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温暖化でウニが捨てられている!? 痩せたウニを、極上食材に育てる日本企業のソーシャルイノベーション【サーキュラーキッチン】

食を巡る課題を探り、よりサーキュラーで持続可能な食文化をつくりたい──そんな思いをともにするFOOD LOSS BANK共同創設者で料理家の杉山絵美を講師に迎えた本連載。今回は地球温暖化に伴う世界的なウニの異常繁殖を解消し、CO2削減に貢献する新機軸の企業「ウニノミクス」に着目。

藻場が消え、海藻を住処とする多くの生物が見られなくなった日本沿岸の岩礁域。温暖化等の環境変化によりウニが異常繁殖し、ウニによる海藻の食害が磯焼けの主な理由のひとつだと言われている。

今、ノルウェーやカリフォルニア、日本を含む世界各地の海で「磯焼け」という環境被害が深刻化しているのを知っているだろうか? ウニが異常繁殖し、藻場を食べ尽くしてしまい、海藻類はもちろんプランクトンや小魚が激減。生態系のバランスが崩れ、水産業にも打撃を与えている。そしてこの異常繁殖には、私たち人間がもたらしている地球温暖化が大きく影響していると言われている。

高級食材であるウニの増加は、一見喜ばしいことに感じるかもしれない。だが、磯焼けのウニの身はほとんど詰まっておらず食用にならない。さらに、成長したウニには天敵がほぼいないため増えるばかりで、「海の森」にあたる藻場の回復は難しく、海中に吸収されるはずのCO2(ブルーカーボン)が大気中に残存したままとなる。そのため駆除に挑む地域も少なくは無い。

また、藻場1ヘクタールから人間が享受している利益を経済的価値に換算すると、同面積の熱帯雨林の約29倍、亜寒帯林の約50倍(参考文献:Global Environmental Change Vol. 26)にもなり、磯焼けがもたらす地球環境と人類への不利益は甚大だ。

大分うにファーム畜養現場内。

畜養中のウニ。

この問題解決に革新的なテクノロジーで挑むのが、2017年に日本で産声を上げたウニノミクスだ。世界最先端の水産技術があるノルウェーに在住していた創業者の武田ブライアン剛は、東日本大震災後に東北の水産業復興支援の一環で被災した漁業者視察団を招致し、その際に日本の漁業者からの話で磯焼けの現状について知った。それを機に、ノルウェーの水産技術研究を、東北を始め日本中、そして世界中で問題となっている磯焼け対策に応用できるのではないかと考えた。

まず、ウニノミクスは磯焼けで痩せたウニを漁師から買い取る。それから、出汁用昆布の製造過程で出る切れ端部分などを活用して独自開発した栄養価の高い餌を与える。すると、ウニはわずか約2カ月で、身の詰まった極上のウニへと育つという。

2012年にウニ畜養事業構想を始め、研究開発を経て、世界初の磯焼け対策を目的とした商業規模ウニ畜養事業を大分県で2021年に稼働させた。現在は山口県長門市に世界最大規模の畜養場を建設中だ。現地の水産業関係者と共同で事業開発にあたり、地域経済の振興や雇用拡大にも貢献する。

「陸上の施設ですので、ウニの異常繁殖による磯焼けが深刻化する地域であれば、全国のあらゆる地域へ横展開することが可能です。食べれば食べるほど海の環境改善につながる畜養ウニの事業拡大に注力しています」と事業開発責任者の山本雄万は語る。

畜養前のムラサキウニ。

畜養後のムラサキウニ。ウニノミクスの畜養ウニは、現在は「食べチョク」で入手可能。その他、主に大分県内の飲食店でも提供している。今後は関東や関西にも出荷できるよう生産量を増やしていく計画だ。

今後、ウニノミクスの取り組みが多地域に拡大することで、多くの藻場が回復に向かい、海の生態系の保全やブルーカーボンの推進につながるだろう。

食用ウニの需要は日本だけでなく、和食ブームによってアジアや欧米でも急激に高まっている。ウニノミクスの事業は「国連海洋科学の10年」の枠組みでも公式推薦されており、世界へと広がりそうだ。

※ウニノミクスによって畜養された甘くて極上ウニを使った杉山絵美レシピは近日公開!

Photos: Courtesy of Urchnomics Japan Text: Maiko Morita Special Thanks: Emi Sugiyama  Editor: Mina Oba