BEAUTY / EXPERT

アギネス・ディーン(42)、ランウェイに復帰したスーパーモデルが語る、アイコニックなルックに宿る永遠のスピリット

澄んだブルーの瞳、輝くプラチナブロンドのショートヘア、そして透明感あふれるアンドロジナスなルック。無二のスタイルでY2Kのトップモデルとして世界を一世風靡したアギネス・ディーンが2024-25年秋冬シーズンにバーバリーのコレクションでランウェイに帰ってきた。そんな彼女が明かした、アイコニックなルックの確立とモデルとしての成功の裏にあった成長とスピリットとは。
アギネス・ディーン、ランウェイに復帰したスーパーモデルが語る、アイコニックなルックに宿る永遠のスピリット
Photo: Neil Mockford/Getty Images

「最近友人から“絶対似合う”と言われて髪をブルーに染めてみたのですが、私自身は全然似合っていると思いませんでした(笑)。今はもう突拍子もない色に髪を染めるのはあまり好きではないので、ナチュラルなままにしています」

2024年、『Glamsquad magazine』にこう語ったアギネス・ディーンは、プラチナブロンドのショートヘアとアンドロジナスなルックで世界を魅了したY2Kを代表するスーパーモデルだ。1983年2月16日、本名ローラ・ミシェル・ホリンズとしてイギリス・グレーターマンチェスターのリトルボローで生まれた彼女は、敬虔なローマ・カトリック教徒の両親のもと、ランカシャーのオールセインツ・ローマカトリック・ハイスクールで教育を受け、優秀な成績で卒業した。

13歳の時から地元のフィッシュ・アンド・チップス店でアルバイトに励み、ティーンのころから独自のスタイルを模索し始め「13歳のときからショートヘアで、17歳のときはスキンヘッドにしていた」という彼女に転機が訪れたのが 1999年。16歳のときに地元「ロッセンデール・フリー・プレス」のコンテストで優勝し、直後にロンドンでデザイナーのヘンリー・ホランドショッピングをしていたところを大手モデルエージェンシー「Models 1」のエージェントに見出されたときだった。直後に同事務所と契約した彼女は直後からビッグメゾンのランウェイに登場し、UK版とイタリア版『VOGUE』のカバーを飾るなど、瞬く間に世界のスーパーモデルへと変貌。さらに映画『タイタンの戦い』(2010)で俳優デビューを果たす一方、リアーナの「We Found Love」(2011)のイントロにボーカルで参加するなど音楽シーンにも進出し、活躍の幅を広げていった。そんな彼女は、16歳でモデルにスカウトされた理由が“ショートヘアの中性的なルック”だったことや、デビュー当時のことについてのちにこう明かしている。

バズカットやショートカットで個性派モデルとして世界に名を馳せたのち2012年に結婚。モデル業を引退を発表した。

Photo: Patrick McMullan/Getty Images

「スキンヘッドはメンテナンスがとても楽。髪を洗っても、ヘアドライヤーもブラシは必要ありません。それに、強い個性を演出したり、モデルとしても反逆的なスタイルにはスキンヘッドは最適ですが、どうしてもフェミニンなドレスなどの場合は表現に限界があるのは仕方ありません。今でこそランウェイをスムースに歩いてますが、デビュー当時は、それこそ、“転ばないで、転ばないで、転ばないで”とまるで呪文のように心の中で唱えながら歩いたものです(笑)」

ルックに大きな影響を及ぼした時代の空気

そんな彼女が生まれる1年前の1982年、地元マンチェスターではおりしもマドンナがデビュー曲「Holiday」をパフォーマンスした伝説のクラブ「ハシエンダ」がオープンし、ここを中心にクラブ&レイカルチャーが全盛期を迎え、そのパワフルなエネルギーが世界中を包んでいた。そしてファッション界では、スーパーモデルたちがパリやロンドンを飛び回り、シャネルなどのハイファッションのランウェイを“はしご”する一方で、ケイト・モスに象徴されるグランジムーブメントがカウンターパートとして台頭し、多様化が加速していったときだった。そんな時代の空気を吸いながら成長したアギネスもまた、モデルとしてデビューしてからアンチ・グラマーの象徴としてランウェイを闊歩するかたわら、インディーズバンドのフロントマンとデートを重ねるなど、エネルギッシュな時代のムードを謳歌していたという。

2008年、米ニューヨーク市内のクラブ「The Plumm」にゲストDJとして登場。当時、スーパーモデルとして絶頂期を迎え、プライベートでは私服のスナップがよくキャッチされていた。

Photo: Jemal Countess/WireImage/Getty Images

「モデルとして17歳から世界を探検してきましたが、特に20代のころは本当に楽しかった。初めてニューヨークに行って、さまざまなクリエイターと繋がりを持ったのもこのころです。当時はレストランで知らない人が、私に知らない人の名前を書いたナプキンを差し出して「君モデルでしょ?この人に絶対会った方がいいよ」と勧めてくれることもしょっちゅう。そんな楽しい時代でした」

そうしてクリエイターたちと知り合う中で、クリエイションにより強い興味を抱くようになったという彼女は、2010年に子どものころから愛用していたというシューズブランド、ドクターマーチンのデビューコレクションをリリース。同ブランドのアイコンであるモデル「ジェイドン」に彼女らしいアレンジを加え、より進化したそのコレクションは大きな話題となった。

“美は内面に宿る”の真意

「私が子どものころ、ドクターマーチンはイギリスの若者の定番でした。子どもにはとても高価だったから、皆ボロボロになるまで履いて、それでも壊れたらガムテープでまた修理して履いていたものです。特にこだわっていたのが新品を履き潰して“こなれ感”を出すこと。新品のドクターマーチンはクールじゃないから、ヘヴィメタルが大好きだった姉にコンサートに行くときに貸して、良い感じで履き潰す手伝いをしてもらっていました(笑)」

バーバリー 2024-25年秋冬コレクションより。セミロングヘアになり、ぐっと落ち着きのある大人の魅力を醸し出して。

Photo: Joe Maher/Getty Images

華やかなりしスーパーモデル生活を経て、現在はニューヨーク郊外の田園地帯で夫と3人の子どもとともに静かな生活を送っているアギネスは、新型コロナウィルスのパンデミック発生以降にこの地に移り住んだ。そんな彼女にとって、日々多くの人の命を奪ったパンデミックは、今この瞬間を全力で生きることの大切さと、今しか感じられない喜びを経験できることの素晴らしさを痛感させられた人生のターニングポイントになったという。

「振り返ってみると、私は常に何かを理解しようとしたり、何らかの方法で自分を表現しようと模索していたように感じます。人生は、どんな服を着るか、どんな音楽を聴くか、そしてどの本を読むかを選ぶかといった選択の繰り返しで、それらが人格を形成します。私が(モデルになってから)求められたスタイルは、“エフォートレス”さ──言い換えれば、“服に大金を注ぎ込むのはかっこ悪い”というスタイルでした。その空気感を自然に表現できたのは、お気に入りの靴は直して履き続けるなどの小さな決断の積み重ねてきた末の成長というがあったから。私にとって美しさとは、決して一夜にしてつくられるものではなく、日々の積み重ねの賜物を意味していますから」

参考文献:
https://glamsquadmagazine.com/fashion-interview-agyness-deyn-speaks-on-how-she-has-mellowed-out/
https://www.lancashiretelegraph.co.uk/news/2089195.agyness-dressed-thrill/
https://www.dailymail.co.uk/femail/article-2102079/Agyness-Deyn-ugly-days-Model-reveals-doesnt-feel-super-says-felt-best-skinhead.html
https://www.theguardian.com/artanddesign/2015/feb/20/thats-me-in-picture-david-connor-madonna-hacienda-manchester
https://web.archive.org/web/20110615193027/http://women.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/women/beauty/article1532993.ece
https://web.archive.org/web/20110611161915/http://www.vogue.co.uk/biographies/080422-agyness-deyn-biography.aspx
https://web.archive.org/web/20100502012807/http://www.telegraph.co.uk/fashion/fashionnews/7646770/Agyness-Deyn-and-sister-Emily-collaborate-on-a-T-shirt-range-for-Uniqlo.html
https://glamsquadmagazine.com/fashion-interview-agyness-deyn-speaks-on-how-she-has-mellowed-out/
https://www.dazeddigital.com/fashion/article/60722/1/agyness-deyn-is-back-indie-sleaze-dr-martens