90年代のミニマリズムを象徴するスタイルアイコンのひとり、キャロリン・ベセット=ケネディのジュエリーコレクションは、決して華美なものではなかった。1995年にケネディ元大統領の長男であるジョン・F・ケネディ・ジュニアがキャロリンにプロポーズしたとき、彼女らしいシンプルな婚約指輪を選んだのにも納得がいく。
アメリカのジャーナリストのキャロル・ラジウィルによる著書『What Remains』によれば、ジョンは母ジャクリーン・ケネディが「スイミング・リング」と呼んでいたゴールドとエメラルドのバンドリングにインスピレーションを得たという。キャロリンは当時、プラチナバンドにラウンドカットのサファイアとダイヤモンドをあしらった婚約指輪について「(ジョンの)母親がつけていた指輪のコピー」と語っていたそうだ。
着想源は謎に包まれたまま
この「スイミング・リング」は、宝石商で長年の友人であったモーリス・テンペルスマンから贈られたとされているが、キャロリンの指輪はジャクリーンが所有していた「シュランバージェ 16 ストーン」リングだったという説もある。テンペルスマンがキャロリンの指輪のデザインも手伝ったと考えられているが、宝石史家でファインジュエリーマガジンのジ・アドベンチュリン創設者であるマリオン・ファゼルは、「どちらがジャクリーンの『スイミング・リング』だったかは断言できません」と話す。
しかし、この指輪が彼女らしさを完璧に体現していることは明らかだ。2.84カラットのエメラルドと2.88カラットのダイヤモンドをあしらった、義母ジャクリーンのヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)によるまばゆいばかりのエンゲージメントリングと比較すれば、このリングが彼女のスタイルにぴったりであることがわかるだろう。「キャロリンのエンゲージメントリングは、その時代のミニマリズムを象徴するものでした」とファゼルは続ける。「まさに控えめなエレガンスだったのです」
90年代を象徴するミニマリズム
エンゲージメントリングとしてエタニティリングを纏ったミューズは、キャロリンだけではない。1950年代には、オードリー・ヘプバーンがメル・フェラーからバゲットカットのダイヤモンドバンドを贈られており、最近では映画監督のソフィア・コッポラが、夫のトーマス・マーズから贈られたカルティエ(CARTIER)のデザインを身に着けている。「エタニティリングは身につけやすく、モダンで美しいのに、あまり人気がないのが不思議です」とファゼル。「ソリテールリングに代わる素晴らしい選択肢でありながら、定番ではないのです」
キャロリンの婚約指輪は至ってシンプルだが、この先も花嫁たちのインスピレーションの源となることは間違いない。「キャロリンの人生とジョン・ケネディとのロマンスは、神秘的な魅力に包まれています」とUK版『VOGUE』のジュエリーディレクター、レイチェル・ガラハンは言う。「そしてそれは、彼女らしいミニマルなリングについても同じことが言えると思います」
Text: Emily Chan Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK