コラボがもたらす果実。
ここ最近、ファッション業界のコラボレーション熱は、ますますヒートアップしているようだ。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)×シュプリーム(SUPREME)のコラボレーションを見てみよう。世界8都市で展開されたポップアップストアの商品は、オープンと同時に完売が続出、現在、ネットオークションで驚きの高値で取引されている。たとえば「eBay」では、赤のボストンバッグ「キーポル」が、なんと元値の6倍近い14,000ポンド(約200万円)で販売されているのだ。
ほかにも、あらゆるところで意外性の高いコラボが生まれている。 フェンディ(FENDI)×フィラ(FILA)、ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)×パレス(PALACE)、ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)×コンバース(CONVERSE)、バーバリー(BURBERRY)×ゴーシャ ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)……。ヴェトモン(VETEMENTS)にいたっては、同時多発的にさまざまなブランドと手を組んでいる。
コラボ熱は、業界のすみずみまで伝染している。例えばモンクレール(MONCLER)は今年2月、さまざまなデザイナーとのコラボレーションを中心に据えた新ラインをローンチした。デザイナーには、ヴァレンティノ(VALENTINO)のピエールパオロ・ピッチョーリから、シモーネ・ロシャ(SIMONE ROCHA)やクレイグ・グリーン(CRAIG GREEN)といったロンドンの気鋭デザイナー、日本からは藤原ヒロシとノワール・ケイニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)が名を連ねている。「ジーニアス」と名付けられたこのプロジェクトによって、同社は2018年上半期に、27%の増益を記録した。
トッズ(TOD'S)も同じようなアイデアを採用し、「トッズファクトリー」と名付けられた通年のカプセルコレクションを立ち上げた。第1弾では、アレッサンドロ・デラクアとのコラボレーションが発表されている。さらにバーバリー(BURBERRY)は、12月にヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)とのカプセルコレクションをローンチする。ギフト需要も高まるクリスマスシーズンは、コラボレーションにぴったりな機会なのだ。
H&Mの民主化政策?
限定コラボというアイデア自体は新しい取り組みではないが、ランウェイを主戦場にするデザイナーたちと、マスマーケット向けのアパレルリテーラーやスポーツウェアブランドとの間では、双方にとって非常に好都合なトレードオフが成立するのだ。
H&Mとファッションデザイナーとのコラボを考えてみてほしい。同社はこれまで、カール ラガーフェルド(KARL LAGARFELD)からメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)、コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)、ヴェルサーチェ(VERSACE)まで、高名なデザイナーやブランドとタッグを組んできた。同社が今年のコラボレーターとして白羽の矢を立てたのは、ジェレミー・スコット(JEREMY SCOTT)率いるモスキーノ(MOSCHINO)。ローンチ時には、ニューヨークでスターたちが集結するファッションショーを開催した。
コラボに込めたH&Mの意図は、通常は限られた人にしかアクセスできないランウェイファッションを、より広いオーディエンスに届けるという非常に民主的なものだ。同社のクリエイティブ・アドバイザーを務めるアン・ソフィー・ヨハンソンは、カール ラガーフェルドとのコラボシリーズ第1弾が即完売したときは、とても驚いたと振り返る。
「『コラボレーション』という言葉は、いまやファッション業界の日常語になりました。どのコラボレーションも、目的はブランドのエッセンスを抽出すること。デザイナーやブランドのDNAをしっかりと理解し、デザインを通じて反芻することで、世界中のカスタマーに届けることができるのです」
当初は、コラボ相手をビッグデザイナーに限っていた同社だが、2018年には形勢が一変、リーズナブルでクールなストリートウェアやスポーツウェアブランドが、より重宝されるようになった。
若手デザイナーのライフライン。
