「17歳のとき、同じドイツ出身のフォトグラファーのエレン・フォン・アンワースと撮影したのがモデルとしての初仕事でした。場所はパリのポンピドゥー・センターのそばで、私は私服でただぶらぶらしたり、ふざけたりするだけで、特にポーズを取るよう要求もされませんでした。ですがその後、このカジュアルな写真を見たGUESS(ゲス)のポール・マルシアーノが、広告キャンペーンに私とエレンを起用したいと打診してきたのです。それからは、もうあっという間でした。アメリカ・テネシー州ナッシュビルからギリシャのミコノスまで、ヨーロッパとアメリカを何度も往復して撮影をこなした私はGUESSの顔となり、世界中に知られるようになりました」
かつてデビュー当時のことを『Another Magazine』誌にこう振り返ったクラウディア・マリア・シファーは、1970年の今日ドイツ・ラインベルグに生まれた。GUESSジーンズの一連の広告で“ブリジット・バルドーの再来”と呼ばれ、90年代のスーパーモデルブームをリードし、シャネル(CHANEL)の故カール・ラガーフェルドのミューズであり続けた彼女は、現在54歳の現役モデルとしてファッション界に君臨するレジェンドでもある。
「モロッコでのエレンとの撮影で、メイクアップ・アーティストのローリー・スターレットがこう言ったのです。「メイクを落とさず、そのまま寝てください。翌日の仕上がりがとても良くなってるはずです」と。私は半信半疑で心地悪かったのですが、次の日実際に自分の顔を見たら、ブラックのアイライナーやベースメイクがすっかり馴染んでいて、本当に良かったのです。肌の健康や衛生面では良くないかもしれないけれど、こういうテクニックもあるのだということを学びました(笑)」
こう語ったクラウディアは、エレン以外にもヘルムート・ニュートンやリチャード・アヴェドン、そしてピーター・リンドバーグら巨匠フォトグラファーたちと仕事をこなしながら、モデルを始めてからずっと貴重なファッション写真を収集してきた。そして2021年、そのコレクションを一冊の写真集にまとめ上げて『Captivate!』として出版し、世界中の注目を集めた。
「今回初めてキュレーターとして発表した『Captivate!』には、世界のファッション史上重要な時代である90年代のダイナミックで刺激的な魅力を凝縮しています。私のキャリアに大きな影響を与えてくれたエレン・フォン・アンワース、デヴィッド・シムズ、故コリン・デイ、そしてマリオ・ソレンティまで、この本には私たちクリエイターの自由で実験的な表現が詰まっています」
オーストラリア版『VOGUE』に対しこう語った彼女のスーパーモデルならではの視点が活きたこのヴィジュアルコレクションは、リリース以来“バイブル”と呼ばれ、ファッション界の重要な書籍の一つとなっている。
スーパーモデル誕生の原動力は”コンプレックス”
弁護士を目指して勉強中だった17歳のとき、たまたま遊びに行ったデュッセルドルフのナイトクラブでエージェントにスカウトされ、瞬く間にスーパーモデルへとのぼりつめたクラウディア。だが、デビュー前はその外見を意識しすぎていたせいで、常に内にこもりがちだったという。
「私は、外見にまったく自信がありませんでした。だから授業が始まってから一番遅く入室して一番後ろの席に座り、終わったら誰にも気づかれないよう一番最初に退出していました。もちろん、容姿のことを誰かに面と向かって言われたわけではありませんでしたが、痩せて背が高くて、特にお尻が突き出ていた私にとって、すべてがコンプレックスだったのです。だから、モデルにスカウトされたことは本当に晴天の霹靂でした。
だから、正直に言って『モデルになりませんか?』というひと言が、私にとってどんなセラピーを受けるよりはるかに自己肯定感を上げてくれたことは事実です。コンプレックスの塊だった私を、肯定してくれる人が現れたのですから」
以降モデルとして大躍進を続けた彼女は、そのコンプレックスを武器に世界一のギャラを稼ぐスーパーモデルへと変貌。そして、順調なキャリアを築くにつれ、さらに自己肯定感が上がっていったという彼女は、自身の名を冠したファッション&ライフスタイルコラボレーション「Claudia Schiffer」や、コスメブランドとのビューティー・コレクションをリリースするなど、ビジネスにもポジティブな変化が現れたという。
I, Claudia. 一流モデルのメンタルマネージメント
そんな彼女は、50代に突入してからウェルネスに重きを置くようになり、ショーの前にはバレエやピラティスなどの運動を取り入れて心身ともに整えるなど、前向きなメンタルをキープするトレーニングが日課になっているという。
「そして、子どもたちのためにも地産地消のオーガニック食材を積極的に取り入れ、食生活には特に気をつけています。朝食はキヌアやパイナップル、アーモンド、デーツが入った新鮮なアーモンドミルク。昼食は通常、野菜と少量の七面鳥、鶏肉、魚が中心で、夕食も同様です。おやつはバナナ、チアシード、亜麻仁が入った羊かヤギのヨーグルト。時には、チョコレートと赤ワインをを楽しんだり、母が作るドイツの伝統的なシチューなど、子どもたちとともに健康的な食生活を心がけています」
そしてもう一つ、そんな彼女のウェルネスに欠かせない存在がある。2024年1月に映画監督の夫マシュー・ヴォーンの新作スパイアクションコメディ映画『Argylle/アーガイル』のワールドプレミアに“同伴”した愛猫、スコティッシュフォールドのチップだ。同年3月号ドイツ版『VOGUE』のカバーで彼女と共演した“彼”は、自身のインスタグラムアカウント「@chipthecat」を持ち、書籍『Blue Chip: Confessions of Claudia Schiffer’s Cat』をリリースするなど、目下世界中で愛されているセレブキャットでもある。そんなチップがくれる癒しのひとときが、何よりも尊いと彼女は言う。
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現在は、1574年に建造されたイギリス・サフォーク州のマナーハウス「コールドハム・ホール」で、チップと夫と子どもたち3人とともに静かな生活を送っているクラウディア。そんな彼女は、スーパーモデルとして現役を貫き、成功を維持するための秘訣をこんなふうに語っている。
「“スーパーモデル”と呼ばれるようになると、周囲からもてはやされて、誰も注意してくれなくなります。ですがフォトグラファーだけは、ともに良い作品を作り上げるために、私が悪いときは常に指摘してくれました。そして、そんな彼らの意見を受け入れ、自らを改善するたびに、私は自分の中にさらなる自信が生まれるのを感じました。この姿勢が、“私は私、何者にも替えられない唯一無二の存在”という強さへとつながったのだと思います。今でも相変わらずシャイなところがある私ですが、そんな自分が今でもこの浮き沈みの激しいファッション界で活動できる理由は、この心の強さにあるのだと思います」
参考文献:
https://www.vogue.com.au/celebrity/interviews/claudia-schiffer-supermodel-interview/news-story/27d85492bc55f5dba318b60a9d84970d
https://www.anothermag.com/fashion-beauty/12758/50-questions-with-claudia-schiffer-interview-2020-50th-birthday
https://graziadaily.co.uk/celebrity/news/claudia-schiffer-interview
https://www.voirfashion.co.uk/post/an-interview-with-claudia-schiffer-captivate-reminisces-fashion-photography-that-marked-the-90s
https://www.net-a-porter.com/en-jp/porter/article-af25747dd23e0d44/beauty/beauty-memo/claudia-schiffer
https://www.telegraph.co.uk/news/2024/01/25/argylle-claudia-schiffer-cat-matthew-vaughn/
Text: Masami Yokoyama Editor: Rieko Kosai
