ISLAND」による笛や和太鼓の生演奏で幕開けした。

パンクスタイルを得意とするだけあって、ファーストルックはスリムな黒のジャケット&パンツでスタート。その後、カラフルなレザーをはじめ、ガーリィーなフリル使いやクッションにもなる尻当て、匂い袋をぶら下げたシドベルトなど、巧みなディテールを披露。また、2019年秋冬からコラボを行っているアクリス(1017 ALYX 9SM)とは、限定色のステッチを施したデニムジャケットとパンツのセットアップを制作。ブランド初期からグラフィック提供を行っているアーティストのVerdyが所属する「ゼパニーズクラブ(Zepanese Club)」とは、八咫烏と蛇の刺繍が入ったスカジャン型コートをはじめ、作業服の「寅壱」も参加したセットアップなど、日本的なモチーフを散りばめていた。

ラスト2ルックでは、スタッズの代わりに仏具用の金具をあしらったという「仏ジャン」がお目見え。ハードな雰囲気にどことなく神秘的な要素が加わり、ブラックミーンズ流の“和パンク”に華を添えていた。

DAIWA/廃棄漁網に新たな価値を生み出す。

Daichi Saito
Daichi Saito

フィッシングブランドのダイワ(DAIWA)は、表参道ヒルズにて『BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-』を披露。世界中の海をフィールドとするブランドとして、これまでも海洋環境の悪化を大きな課題ととらえ、素材を再生させ活用するリサイクル活動に取り組んできたが、今回は使われなくなった漁網をアパレルアイテムに生まれ変わらせた。

一般公開されたインスタレーションは、実際のリサイクル工程をムービーで解説し、原料の現物や漁協関係者へと還元するウェア類、海の生き物からインスピレーションを得たスペシャルピースなども展示。漁業とファッションという異なる2つの業種が、共にポジティブな未来へ向けて問題解決していく取り組みは今後も注視していきたい。

Photos: Courtesy of JFWO, Courtesy of Brands Text: Maki Hashida, ,Kyoko Osawa, Mayumi Numao