若手デザイナーたちにとってはどうだろう? マスマーケット向けのアパレルリテーラーとコラボすることは、彼らのビジネスの命綱ともいえる。ニューヨークでは、プラバル グルン(PRABAL GURUNG)やジェイソン ウー(JASON WU)、プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)がリテールチェーンのターゲットとチームアップし、ロンドンでは、クリストファー・ケイン(CHRISTOPHER KANE)やアシシュ(ASHISH)、ハウス オブ ホランド(HOUSE OF HOLLAND)、チャールズ・ジェフリー(CHARLES JEFFREY)といったスターブランドが、トップショップ(TOPSHOP)とタッグを組んだ。
ジョナサン・アンダーソンは、ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)とコンバース(CONVERSE)のコラボレーション発表に際して、あるインタビューで次のように述べていた。
「常に面白いことをしなくてはいけないし、決して勢いを失ってはいけない。そして、僕自身も変わり続けなくてはいけないんだ。そうじゃないと、ずっと同じものを作っていることになるから。かなりのエネルギーが必要だし、時には自分を根本から変えないといけないときもある。ブランドを進化させるために何をすべきか自らに問い続ける必要があるんだ」
ユニクロ(UNIQLO)からサンスペル(SUNSPEL)、トップショップ(TOPSHOP)、果てはダイエット コカ・コーラまで、ジョナサンは、これまでいくつものブランドとコラボしてきた。こうしたメジャーブランドとのコラボは、駆け出しのブランドが成長するためには欠かせない機会だと、彼は考えている。
「コンバースやユニクロは、僕に大きな目標をくれた。ジェイ ダブリュー アンダーソンを彼らみたいなユニバーサルブランドにしたいと思うけど、僕らには、あれほどの生産能力を手に入れることは難しいから」
「ブランド間のコラボレーションは、これからも続くでしょう。情報が氾濫する時代において、企業やブランドが自らの存在をユーザーたちに知らしめるための重要なマーケティングツールなのです」
こう話すのは、DMA UNITEDのCEO、マーク・ベックマンだ。同社はジェレミー・スコットやペプシ、NBAといったブランドとターゲット社とのコラボレーションを仕掛けた広告代理店だ。
リーマンショック以前は、デザイナーがマスマーケット向けのコラボレーションで得られる収入は、せいぜい20,000ドル(約230万円)程度だったという。しかしジェレミーによれば、いまでは1億円超えも珍しくない。しかも、その額は飛躍的に増加し続けているのだ。成功すれば、デザイナーにはブランド認知の大幅な向上と新しいオーディエンスへの露出、そしてもちろん、大きな収入が保証されるというわけだ。
モノが溢れる時代の成功の法則。
では、経営体力も名声もあるラグジュアリーブランドが、ほかのブランドからのコラボ依頼に頷く理由は、一体どこあるのだろう?
現在、ラグジュアリーブランドでは、クリエイティブ・ディレクターの椅子取り合戦が続いている。ブランドの命運を左右するクリエイティブ・ディレクターが、前代未聞のスピードで入れ替わっているのだ。そんな状況下で、コラボレーションは、ブランドにある種の安定を与えると同時に、シーズンにとらわれない新作発表を可能にするのだ。
投資会社であるEXANE BNP PARIBASでラグジュアリーグッズ部門長を務めるルカ・ソルカは、次のように分析する。
「コラボレーションは、ブランドが消費者に驚きをもたらし、興味を惹き、店舗への訪問を促すための重要な手段のひとつ。我々は、モノがあふれる時代に生きています。新商品や新店舗、新しいコミュニケーションによるサプライズは、この競争を勝ち抜くために不可欠です。ポップアップストアやコラボレーションの背景には、こうした事情があるのです」
間断なくコラボレーションを行っているオフホワイト(OFF-WHITE)が、巨大オンラインショッピングサイト「Lyst」による四半期レポート「Lyst Index」で「世界で最もホットなブランド」に選ばれたのも偶然ではない。そして、それを後押ししたのが、同ブランドのクリエイティブ・ディレクターであるヴァージル・アブローとナイキ(NIKE)のコラボレーションだ。とはいえ、ヴァージルは、イケア(IKEA)、リモワ(RIMOWA)、リーバイス(LEVI’S®)、ドクターマーチン(DR.MARTENS)、バレード(BYREDO)、ジミーチュウ(JIMMY CHOO)、キス(KITH)、モンクレール(MONCLER)、チャンピオン(CHAMPION)をはじめ、無数のブランドとコラボレーションを行っている。
かつて、過度なコラボレーションはブランド価値を希釈すると言われたが、いまではブランド強化の重要な手段だ。多数のコラボを成功に導いてきたヴァージルが、同じく長いコラボの歴史を持つルイ・ヴィトンのメンズ部門のアーティスティック・ディレクターに就任したことは、その十分な証左だろう。
Text: Osman Ahmed Translator: Asuka Kawanabe Photos: Getty Images