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コーディング教室から法改正まで、 IT界の職場環境のジェンダー平等変革に挑むレシュマ・サウジャニの野心【気鋭のイノベーター】

世界的なIT先進国へと急成長したインドからの移民の娘としてアメリカで育ち、議員として国を変えるべく立候補するも落選。その悔しさを力に変え、Girls Who Codeを立ち上げたレシュマ・サウジャニは、IT界を担う優秀な女性の育成と雇用環境整備のため日々尽力している。

Girls Who Code CEOのレシュマ・サウジャニ。2023年7月、NYにて。Photo: Michael Ostuni / Patrick McMullan via Getty Images

「2010年、私はインド系アメリカ人女性として初めて米国議会に立候補しました。それ以前から社会奉仕をしたいと強く願ってはいたものの、私にできるだろうか? と怖くて具体的に行動を起こすことはありませんでした。ですが、一度きりの人生だから後悔したくないと思い、32歳で議会に立候補したのです。そして選挙運動のとき、すべての有権者と直接会って握手しながら、私は一人ひとりにテクノロジーの分野における女性の活躍の重要性を訴え続けましたが、結局落選してしまいました。それでも、選挙運動の10カ月は私の人生において最高に充実した期間になったと思っています」

かつて「TED Talks」に出演した際にこう語ったレシュマ・サウジャニは、1975年にアメリカ・イリノイ州シカゴ出身の弁護士・政治家だ。2009年の米国下院議員選挙でニューヨーク州第14選挙区からインド系アメリカ人女性として初めて議会に立候補した彼女は、残念ながら議員として社会に奉仕するという夢は叶わなかった。だがその名を一躍世間に知らしめたのが、2012年に設立したNPO「Girls Who Code」のファウンダーとしての活動だった。

ITの現場を担う女の子たちを育成する「Girls Who Code」

2024年11月、NYで開催されたWomen In AI Summitのパネルに登場。Photo: Valerie Terranova / Getty Images

「2012年に『Girls Who Code』を設立した理由は、テクノロジーの分野で働く女性の少なさと、プログラミングはある特定の人だけのものという世間の思い込みに疑問を持ったからです。人は誰でも、自分にはできないと思っていたことで成功すると大きな自信を持つものです。そしてその体験は、人前で話すことから起業に至るまで、人生のあらゆる局面で大きな力となります。その力を、私は女性たちにもたらしたいと思ったのです」

「Girls Who Code 」は、単なるNPOではなく、ひとつのムーブメントである──HPにこう言葉を寄せた彼女の団体のバックボーンにあるのは、インドから一家でアメリカに移住し、ゼロからアメリカンドリームを掴んだ移民の娘としての想いだ。その信念を胸に、アメリカ国内の幼稚園から高校におけるコンピューターサイエンス教室のジェンダーギャップ撤廃の法的解決策を編み出すため、州の政策立案者と連携してきた彼女率いる同団体は、これまでケンタッキー州、インディアナ州、ワシントン州、コロラド州で改正法案を可決。さらに、フロリダ州とユタ州でも政策変更をもたらすなど、法的にテクノロジーの分野への女性の進出をバックアップし続けている。

IT分野の男女雇用機会均等を目指して

UCLAにて開催されたイベントへ登壇。2023年11月撮影。Photo: Phillip Faraone / Getty Images for Caring Across Generations

現在アフリカの少数民族を含め、今や世界中のあらゆる人がスマホなどのデバイスを手にしており、活況なIT開発の現場には新たな雇用が次々と創出されている。にもかかわらず、女性にもたらされるその機会はまだまだ不十分だという現実がある。そこに切り込むため、2014年12月までに3,000人の女子学生にプログラムを提供し、2022年時点で総計約18万5,000人に教育を提供した実績をもつ同団体は、現在Z世代を取り込むため“アフタースクールクラブ”や“夏季集中プログラム”の強化などさまざまなアプローチを仕掛けている。

そんな彼女は、著書『Pay Up: The Future of Women and Work (and Why It's Different than You Think)(原題)』で、女性たちが働きやすい環境整備を次なる目標としていると明かした。

「優秀な女性プログラマーはたくさんいますが、例えば、女性のための有給休暇の設定や託児所の併設などを考えると、多くの職場は女性を雇うことを前提に作られていません。テクノロジーの分野の優秀な女性たちは、職場環境さえ整えればさらなる飛躍が見込めるのです。これまで女性にとって不利だった分野での雇用の基盤を再構築するときが来ました。今こそ、女性たちを“足かせ”から解放し、社会のシステムを見直すときなのです」

そして、同団体での活動の功績から「フォーチュン」誌の 「40 Under 40」(2015)にも選出されたサウジャニは、“女性の代弁者”として法改正に臨み、実質的に社会を変え続ける中で“その先”についてもこう語っている。

「私には息子がいますが、彼は幼い頃から男女を平等に扱うフェミニストでした。そして、思いやりのある素晴らしい人間性を持ち合わせています。そんな彼の成長を見ていたら、彼が大人になったとき、男性の立場から女性リーダーをサポートできる人間になるはずだと確信しました。そして彼のような男性が増えたら、女性が男性と肩を並べて活躍できる場が増えるはず──こんな想いを抱くようになったのです。私は、そんな“将来を担う男性の一人”を育てたことをとても誇りに思います。そして、女の子たちが自らの手と才能で火星行きのロケットを開発するのを見たとき、今の私の努力がようやく報われるのだと思います」