『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』
フォトショップが存在しなかった時代、メイクをフォトショップ代わりに、多くの人たちの美を引き出した伝説のメイクアップ・アーティストがケヴィン・オークインだ。本作は1990年代に大活躍しながらも、2002年に40歳の若さでこの世に別れを告げた天才が、メイクを通してそれぞれの個性を鮮やかに照らす姿を追いかける。驚くべきは、今、声高に謳われている「多様性」を彼は30 年前に強く意識し、美の固定観念を打ち破ろうとしていた点だ。シェール、ブルック・シールズ、ケイト・モスなど錚々たる面々が彼と彼のメイクの魔法の思い出を語ろうと本作に登場している事実からも、ケヴィンの存在の大きさがうかがえる。
『ワンダー・ボーイ』
弱冠25歳でバルマン(BALMAIN)のクリエイティブ・ディレクターに就任し、セレブとの華やかな交流でも知られるオリヴィエ・ルスタンのドキュメンタリー。華やかな世界に身を置く彼だが、実は生まれてすぐに養子に出されたため、生みの親を知らない。わかっているのは自分が生まれたとき、母親は15歳、父親は25歳だったこと程度。人種がミックスされていることが明白な肌の色をも含め、自身のルーツとアイデンティティを探そうと模索する。ファッション界での成功とは裏腹に、時折見え隠れするルスタンの孤独な胸の内が印象的だ。一方で、どこで生まれようと、自分の道は自分で選べるんだという強いメッセージを感じさせる。
『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』
ココ・シャネルがクチュールの女王だとしたら、マリー・クワントはストリートスタイルの女王だろう。着たい服がないからと、自らミニスカートをデザインして販売したところ、あっという間に社会現象に。1960年代に世界を席巻したスウィンギング・ロンドンムーブメントの立役者となったファッションの寵児の半生が軽快に語られる。ファッショニスタとしても活躍する女優サディ・フロストの初監督作品でもある。ホットパンツ、タイツ、メイクパレットなど、画期的なアイテムを次々と商品化したクワントのクリエイティビティと、それを支えた最愛の夫とのパートナーシップ、ブランドと日本との深い関係を知ることもできる。
Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto
