ついこないだまで赤ちゃんだった私の息子は、もう5歳になる。ニンジンを切ったり、カブトムシの種類を覚えたり、靴のマジックテープを自分でとめられるようになった。
私はこれまでに、この終わりのないワイルドな日常について、130以上のコラムを書いてきた。それでもまだ、言いたいことがたくさんある。なぜなら、やるべきことがたくさんあるからだ。また同時に、楽しんだり、憤慨したり、学ぶこともある。そして、何を学ぶかは人それぞれ。生みの親なのか、養親、ひとり親なのかはもちろん、専業主婦または主夫、共働きなのか、高齢出産だったのか、双子の親なのか、流産の経験があるのか、障がいを持っているかなど、多様な背景によって全く違ってくるだろう。
これらのうちのいくつかを経験してきた私は、自分の物語を人に伝えようとするだけでなく、自分自身で理解するために執筆を続けてきた。子育て真っ只中の私が、数えきれないほどの洗濯や癇癪、それから愛に溢れたキスから学んだことを、ここに記したいと思う。
1. 初めての「言葉」がもたらす、想像を超える喜び
息子が「もっとパンをちょうだい」と言えるようになった日、私の母親としての気持ちは大きく変わった。息子が1歳半のときに故郷ロンドンへと引っ越し、テムズ川沿いを歩いているときだった。まるで太陽が顔を出したかのように気分が明るくなったのを覚えている。そこには、ただの小さな赤ちゃんではなく、一人の“友だち”がいたのだ。一緒に話をすることができる人。自分の要求を伝えることができる人。私を笑わせ、怒っている理由を説明し、「なんでママは玉ねぎみたいな匂いがするの?」とか、信じられない質問をしてくる人。
もちろん、言葉を習得できない子どももいる。ある子がサンドイッチをひとりで持てるようになるまでに、3カ国語を習得する子もいる。そういった子どもたちの親になることがどのようなことなのか、私にはわからない。でも、息子が「ポテト、ママ、大好きだよ」と言うのを聞くと、胸が張り裂けそうになり、涙がこぼれそうなほど幸せな気持ちになることは知っている。
2. 床に落ちているものを食べさせるかどうかに、ポリシーを持つ必要はない
だって、止めようがないから。
3. パートナーとの価値観の違いを埋めていく
私はひとり親でもなければ、オープンリレーションシップを持っているわけでもない。私が知っているのは、子どものもう一人の親と関係を持つということは、何年も、いや、一生、衝突と妥協の連続だということ。子どもを持つことで、今までとは異なるアプローチが必然的に必要になるのだ。
例えば、片方はおもちゃが散在していても気にならなくても、もう片方は散らかってると不満をこぼすかもしれない。片方は添い寝を好み、もう片方は危険だと思うかもしれない。子どもを増やしたいか、いつ欲しいのか、意見が食い違うかも知れない。育児のこと、お金のこと、食事のこと、哺乳瓶のこと、薬やワクチンのこと、どんなアニメを見せるかでも議論に発展するかもしれない。疲れが出るタイミングはいつも一緒なわけではないから、赤ちゃんが寝静まっている間に掃除や料理をする人もいれば、ここぞとばかりに横になって体を休める人もいる。
パートナーとの関係を子育てと切り離して、二人の時間を作ることが大切だ。たとえそれが、1日のうち1分だけ相手の目を見て話す時間を取るということであっても。そして、子どもたちを喧嘩の仲裁役や武器にしないこと。
4. 赤ちゃんの匂いは永遠ではない
子どもが3歳になり、自分でファスナーの上げ下げができるようになる頃。ある日、クローゼットやバッグ、箱の中から、もう着られなくなったベビー服を見つけることになる。そして突然、あの小さな赤ちゃんが、もうそこにはいないという事実に圧倒される瞬間がやってくるのだ。赤ちゃんだったときの重さや、胸に当たる感触を思い出すかもしれない。おむつ替えマットやベビークリーム、小さな帽子、繰り返し口ずさんでいた子守唄を懐かしむかもしれない。そのベビー服に顔をうずめると、みんなが口を揃えて話していた“赤ちゃんの匂い”がわかるかもしれない。
5. 人前で歌うことを恥じないこと
