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「映画を通して何かを証明しようとしない」──社会的弱者に光を当てるダルデンヌ兄弟の作品を貫くものとは【50 SHADES OF ME】

映画を通してさまざまな社会問題に寄り添うベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟。最新作『トリとロキタ』(3月31日公開)は、アフリカからベルギーに移民としてやってきた“偽りの姉弟”少年トリと少女ロキタの強い絆と彼らを取り巻く残酷なまでの現実を、丁寧かつリアルに描き出す。
ダルデンヌ兄弟の作品を貫くものとは?──「映画を通して何かを証明しようとしない」【50 SHADES OF ME】

「常に弱者と強者が存在し、おそらくその差はさらに広がっている」

長編映画監督デビューから35年、ともに監督人生を歩んできた兄ジャン = ピエール(左)と弟リュック。

1 『トリとロキタ』の構想はどこからきたのでしょうか?
ジャン = ピエール(以下・JP) ヨーロッパでは同伴者のいない未成年の移民が、18歳になる前に数百人単位で消息不明になっている。子どもたちはビザの取得が不可能だと知ると、闇社会に足を踏み入れ、その多くが悲劇的な運命を辿ることになる、という記事から着想を得ました。この記事を読んで、私たちはそれに抵抗するために主人公二人の友情を描きたいと思ったのです。

2 本作をはじめ、お二人の作品では少年少女たちが重要な役を担うことが多いですが、キャスティングの際に最も大事にしていることは?
リュック(以下・L) 役を演じる上で、最も素晴らしい人を選出することです。今作ではトリ役は小さく痩せていてすばしっこい子どもを探していました。車の中に隠れるシーンがありましたから。一方、トリとのコントラストをとるために、ロキタ役は大きな子を探していました。

3 今作の結末は最初から決めていたのでしょうか?
JP 通常1〜2パターンは撮り、作品によっては何度か結末を変えたことはあります。ですが、今作は最初のシナリオの段階から結末は決めており、撮影中もそれを変えることはありませんでした。

4 作品を撮り始めてからこの35年間で社会が変わったと思うことは?
L 多々ありますが、とりわけ1989年に「子どもの権利条約」が締約されたこと。そして、現代における女性解放運動ともいえる#MeTooムーブメント。この2つが大きな変化だと思います。

5 逆に変わっていないと思うことは?
JP 常に弱者と強者が存在し、おそらくその差はさらに広がっていることです。

6 今作で伝えたかったメッセージは?
L メッセージではありませんが、この映画を観てくださる方には、主人公のトリとロキタに友情を感じていただきたい。残念ながら、まだ多くの方が今作に恐怖心や猜疑心を持たれているので。

7 子役には細かく演出するのか、あるいは自由にやらせてあげるのか? どういう撮影スタイルなのでしょうか?
JP その両方です。空間をどう動くかといった指示は出しますが、一方で彼らの演技に任せる部分もあります。

8 「上手な役者」とはどんな役者?
L 長所として演技を抑えることができる、与え過ぎない俳優です。それにより、観客は彼らの表情に集中することができるので。

ダルデンヌ兄弟が、映画監督として決してしないと決めていること

9 映画監督として大切にしている信念は?
JP 目標にしていることは、私たちが撮るものが可能な限りそこで生きていると感じてもらえるようにすること。映画の中で生命が息づいていることです。

10 映画監督として絶対にしないと決めていることは?
L 謙虚にならないといけません。映画を通して何かを証明しようとしないこと、空虚な意味のない画は作らない。ただ無駄にカットを埋めることはしないことです。

11 フィルモグラフィーの中で一番制作が大変だった作品は?
JP それぞれに難しさがあったので順番はつけられません。

12 劇中音楽を使用しないことも多いですが、日常では音があるのと静寂、どちらが好き?
L 両方好きです。音楽は沈黙とともに映画にリズムやメロディーを与えてくれますから。

