ソロ活動をスタートする転機になった周囲の反応
「他のアーティストたちに楽曲提供もしていたのですが、自分が参加していない打ち合わせで決まったテーマをベースに、曲作りを依頼されることが増えたんです。さすがに想像力だけでは乗り切れなくなり、自身のパーソナルな思いや体験を歌詞に投影し始めるようになって。すると、周囲から、『すごくあなたらしい楽曲なのに、誰かへ提供してしまうなんてもったいない』と言われたんです。その反応に勇気をもらい、ソロ活動をスタートしました」
軽やかにダンスフロアへと誘う、前向きな愛にあふれた開放的なソロアルバムからは、今の彼女の充実した心の内がうかがえる。「大きな挑戦だったのは、『Enjoy Your Life』という楽曲です。温かく、高揚感を持たせながらも、できるだけ聴きやすい曲にしたかったのですが、そのバランスを取るのがなかなか難しくて」
今夏のフジロックでは、深夜のパフォーマンスにもかかわらず、たくさんのオーディエンスが彼女のステージに集結し、熱狂した。「単独でステージに立つと、頼れる人がいない不安もあるけれど、みんなのエネルギーを一身に浴びられるのが最高です。私の音楽が一人でも多くの人たちの心に響くことを願いながら、パフォーマンスをしています。フェス当日は早めに現地入りして、会場を散策しながらフジの雰囲気を思い切り味わい、楽しみました」
1. この夏はフジロックフェスティバルに出演されましたが、あなたの初野外フェス体験は?
14歳のときに(The xxのメンバーの)オリヴァー(・シム)と、オリヴァーのお母さんとレディング・フェスティバルに行ったのが、私の初野外フェスでした。ザ・ホワイト・ストライプスの大ファンだったオリヴァーのお母さんが連れて行ってくれたのですが、彼らのパフォーマンスが始まると彼女は私たちそっちのけで、一人でステージの前方に行ってしまったんです(笑)。私はザ・キルズとピーチズのライブが観られて最高に楽しかった思い出があります。
2. 読書家だそうですが、今回の旅の相棒となっている本は?
本は気分をリセットしてくれるので好きなんです。今回はスウェーデンの作家ヨハン・ルカ・ホルムの『STREGA』を持ってきました。恥ずかしながら表紙に魅了されて買った、レコードで言うところのジャケ買い本です。まだ途中までしか読んでいないのですが、アルプスのホテルで働く少女たちが、仕事や仲間を通して自身の人生を見出していく様子が生き生きと描かれた作品です。
3. ファッションにおいて気になっているデザイナーやブランドはありますか?
ロンドン発のブランド「マーティン・ローズ」のスタイルを気に入っています。幼い頃からドレスのような服よりも、着心地がよかったり、メンズ服のようなルースなスタイルに惹かれがちでした。「マーティン・ローズ」はメンズ服というくくりですが、少しオーバーサイズ気味に、ジェンダーレスに着られて素敵なので、最近よく着ています。
4. 最も影響を受けたアーティストは?
14歳のときに、誰にも内緒で一人でこっそりとギターの練習を始めたのですが、当時の私にとって、ドラムマシーンを使ったり、宅録のような手作り感あふれるサウンドを生み出していたザ・キルズの音楽がお手本のような存在でした。なので、ザ・キルズには強い影響を受けています。それからさっきも名前を挙げましたが、ピーチズも好きで、10代の頃は彼らの電子音にも夢中でした。
5. ここ数年の間に観た映画で、感情を揺さぶられた1作は?
父と娘が一緒に休暇を過ごしたある夏を、大人になった娘が回想するシャーロット・ウェルズ監督の『aftersun アフターサン』(2022)がとても心に残っています。私は11歳のときに母を亡くしているので、物語の設定が、私と父の関係と重なったのです。自分が大人になった今、この作品を観て、「当時の父がどのような気持ちだったのか」など、子どもの頃には思い至らなかったさまざまな感情が湧いてきて、胸を打たれました。ポール・メスカルが父親役で主演しています。
Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto