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2月22日の猫の日に考えたい、地域猫活動の意義

公園などで猫に餌をあげている人を見かけたことがあるだろうか? もしかしたらそれは、環境被害の解決に取り組む「地域猫活動」かもしれない。地域猫について正しく理解すべく、環境省の動物愛護管理室の担当者に話を聞いた。

Photo: imoppet / 123RF

「地域猫」と「ノラ猫」のどちらにも飼い主はいない。けれど、両者には大きな違いがある。ノラ猫は飼育責任の所在が不明確なのに対し、地域猫の場合は行政とボランティア団体、そして地域住民の三者協働で、「猫による人間への被害をなくす」という目的のもと、エサやトイレなどが適切に管理された上で地域で暮らしている。ノラ猫によるふん尿の被害や鳴き声などを“地域の環境問題”として捉え、皆で解決していくための取り組みは、1999年ごろから始まった。

地域猫活動のポイントは、TNR+猫のマネジメントが行われること

もともとは、害獣駆除のために外に放った人間の行為によって生まれたノラ猫。猫は繁殖力が強く、1匹のメスが3年後には2000頭以上に増えるという試算もあるほどで、ノラ猫によるトラブルに悩まされているケースも多い。令和2年度には1万9705匹の猫が殺処分されており、犬猫の殺処分数は10年前に比べると10分の1に減ったものの、まだ多くの尊い命が奪われてしまっている。でも、命を絶つ前に、人間への被害を猫に配慮しながら対応する方法はあるはずだ。そんな中、猫の保護や譲渡、地域猫活動などは近年各地で、積極的に行われている。

地域猫活動の出発点とも言えるのが、猫のさらなる繁殖を防ぐための「TNR(=「Trap・捕獲」「Neuter・不妊手術」「Return・戻す」)」と呼ばれる活動だ。ノラ猫による環境被害が保険衛生局や動物愛護局に報告されると、ボランティア団体や獣医師会等の協力のもと、猫は一度捕獲され不妊手術を受ける(この流れは地域や事例によって異なる)。その際に、「さくら耳」とも呼ばれる耳先にV字のカットマークを施されることが多く、これは不妊手術が行われた重要な目印のひとつ。そしてその後、猫はもともと暮らしていた場所に戻される。だがここで終わらないのが、地域猫活動のポイントだ。

地域猫活動では、地域の人たちが決まった時間や場所での餌やりやトイレの設置、そして清掃が継続的に行われる。そうすることで、猫の頭数や健康状態を把握することができ、猫による地域の環境被害を減らすことにつながっていく。それと同時に、猫は一代の命を全うできる。人間と猫が互いにwin-winになる環境整備というのが地域猫活動の大前提といえる。

地域猫活動を成功させる秘訣とは?

Photo: Aflo

環境省も、猫による地域の被害を少なくしていく解決方法のひとつとして地域猫活動を挙げ、自治体によっては手術費用の助成金を設けるといった、活動を支援する動きが全国に広がっている。環境省自然環境局総務課動物愛護管理室の担当者によると、愛護団体(愛護家)や猫による被害に遭っている人、地域を所管する自治体などさまざまな人が関わる中で、「関係者間のゴールの統一化」が地域猫活動を円滑に行っていく秘訣だと言う。

「地域猫活動は、行政やボランティア団体、住民などの一部分が主体的に関わるだけでは成功することは難しいのです。例えば、動物愛護団体、餌をあげている方、被害に遭われている方、コミュニティをまとめている自治会や自治体など、さまざまな人が関わり、ルールを決めて問題を解決していくことが大切です。猫に幸せになってほしい、ふん尿被害をやめさせたいなど、それぞれが異なるアプローチをするのではなく、大前提として『猫による人間への環境被害を減らす』というゴールの共通認識のもと、猫も人も幸せに暮らしていけるような方法を考えていく必要があります。

例えば、地域猫活動に取り組む東京都の新宿区などでは、行政や民間団体が共同して取り組んでいるだけでなく、猫の被害にあっている方も、なんとかしたいという思いから活動に関わってくださっている事例もあると聞いています。また、こういった地道な活動を根気強く続けていくことも大切です」

地域猫への餌やりのマナーや、活動への誤解を招かないために

Photo: Aflo

十分な理解が得られていないと、「迷惑行為」として誤解される現状があるのも事実。猫に餌を与えると、他の野良猫を呼び寄せてしまうのではないかと感じる人もいるかもしれない。

だが、練馬区がHPで公開している地域猫活動のガイドラインによると、餌やりを禁止したところで、テリトリーを重んじる習性から猫は地域に留まり、ゴミを漁るなどの二次被害が起こってしまうのだという。一方で、把握している地域猫に、決まった時間と場所に餌を与え、食べたことを確認した後に餌を片付けることを徹底すると、地域猫はその特定の時間に現れるようになり、近隣地域から猫が集まることを防ぐことにもつながる。

練馬区をはじめ、地域猫活動を支援する自治体のガイドラインでは、去勢・不妊手術費用の助成から、餌やりのマナー、猫による被害対策や地域への周知方法までを紹介しているので、地域猫活動への参加有無に限らず、ぜひ参考にチェックしてみてほしい。最後に、前述の環境省担当者は、地域猫活動に取り組む人々への敬意を表しつつ、より多くの人に活動への正しい理解を深めてほしいと語った。

「TNRだけでなく、人への被害を減らすために猫のマネジメントをきちんとすることまでが地域猫活動です。『TNRさえすれば野良猫に餌をあげることはいいことだ』であるとか、『地域猫活動は猫好きが自分たちの都合でやっているだけの活動だ』など、間違った解釈や誤解は課題と思われます。一方で、行政による猫の引取り数や殺処分数は減少傾向にあり、その要因の一つとしてこのような多くの人の地道な努力も挙げられるでしょう」

Text: Mina Oba