第10位「ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え」
騙し合いの末に、何が残るか
北朝鮮と韓国が統一された朝鮮半島という設定がまず面白い。“統一紙幣”を狙ってとある8人組の集団が造幣局に侵入し、紙幣を強奪するというアグレッシブな切り口で物語りはスタートする。司令塔して遠隔操作をする“教授”のジギルとハイド感、仲間内で発生する疑いと裏切り、臨戦態勢で育まれる愛など、心地よいテンポの中で心をつかまれるトピックが大量発生。「え、ここで死ぬの?」と思いもよらぬ展開も多々あり、基本的に予測不可能な点もいい。シーズン1のラストシーンでは、“教授”が騙し続けるとある女性に対して一抹の情を見せたが、その後は一体……。配信スタートとなったばかりのシーズン2の展開にも、期待がふくらむ。
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第9位「カーテンコール」
“韓国ドラマあるある”に、新しさをプラス
まだ最終回を迎えていないが、ランクイン。ドラマ「椿の花咲く頃」(2019)で「百想芸術大賞」の男性最優秀演技賞を受賞したカン・ハヌル主演作で、素朴でそこそこの野心を抱えた売れない舞台役者を演じている。しかし、フリーターの純愛ドラマなどではない。韓国ドラマのあるある、お家芸とも言える“遺産をめぐる骨肉の争い”や“時代を越えた恋のバトンタッチ”などをべースに、ハヌル演じる舞台役者が別の人物を演じ続ける、という設定で物語が進む。それが自然だけど斬新で、新しさに満ちているのだ。だから、“あるある設定”でも夢中になれる。純朴でピュアなカン・ハヌルの姿を堪能するだけでも、見る価値は多いにある。
>> カン・ハヌルの最新作、映画『ハッピー・ニューイヤー』のレビューはこちら。
第8位「39歳」
永遠の友情、永遠の痛み
第1話と2話は、まさにイントロダクション。3人のシスターフッドっぷりを堪能する作品だと思い込んで観始めたため、頭を打ち付けたようなショックを受けたことを思い出す。喜びだけじゃなく、悲しみも分かち合える本当の意味での親友の絆は、何にも代えがたいものだ。でも、いつかは離れ離れになる。親友を失う、大切な人を失うとわかった時、自分はその相手に何をしてあげられるだろう、と深く考えさせられた。映画とは違い、ドラマシリーズなので天国に向かうまでの描写が丁寧でゆっくりなので、無理がない。だからこそ妙なリアリティに溢れているのも今作の魅力のひとつだろう。ラストシーンでの主人公、ミジョ(ソン・イェジン)のひとことにすべてが集約されている。
第7位「マイネーム: 偽りと復讐」
容赦無き復讐劇、令和版!
“復讐”は韓国ドラマを語る上で外せない主題である。「梨泰院クラス」ではパク・セロイが長家(チャンガ)の会長のじいさんに対して手を緩めなかったが、厚くなっていく仲間との絆や、恋が成就するシナリオなどでどこかホッとできた。しかし、今作はまったくホッとできない。父親の仇を打つために復讐の申し子となったジウ(ハン・ソヒ)は、手を緩めるどころか時を重ねるごとにストイックになっていく。消えることない父への愛だけが心の支えかと思いきや、同僚で先輩のピルト(アン・ボヒョン)の出現で一転。同じく“痛み”を抱える同士として心が通い始め、いつしか静かに愛が育まれていく。救いは1mmしかないけれど、その1mmに胸がいっぱいになる。「梨泰院クラス」のヒース役だったアン・ボヒョンが、逆の立場を演じている点も注目だ。
>>アン・ボヒョンの来日インタビュー&バッグの中身動画がこちら。
第6位「今、私たちの学校は…」
融合するバーチャルとリアル
韓国の新たな定番、ゾンビ。数々あるK-ゾンビ作品(K-ゾンビ解説記事はこちら)の中でも妙なリアリティを含んでいた理由は、ずばり、“学校”を舞台にしているから。誰もが通過する学校生活での体験を簡単に思い出させ、そこにバーチャルゲームさながらのサヴァイブ感覚を取り込む。全12話の展開は非常にテンポが良く、生きるか、もしくは死んで生きる──ゾンビになるかの極限状態の中にコミカルな笑いや友情、恋模様が差し込まれ、鑑賞中は叫びつつも時に笑顔になれるという上級エンタメに仕上がっている。また、キャストが素晴らしい。「シスターズ」にも出演しているパク・ジフやキーマンを演じるユン・チャンヨンを始めとする高校生役の俳優たち、全員がキラキラと輝いている。本気で上手い。気負わずナチュラルな演技によって、リアリティが増していく。
>>今作が面白い5つの理由を解説した記事はこちら。
第5位「私の解放日誌」
ヒーリング力、100。まさに心の処方箋
解放。この言葉に心が惹かれる人は、年々増えているような気がする。ただ、何から解放されたいかと問われると、うまく答えられない。そんな人が今作を鑑賞したら、きっと心が救われるはずだ。互いに独特な距離を保ちながら支え合う三兄妹は、目標や生きる目的を日々の生活の中で少しずつ道に落としてきてしまったかのような状態。田舎暮らしで感じるストレス(通勤時間など)も増える一方。そんな彼らの生活に現れた、ク(ソン・ソック)。その男との出会いから、少しずつ何かが変わっていく。派手な描写や驚くような展開があるわけではなく、ただ、淡々と彼らの生活が描かれる。今作の鑑賞は、それを少し遠くからずっと見つめていくという作業に近い。観終わった時、そこに広がっていたのは言葉にできない“可能性”の光。誰もが感じる閉塞感から解き放ってくれる、心の処方箋だ。