実は、これはかなり避けられないことだ。2年間、ありとあらゆるプレイグループや児童館に通ってきた私は、今では大勢の人がいる部屋で「きらきら星」や「ゆかいな牧場」を口ずさめるが、周囲に聞こえているのではないかという不安はこれっぽっちもない。幼児との生活は、カラオケバーにいるようなもの。ただし、いつもしらふで、誰かが一杯奢ってくれるわけではない。
6. 経験したことのない孤独を感じた時には
孤独があなたを脆くするときもあるだろう。誰にも話してはいけないことだとさえ思えてくるかもしれない。でも、その孤独は、必要だとも感じられる。私が自分のコラムで疎外感を抱えていることや、周りとずれているように感じていること、混乱していたり、落ち込んでいることを綴ると、共感の声が多く寄せられた。誰もが私の言っていることを理解できて、誰かがそれを打ち明かすのを聞きたいと切望しているようだった。
こういった気持ちを打ち明けるたびに、私は安堵のため息をついてしまう。なぜなら、他の誰かが同じことを感じていると知ることで、少し気持ちが楽になるから。心を開くと、そこに共感が生まれる。そしてこの共感は、孤独の反対語のように感じられる。
7. 持つべきは重曹
得体の知れない液体、漏れ、飛び散り、シミなど、ほとんどの汚れに効くのはなんといっても重曹。染み込ませて洗い流すだけ。重曹はおしっこにも嘔吐物にも効果抜群。ちなみに、その両方にたくさん出くわすことになる。
8. 児童館は地球上で最も美しい場所
カラフルな部屋に、たくさんのおもちゃ、本や楽器、室内用の遊具など。私は児童館で最もサイケデリックで、最も美しく、最も絶望的な時間を過ごしてきた。この場所にこそ、私の税金をつぎ込みたいと思っている。すべての新米親に、私がそうであったように、さまざまな背景を持つ親たちと出合い、子どもたちが安全に遊べる暖かい部屋へのアクセスがあってほしい。誰もがコミュニティを見つけることができて、安心して子育てができるようになってほしい。私は、公的資金をここに投入してほしいと強く願う。
9. 睡眠不足はフェミニズムの問題である
睡眠不足は、健康上、衛生上、安全性の問題だ。極度の寝不足から誤って壁にぶつかったり、冷凍庫にわけのわからないものを入れたり、鍵を忘れて外出したり、夢と現実がごっちゃになってしまったり……。とにかくこの問題は、育児休暇の義務化、子持ちに優しい職場文化、女性の健康を男性と同じように真剣に考えること、家事労働の仕事としての認識が広まることによって、解決されるような気がしてならない。
10. 唯一不変なるものは変化なり
赤ちゃんが疲れているときのパターンや、何を食べるかがわかってきた? ルーティーンができた? 彼らのことを理解できるようになったと思う? コツを掴んできたからといって、甘んずることなかれ。せいぜい限られた今を十分に楽しむこと。なぜなら、それは長続きしないから。今のあなたの人生における唯一の絶対的な不変要素は、“変化”にある。すべてが変わっていくし、これからもずっと変わり続ける。
11. 子育てはもっと楽になるはず
子育てはもっと楽になるはずだと思えてならない。国営化された無料保育、保育従事者の賃金の見直し、アフォーダブル住宅、親が使用するための公共空間の再生、食費の補助、子育ては仕事であるという認識、メンタルヘルス支援、赤ちゃん連れの人々のための公共交通の無料化、緑地へのアクセス、産後クラス、柔軟な労働環境、児童センター、レジャーセンター、図書館、博物館への資金提供、国費による夜間看護、建物や交通機関でのベビーカーと車椅子へのアクセス、広告やパッケージにおける多様性を反映したイメージ……。
もし私たちが子を持つすべての親たちのために世の中を改善するなら、他の多くの人たちにとっても改善されることになるはずだ。だから今こそ、口で言うだけでなく、実際の行動に移そう。利益よりも人々を優先しよう。そして、ともに学び続けよう。
Text: Nell Frizzell Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK