『ジェーン・フォンダのワークアウト』(1982)がVHSテープで発売されたのは今から40年前。この作品は当時の自宅トレーニングに革命をもたらし、社会現象を巻き起こした。軽快なエアロビクスの動きとともに、「Feel the burn!(脂肪の燃焼を感じて!)」と声をかけるジェーン・フォンダの姿は、今日も色褪せることはない。鮮やかなレオタードとレッグウォーマーを合わせたアイコニックなルックについて彼女は、「エクササイズの時間とその他の時間を区別して、よりメリハリをつけることができる」と、1981年に発売された同名の著書で述べている。
それ以来、オスカー俳優でありアクティビストである彼女は、動くことを止めない。「毎日、車から降りるとき、自分の鍛え上げられた太ももを見ながら、運動してきて本当に良かったと思うんです」
84歳の今もワークアウトを続け、フィットネスをより身近なものにすることに情熱を注いでいる。そしてこのスピリットに基づいて、体を動かすすべての人をスタイリッシュにサポートするH&M(エイチアンドエム)の新アクティブウェアコンセプト、「H&M Move」とのコラボレーションを発表した。
「“スポーツウェア”というより、“ムーブウェア”というコンセプトが気に入っています。ただスポーツのためのものではありません」とフォンダは強調する。「ヘルシーで力強くあるために、“動くこと”に焦点を当てているんです」。これは身体を動かすことと、年齢を重ねることについての考え方を変えたいというフォンダの想いと一致する。若さが優先される社会で、いつまでもバイタリティに満ち溢れる彼女は憧れの存在。とあるインタビューで、「60歳で老けることもできるし、85歳で若くなることもできる」と語った彼女は、その言葉を身をもって証明しているのだ。
そんなウェルネスを体現する彼女に、「H&M Move」とのコラボレーションに至った経緯、健康であることの大切さ、美しく年を重ねるための秘訣について話を聞いた。
ファストファッションに“プレッシャーをかけること”。
──まず始めに、このコラボレーションに至った経緯を教えてください。
「H&M Move」は、「世界中を動かす」ことにフォーカスしています。それは私が今までにやってきたことだから、自然と納得がいきました。何歳であろうと、誰であろうと、どこにいようと、その人の年齢に合った方法で動き続けることが、健康的な人生にとって不可欠であることは、若い頃よりもずっとよくわかっているから。
──気候変動アクティビストとして、あなたは新しい服を買わないと誓っていました。今回のコラボレーションに賛同した理由は?
私は4年前に「新しい服を買わない」と誓いを立て、それを守ってきました。私たちは消費主義に振り回され過ぎていると思うし、あまりにも多くのものを無駄にし、捨てていると思うんです。でも、ありとあらゆる正当な理由で服を買う人たちもいる。H&Mはデザインから生産、素材、出荷、パッケージング、取引先、工場で働く人々、それらを取り巻く環境など、サプライチェーン全体で地球にポジティブな影響を与えることに取り組んでいます。H&Mのような大企業がサーキュラーエコノミーを実現させること、ファストファッションにプレッシャーをかけることは重要。彼らがサステナブルなブランドになるために本当に努力していることを確信したとき、私はこのコラボレーションに同意しました。
H&Mは、2030年までに全素材の100%をリサイクルするか、持続可能な方法で調達し、2040年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いた、合計がゼロになること)にすることを目標としています。これはとても素晴らしいことだと思います。
「女性たちがエンパワーされていったことが嬉しかった」
──70〜80年代から、あなたはフィットネスアイコンでした。その後、トレーニングウェアはどのように進化してきたと思いますか?
私はバレエ出身なので、運動をするときはレッグウォーマーなど、バレエダンサーがするような格好をしていました。でも最近はレッグウォーマーをつけている人を見かけなくなりましたね。
──運動は若い頃から生活の一部だったと思います。そうなったきっかけを聞かせてください。
最初はバレエからでした。ニューヨークに住んでいた頃、ジャズダンサーのボーイフレンドがいて、彼はポール・テイラー・スクールで教えていたんです。彼のレッスンを何度も受けているうちに、ジャズダンスやモダンダンスは自分には向いていないことに気づきました。でも、スタジオの向かいでバレエのクラスがあったんです。そこで習い始めたら、はまってしまって。たちまち夢中になりました。自分の体が変わっていくのが感じられたんです。
それからほとんど毎日バレエを続けました。その後、マイケル・ダグラスと出演した『チャイナ・シンドローム』(1979)の撮影中に転んでしまい、足を骨折してしまった。しばらくはギブスをつけていました。その1ヶ月後には、ビキニを着る映画『カリフォルニア・スイート』(1978)の撮影が決まっていたので、とにかく何とかしなければならなかったのですが、バレエはできなかった。足がよくなってから、継母がレニ・カズデンという女性によるクラスを教えてくれたんです。何週間後に行ってみたら、それはバレエというよりはワークアウトで、すごく新鮮でした。そしてレニと私は、一緒にワークアウトスタジオを始めることにしたのですが、彼女は結婚して世界中を飛び回ることに。それでも私は一人で実行に移しました。そして、人々がワークアウトに取り組む姿に魅了されました。
ただ痩せたいという理由から始めた人も多くいましたが、「糖尿病でインスリンを打たなくなった」とか、「腕に筋肉がついて、初めて上司に立ち向かうことができた」とか、女性たちがエンパワーされていって、それがとても嬉しかった。
──あなたはエアロビクスや柔軟体操、ダンスをより身近なものにし、女性のためのフィットネスを広めてきた。なぜそれが重要だったのですか?
世の中には、ジムに通う余裕がなかったり、ジムにいることに気後れしてしまったり、小さな子どもがいるからジムに行けないという女性がたくさんいますよね。だから、自宅でトレーニングするというのは、そういった問題に対する答えだった。私は、自分が優秀なビジネスウーマンであると主張したい。世間がそういったものを望んでいることも知らずに作ったビデオが、その時代に適していたんですから。
カール・ビデオ社の創業者、スチュアート・カールの妻は、私の最初のワークアウト本を読んで、「これはビデオになる」と言ったそうです。カールはホームビデオの王者のような存在でしたが、私はビデオデッキが何であるかさえ知らなかったし、私の知る限り、当時は誰もビデオデッキを持っていなかった。だから無意味だと思ったんです。でも彼は、トレーニングビデオの試作品を持って私のところにやってきて、一緒にビデオを作ろうと話を持ちかけました。その必要性が理解できなくて、最初は断ったんです。でも、カールは何度も何度も訪ねてきました。しばらくしてこれは儲かるかもしれないと思い始めて、「よし、やってみよう」という気になった。ホテルの床で自分で脚本を書き、メイクも自分たちでやって、お金をかけずに作りました。運に任せるように作ったビデオですが、無事に発売され、ホームビデオの売上では歴代1位です。今でもその記録は破られていません。
「私がうつを回避する方法のひとつが、運動です」
──時に傑作は、こういったラフなアイデアから生み出されるんだと思います。
後のシリーズはもっとよくなったと思います。キャスティングには、人種、性別が多様であることがとても重要でした。男性もいれば、年配の人も若い人もいて、ワークアウトのビデオには常にそういう要素がありました。私はそれを誇りに思っています。
──フィットネスが身体的な健康にポジティブなインパクトをもたらすことはもちろんですが、精神面ではどうでしょうか? 特に今日のような状況の中で、ストレスの緩和とどのような関係があると思いますか?
私はうつ病に苦しむ家系に生まれました。私がうつを回避する方法のひとつが、運動です。身体を動かしたり、歩いたり、エクササイズをすると、憂うつな気分が晴れるんです。慢性的なうつ病となると別ですが、運動とアクティビズム、この2つこそが、私にとっての特効薬です。
スローダウンすることが今のモットー。
──運動以外で、ウェルネスのためにしていることは?
私にとって最も重要なのは睡眠。1日に8時間から9時間は寝ています。食事もヘルシーなものを心がけています。でも堅苦しくはないですよ。赤身肉はかなり減らしているし、魚の供給量が少なくなっているので、魚も減らしています。野菜をたくさん食べて、なんでも新鮮なものを摂るように。糖分は控えています。
『また、あなたとブッククラブで』続編の制作で2ヶ月半ほどイタリアに滞在していたのですが、その間だけは毎日ジェラートとパスタを食べていました。でも体重は増えなかった。暑さが厳しくなる前の朝6時に起きて、1時間、1時間半、時間が許せば2時間、歩いていました。よく歩くから、健康でいられる。私自身も若い頃は意識していなかったのですが、若い人たちの多くが、身体を丈夫に保つことの重要性を気にせず過ごしています。何もしなくても健康だし、それが当たり前だと思っている。でも、年齢を重ねるにつれて、その大切さがわかってきます。毎日、車から降りるとき、自分の鍛え上げられた太ももを見て、運動してきて本当に良かったと思うんです。車をバックさせるとき、首を回しても痛くないことに感謝しています。
若いうちは当たり前のことでも、年をとると体力と柔軟性がないとできなくなる。今の私のモットーは、スローダウンすること。すべてがとてもゆっくりです。ジミー・ファロンに「今、ワークアウトに使っている音楽は何ですか」と聞かれたとき、私はこう答えました。「今の私のワークアウトに使えるような、スローな音楽はない」と。
年齢を重ねることに対する新しい心構えとアプローチ。
──フィットネスだけでなく、アクティビストとしての活動、そしてドラマ「グレイス&フランキー」での仕事を通じて、あなたは年齢を重ねることに対する新しい心構えとアプローチを示してきました。それが人々にどう影響することを願っていますか?
まず、年をとることを怖がらないでほしいですね。大切なのは年齢ではなく、健康であること。私の父は、今の私より6歳若くして亡くなりました。父は心臓病を患って、とても老けて見えた。私はもうすぐ85歳になりますが、とても健康だし、それほど年をとっているようには見えません。何歳だからといって人生を諦める必要はない。楽しむこと、彼氏や彼女をつくること、新しい友人をつくること、やりたいことを諦める必要は一切ない、ということに気づいてもらいたい。まだまだたくさんの可能性があるから。
「グレイス&フランキー」(2015)は、人々に、特に女性に、たくさんの希望を届けてくれると思うんです。私がいつも自分の年齢を伝えるのは、それを実感してもらいたいから。私にはお金があって、トレーナーを雇ったり、整形する余裕もある。フェイシャルだってできる。若々しさを保つために必要なものも買える。確かに、お金は若々しくあるための助けになる。誰かが「良い遺伝子とたくさんのお金さえあれば」と言っていたけど、実際には裕福な女性の多くが、あらゆる種類のフェイスリフトなどをして、ひどい顔になっているのも事実。私もフェイスリフトはやりましたが、歪んだ顔になるのが嫌でやめました。決して誇りに思っているわけではありません。
今、もしやり直せるとしても、フェイスリフトをやるかどうかはわからない。でも、やってしまったんです。今はそれを認め、そしてただ、中毒になりうるものだと言い聞かせてる。やり続けるのはやめた方がいい。多くの女性が、なぜかわからないけど、中毒になっていると思うんです。私はフェイシャルもあまりやらない。フェイスクリームなどにお金をかけることはしないけど、保湿を怠らず、睡眠をしっかりとり、身体を動かし、日光に当たり過ぎないようにし、私を笑わせてくれる良い友人を持つようにしている。そう、笑うことはとても大切なんですよ。
Text: Lauren Valenti Adaptation: Motoko Fujita
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