>> 心の処方箋ドラマ「大丈夫、愛だ」のレビューを含む韓国ドラマまとめ記事はこちら。
第4位「サムバディ」
不協和音、不器用な愛
結果、純愛ストーリーだと思う。しかし、一筋縄にはいかない愛情表現と独特なつながりが、大胆かつ繊細に描かれている。愛し合うのは、他者の気持ちが理解できないアスペルガー症候群の天才プログラマーと、あることをきっかけに殺人を喜びにするサイコパス。出会い系アプリを通じてさまざまな事件が起こる展開は、現代のSNS社会においての問題定義にもなっているが、それ以上にビシバシと感じるのが、“多様性”である。多様性は賛美とは言えないことがあることに気づかされるし、LGBTQ+だけでくくれない個々の概念や特性は無限であることを、物語が進むごとに理解させられる。また、韓国ドラマの常識をぶち破った過激でリアルなエロスの描き方も、秀逸。主演のキム・ヨングァンとカン・ヘリムは再注目俳優として今作で急浮上している。
>> 今作の“エロス”なレビュー記事はこちら。
第3位「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」
前に進むためにできること
未だに、大きな空を見るをクジラを思い出し、親友と会うと「ウ to the ヨン to the ウ…ハッ!」をやりたくなる。ウ・ヨンウが教えてくれたことは、壮大だった。自閉症スペクトラム、という個性を全面に出しながらもこうして全世界で支持された理由は、“みんな平等”である目線で作品が保たれていたから。その上で“それでも平等にならない”という過酷な真実も嘘なく突きつけていた点が本当に素晴らしい。また、ヨンウとジュノの恋愛においてのやりとりも、非常に奥深かった。相手よりも自分に興味がある、という前提においての恋愛。それをどう受け入れて進んでいくか。平均化された“普通”の定義を今一度見直し、そもそも平均値など存在しないということを受け入れることができた。いつでも明るく前向きなヨンウに、世界が鼓舞されたに違いない。
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第2位「シスターズ」
心の独立を目指す、勇敢な戦士たち
ドラマティック!この一言に尽きる。第1話のラストシーン、ジムのロッカーから大金を手にしてしまう瞬間のインジュ(キム・ゴウン)の涙。そのインパクトと言ったら、もう。これは只者ではないドラマだなと思い観ていくうちに、三姉妹を起点にさまざまな人間が絡みもつれ合っていき、予期せぬことが起きまくっていく。一寸先は闇、というよりは一寸先は渦巻きという表現が合っているだろう。そもそも、今作でキーとなるのは“お金”。貧乏であることがどれだけ不利であるかを包み隠さず表現しているのは、やはり韓国ならではだと思う。ただし、お金があれば潤う、満足できる、幸せになれるという主題にはなっていない。インジュを含む三姉妹は全員、人を信じて、人を優先していくのだ。巨大な悪の組織と立ち向かい勇敢に戦う姿は、「ストレンジャー・シングス」のキッズたちにも匹敵。女性のエンパワーメントという視点でも、濃厚なストーリーと言えるだろう。
第1位「ユミの細胞たち」
他人も愛して、自分も愛して
ただの恋愛物語ではない。今作の約2/5くらいはアニメーションである。なぜかというと、彼らの脳内の駆け引きがアニメでたっぷりと描かれているから。虚勢をはってしまったり、プライドが本心を邪魔してしまったり、思いもよらぬ“性欲”や“結婚欲”で望まぬ行動をとってしまったり。きっと誰もが体験しているけど誰にも言えないようなこと──今作ではその“からくり”を、擬人化された細胞たちによってわかりやすく解説してくれる。だから、自分ごとのように恥ずかしいし、自分ごとのように嬉しいし、そして、悲しい。タイトルにもある主人公、ユミ(キム・ゴウン)はシーズン1でアン・ボヒョン演じるウンと恋に落ち、シーズン2にはまた新たな男も加わる。シーズン1の最終回、結末には賛否両論があるけれど、僕はとてもいいと感じた。終わる時だって、こうやってあっけない。みんなが通過する普通の恋の駆け引きを、淡々と、時にアクロバティックに描く。ユミの人間としての自立する姿も含め共感の嵐を呼ぶ、2022年の圧倒的1位と呼べる作品だ。
2022年の韓国ドラマのトレンドとは
──こうして振り返った2022年の韓ドラであったが、改めて思う。本当に良作ぞろい!だと。「カーテンコール」のように王道の韓国ドラマ的なトーンの作品だけではなく、年々バラエティに富んできた。「サムバディ」が新たな韓国ノワールを開拓したので、2023年はダークに満ちたマイナー路線が増加すると予測。「シスターズ」や「39歳」など、2020年代の映画のキーワードとして外すことができない“シスターフッド”な切り口も引き続きトレンドになるではないだろうか。また、“ヒーリング”も重要なキーワード。心の憤りを感じる現代人を救うような、処方箋的なストーリーラインが好まれる傾向がある。「私の解放日誌」の淡々とした日々に喜びを見出せるようなメッセージや、「ユミの細胞たち」が放つ“普通の恋”“ 人間の自立”は、現代人のハートと呼応する。多様性賛美という意味で「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は誰も傷つけないピースフルな作品として、きっと今後も評価されるはずだ。2023年も、韓国ドラマが世界を牽引するはずなので、引き続き観逃せない。そして、再び……眠れない!