太陽の恵みと再生可能エネルギーで育てる大規模栽培
根が付いたままパッケージングされた3種のリーフレタスは、包丁を入れる寸前まで新鮮そのもの。ワンカットでそのまま盛り付けでき、小型で甘いカラフルなフルーツパプリカを散らせば見栄えの良いサラダが完成する手軽さも魅力だ。皮が柔らかくジューシーなプラムトマトは、サラダのみならず、日中のおやつにも取り入れられる。
これらの野菜を生産しているのが、岡山県笠岡市の干拓地に構えたアジア最大級の栽培施設「サラファーム笠岡」を運営するSARA(サラ)。オランダの最先端の施設園芸テクノロジーを取り入れた農法と、自社のバイオマス発電プラントでつくる再生可能エネルギーにより、安心して食べられる野菜の大規模栽培を行っている。
創業者でありCEOの小林健伸は、岡山生まれ。岡山県笠岡市には、人口増加の時代に食糧生産を目的に整備された広い干拓地と、「晴れの国 岡山」と呼ばれるほどのふんだんな日射量がある。小林はかつてオランダ視察で効率的かつ安全性の高いスマート農業に出合い、地元産業の活性化にも貢献できるこのアグリビジネスを仲間とともに2016年に立ち上げた。安心して食べられる環境負荷の少ない野菜づくりを試行錯誤し、2019年から出荷を開始している。
“循環”を鍵に、カーボンニュートラルなハウス栽培を実現
SARAの農法では、豊富な太陽光が行き届くハウス内で、有機素材の培地に苗を植え、生育に応じてバランスよく整えた養液を与えて野菜を育てる。野菜が吸収しきれなかった養液は、環境汚染を防ぐため菜園の外に流さず、浄化したのち再び培地に循環させている。受粉はハウス内に放したマルハナバチの力を借り、病害虫対策もIPM(天敵駆除など農薬だけに頼らない総合的病害虫管理)の考え方に基づき、農薬の使用を極小まで抑えて人の健康と環境に配慮した野菜づくりを徹底している。
そして施設に必要な電力は、すべて自社のバイオマス発電プラントで賄っている。国内の廃材や間伐材の木質チップに加え、東南アジアで産業廃棄物となっているパーム油の搾り殻を燃焼させてタービンを回す。燃焼過程で出るCO2は不純物を取り除いてからハウス内に送り込み、CO2濃度を高くすることで野菜の光合成を活性化し、病気にも強い野菜を育てる。石油などの化石燃料に頼らないこの方法なら自然界にあるCO2量を上回らないカーボンニュートラルな農業が可能だ。
地産地消のノウハウを世界へ
環境負荷の低く、安全性の高い野菜をできるだけ多くの人々に届けるため、「スマートプライス」と称する安価ではないが高額すぎない価格設定を行っているのも、SARAの特徴だ。「農業はつくり手だけでも成立しない」とマーケティング担当の林義隆は語る。
「農業を取り巻く環境は厳しく、つくり手が減少し国産が細る中で、生産者を守ることは確かに重要です。しかし私たちは、つくる人・届ける人・食べる人すべてがサステナブルな関係で結ばれた、互いが持続可能となる強靭な農業ビジネスの確立を目指したいと考えています」
SARAでは自社の生産・流通を充実させる一方で、賛同する他地域の生産者と提携し、ノウハウや種苗を提供して、できた作物をSARAブランドとして買取り販売する栽培ネットワークの構築も進めている。いずれは国を超えてノウハウを共有し、世界の誰もが環境にやさしく安全な野菜を食べられる未来を描いているのだ。日々の食卓のサラダから、食の安全や日本の農業の未来、そして世界の食糧危機にも貢献していく農業ビジネスを応援したい。
Text: Maiko Morita Special Thanks: Emi Sugiyama Editor: Mina Oba