LIFESTYLE / GOURMET

自然の叡智から学び、生きる力を育むコミュニティオンラインサロン「原点回帰」が教えてくれること【サーキュラーキッチン】

食を巡る課題を探り、よりサーキュラーで持続可能な食文化をつくりたい──そんな思いをともにするFOOD LOSS BANK共同創設者で料理家の杉山絵美を講師に迎えた本連載。今回は、山田孝之らが立ち上げたコミュニティオンラインサロン「原点回帰」に、自給自足の真の意義を学ぶ。

子どもたちの声が畑に響く、無農薬無肥料の野菜づくり

原点回帰の帰長、山田孝之。Photo: 近秀幸

気候変動の影響や世界的な人口増加により、近い将来、高い確率で到来すると言われている食糧危機。食料自給率40%未満農業従事者の70%が65歳以上という日本のリスクを直視し、2020年4月に発足したのが山田孝之を“帰長”とする「原点回帰」のコミュニティオンラインサロンだ。自然農法をはじめ、釣りや炭焼き、塩づくり、醤油や酢の醸造など多様な分野のスペシャリストに学び、自給自足につながる知恵と技術を身につけるフィールド活動を展開している。いずれは無人島を開拓し、メンバーでそこに住むことも計画中だ。

原点回帰の最初の畑は、富士山を眼前に見渡せる、山梨県のとある耕作放棄地から始まった。無農薬無肥料にこだわり、吉田俊道a.k.a.“菌ちゃん先生”に教わった竹炭による土壌改良と土中の微生物を育む農法によって、安全かつ虫や病気も寄せ付けないほど抗酸化力に優れた滋味溢れる野菜づくりに成功した。今では、同様の農法で各地の耕作放棄地を整え、国内14カ所の農地で野菜づくりを行なっている。除草や殺虫の手間がかからない上に、畑の土壌が年々豊かになるため、連作障害どころか作物の収穫量も品質も徐々に向上しているという。

作付けや収穫の時期になると、原点回帰のメンバーが集まり、畑には子どもたちの賑やかな声が響く。古き良き時代の日本の姿がまるで戻ったかのような光景は人々の心を癒し、その地で昔から畑をしていた近隣の農家との関わりも増え、自然農法の輪も広がっている。

2050年までに農薬や化学肥料の使用量を大幅に削減し、耕地の25%を有機農業へ転換するという、健康環境に配慮した国の「緑の食料システム」推進のヒントにもなり得る活動だ。原点回帰では今後、収穫物を余すところなく活かした加工品の開発販売や、海外への活動の波及も視野に入れている。

全国に仲間がいることで育まれる、真の豊かさ

原点回帰の副帰長、ヒャクタロウ。Photo: 近秀幸

オンライン上でメンバーを募集しているが、志を一つにできる人を慎重に選ぶため、応募者の一人ひとりと面談を行っている。プロデューサーであり副帰長のヒャクタロウによると、メンバーに共通している参加動機は“仲間”だという。

「畑一つ始めるにも一人では何から手をつけていいか分からないですよね。でも価値観が同じ“仲間”がいることで挑戦できる。今や全国に散らばるメンバー同士で、実った野菜、果実、魚、ジビエなどを交換し合うことも始まり、さまざまな交流会が行われています」

資本主義の行き詰まりが顕著になりつつある昨今、お金には換えられない豊かさをもたらす人とのつながりを持つことも生きる力の一つと言えるのかもしれない。

回帰する先に、未来がある

京都・宮津市にある棚田。Photo: Emi Sugiyama

原点回帰では、今年から水田での米づくりも開始した。日本海を見下ろす山肌に古くからあるその水田地帯は、一軒が米作りのために住んでる人里離れた秘境。山から湧き出る清らかな水がそのまま田んぼに流れ込む。この水田を代々守ってきた村人は、当然ながら現在でも農薬を投じずにいる。その水田で、原点回帰のメンバーたちはコシヒカリの原種と言われる「亀の尾」の苗を手で植えた。

不思議なことに、これまで田植えなどしたことのないメンバーや子どもまでもが、ぬかるむ田んぼに入ると早々に長靴を脱ぎ捨てて裸足になり、上手に苗を植え始め、誰からともなく「懐かしい」という言葉が口をついて出るという。かつては日本人の生活様式であった農は、すべての世代が参加する楽しい共同創造の場であり、今も私たちの心のどこかに脈々と受け継がれているのだろう。原点回帰の活動は、農地や古の叡智と技術を守るだけでなく、水や空気を含む美しい環境そのもの、生物多様性、そして思いやりや温かみのある健やかな心を守ることにもつながっていくのかもしれない。

「僕ら人間はほぼ地球からTAKEするばかりで、地球にGIVEすることができていないんです」とヒャクタロウは真摯に語った。だからこそ、私たちはこれからどのような道を選ぶのか。予測不能な未来に備えて視座を高く持ち、持続可能な未来へ続く方向を選択したい。

Text: Maiko Morita Special Thanks: Emi Sugiyama