13 どんな音楽が好きですか?
JP すべてのジャンルを聴きますが、最近はクラシック音楽が多いです。
L 私はクラシック、ソウル、ブルース、フォークです。

14 映画監督という仕事の最も気に入っている面は?
L リハーサルです。私たちは5週間かけてリハーサルを行い、その間に映画のリズムやカットを見つけるんです。

15 映画監督という仕事の最もつらい面は?
JP 何かが足りないとわかっていても、それが何なのかが見つからないとき。

16 仕事を楽しくしてくれるものは?
L 存在しなかったものを生み出し、それに命を吹き込めたとき。つまり映画そのものですね。

17 世界中どこででも撮影できるとなったら、どこの国で撮影をしてみたい?
JP 今のところ、物語が起こっている場所で撮影しているので特にありません。

18 仕事以外で好きな時間は?
JP&L 本を読んだり、映画を観ているときです。

互いの誕生日に贈りあうギフトは……

19 苦手なことは?
JP たくさんありますよ。
L でも、お互いに何かを強要されるのは苦手ですね。

20 一日はどのようにして始まりますか?
JP シャワーを浴びてからコーヒーを飲みます。
L 私はコーヒーを飲んでからシャワーを浴びます。

21 最高の休日の過ごし方は?
L 読書をして映画を観ること。
JP 私はそこに散歩も加えたい。毎日1時間は歩いています。

22 幼いころのケンカの記憶は?
L あまりケンカはしませんでしたね。

23 お互いに意見や考えが異なるときの解決法は?
JP 一緒に飲みに行きます。

24 仕事で後悔をしたことは?
L 今から30〜31年前の『あなたを想う』は出来が悪く、これだけは後悔しています。

25 お互いの誕生日はお祝いする?
L お互いに本と音楽CDをプレゼントします。

26 子どものころと比べて変化したと思うところは?
JP 欠点が日ごとに悪化していると感じています。
L 私も忍耐力が徐々になくなってきていますね。

27 初めてお金をもらった仕事は?
L 劇場で回る機械じかけの舞台を、舞台下から押し上げて舞台変更をする仕事です。
JP 学生時代のことですが、デザイン事務所で図面を分類する仕事です。

ダルデンヌ兄弟に響く、コメディ映画

28 最近観た作品で心に残っている映画は?
JP&L オードレイ・ディヴァン監督の『あのこと』。

29 好きなコメディ作品は?
JP エルンスト・ルビッチとビリー・ワイルダー監督作品。フランスのコメディ映画だったら、やはりルイ・ド・フュネスが出演している作品ですね。
L 私はウディ・アレン、とコーエン兄弟の作品が好きです。

30 笑い上戸なのはどちら?
JP 自己申告するのはちょっと怪しいですよね(笑)。

31 日本の映画ファンの印象は?
L 日本は歴史のある国で、他の国の映画監督が描けないような女性や子どもを主人公にした素晴らしい映画がたくさんあると思います。そうした映画に対する日本の映画ファンの意見や感想に興味があります。

32 好きな日本食は?
L 天ぷら。
JP 日本の天ぷらは上品でおいしいですからね。

33 一番好きな食べ物は?
L イタリア料理
JP 私はイタリアンと日本食です。

34 デザート派、それともお酒派?
L デザート。
JP ワインとデザートの両方派。

35 ベルギーで好きな街は?
JP リエージュ。
L スラン。

36 直したいと思う悪いクセは?
L 昔はヘビースモーカーでしたが、もう止めたので今はありません。

37 自身のスタイルではないけれど、撮ってみたいと思う作品は?
JP ミュージカル作品には興味があります。

38 人生の指針となった本や言葉は?
L 「生と死」という言葉。

39 二人にとって賞レースとは?
L 受賞すればうれしいですし、受賞できなければ残念というだけ。観客や批評家が私たちの映画を評価してくれることを望むだけです。

40 次作は始動していますか?
L はい。

お互いを一言で表現するなら?──「素晴らしい映像作家!」

41 映画業界にひとこと言うならば?
JP いい映画を作ることを心がけましょう。
L 興行的に成功するかどうかを考える前にいい映画を撮りましょう。いい映画を撮れば成功は後からついてくるはずです。

42 映画の素晴らしさとは?
L チャールズ・チャップリンが物語っています。

43 ベルギーと聞いて最初に連想するのは?
L 王様とパトリス・ルムンバのふたりです。ルムンバはコンゴ共和国の独立運動の指導者で、ベルギーの同意のもと暗殺された政治家です。

44 日本滞在中にやりたいことは?
JP 仕事で来ているのであまり考えていませんが、これまで仕事の合間に富士山に行ったり、京都に行ったりして、とても素晴らしい経験をさせていただきました。
L 成瀬巳喜男が描いた田舎が、今どのようになっているのか見てみたいですね。

45 幸せだと感じる瞬間は?
JP 映画作家としては一日の撮影を終え、その日の撮影で感情や視線、なにがしかのリズムを捉えることに成功したと思えたとき。

46 1年で一番好きな季節は?
JP 昔はどうでも良かったのですが、今は春が好きです。
 季節の変わり目が好きです。ただ冬の光や色は好きですが、寒さが苦手なので冬は好きではありません。

47 今、いちばん関心のあるニュースは?
L ウクライナでの戦争。つまりウラジミール・プーチンのウクライナ侵攻。そこで悲観に暮れるウクライナ人。そして2月27日に、イタリア南部カラブリア州沖地中海で移民を乗せた船が難破し子どもを含む59人の移民が死亡したことです(※63人という報道もあり)。

48 二人で監督することの最大のメリットは?
JP 一人で撮影をしたことがないので、比較ができません(笑)。

49 あなたにとっての宝物は?
JP 結局は二人とも健康で仕事ができることです。
L 私は新型コロナウイルスに感染してしまいましたが!

50 お互いをひと言で表現するなら?
L 素晴らしい映像作家。 JP 私もまったく同じことを言おうと思っていました(笑)。

トリとロキタ』 ジャン = ピエール&リュック・ダルデンヌ最新作 3月31日公開

Photos: Akihito Igarashi Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto