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撮影現場でもレザーやウールは着用しない「21世紀の最も偉大な俳優」
「子どもの頃から家にはいつも犬がいて、何かしら動物と繋がっていました。ですが、あるとき釣られた魚が飛び跳ねて壁に激突して気絶したのを見ても、特別な感情が湧かなかったことを今でも覚えています。それは多分、昆虫や犬・猫などの身近な動物や、動物園でみるゾウなどの野生動物以外の生物のほとんどを、無意識に別の存在として捉えていて感情移入ができなかったからだと思います。私の知り合いにも、『ベジタリアンだけど、たまには魚も食べる』と言う人がいるくらい、魚は擬人化するのが難しいものなのかもしれません」
2022年、アメリカのメディア「VegNews」のインタビューでこう語った俳優のホアキン・フェニックスは、数多のメジャー/インディペンデント映画で『ジョーカー』(2019)などの特異なキャラクターを演じることを得意とする稀有な俳優だ。その確かな演技力でアカデミー賞を始め、ゴールデングローブ賞などさまざまな栄誉ある賞を受賞した彼はまた、「ニューヨーク・タイムズ」紙の2020年「21世紀の最も偉大な俳優25人」の一人にも選出されている。
そんな彼は、3歳の頃からヴィーガニズムを実践する動物愛護活動家としても知られる。そのため、プライベートではもちろん、撮影現場でもレザーやウールは一切着用せず、出演の条件にはヴィーガン食を指定し、衣装は必ず環境に配慮したもので作ることを要求するという。
動物愛護活動の根幹にあるもの
「幼少期にヴィーガンになった理由は、決して健康のためということではなく、あくまでも幼心に動物に対する“かわいそう”と言う感情や思いやりからくるものでした」
アメリカ・ヴァージニア州を拠点に、世界中に約900万人の会員を有し、動物の倫理的扱いを求める団体「PETA(People for Ethical Treatment of Animals)」の国際会長のイングリッド・ニューカークより、2019年度「今年の人」に指名された彼は、同団体を含む数多くの動物愛護団体のキャンペーンモデルやスポークスパーソンを務める熱心な支持者でもある。
「ですが成長するにつれ、その関心は私たち人間の食の消費活動がほかの動物を含む地球全体に与える影響へと向くようになりました。ヴィーガンは個人的選択ですから、決して他人に強いるものではありません。けれども今、この地球はそうも言っていられない現実問題に直面していると感じているのです」
こう語る彼は俳優業の傍ら、これまで食の消費行動と地球環境との相関関係を明らかにしたさまざまなドキュメンタリー映画を制作してきた。2019年にエグゼクティブ・プロデューサーとしてリリースしたドキュメンタリー映画『「The Animal People(原題)』(2019)では、世界最大の動物実験研究所に抗議した6人の過激派動物愛護活動家たちが、テロ容疑で起訴されるまでの様子と、彼らを取り巻く政府の監視や法律改正を詳細に描き出した。
続く2020年には、環境活動家団体「Extinction Rebellion」とアマゾンの熱帯雨林保護活動団体「Amazon Watch」とともに2分間のショートムービー『Guardians of Life』(2020)を制作。山火事から逃げていた最中に倒れ、治療を受けていたとある被災者の心臓が緊急オペ中に心停止した。そして、開胸されたその心臓のクローズアップと重なったのは、気候変動や森林伐採の煽りを受け、燃え盛るオーストラリアからアマゾンまでの火災ベルトだった──そんな同作品では、自身が演じる医師の眼を通して、喫緊の課題となっている地球温暖化の深刻さを描写し、世界に喚起したことで大きな注目を集めた。
そして2021年、NGO「アニマル・セーブ」とともに屠殺場から2等頭の牛を解放した自身の経験を描いた短編ドキュメンタリー『Indigo』(2021)を発表。映像の中で、フェニックスはこう語っている。
「牛のリバティとインディゴを解放する、といういたってシンプルな行動ですが、彼らの命を奪うということは、地球環境を壊すことに直結するということをわかって欲しかった。私たち人間の都合ですでに温暖化が加速する中、ほかの動物や地球環境を破壊し続けるか、それとも復元を選択するか──決断するのは今だと訴えたかったのです」
地球沸騰化時代の新たな生物多様性実現に向けて
「飢えている人がいるのに、動物愛護が何の役に立つのか? と言う人がいます。肉が食べたいと主張するのに、ヴィーガンを主張するなと言う人もいます。私は、この両極にある2つの事柄の関連性と、両者の折り合いをどうつけるかということに常に関心を抱いてきました」
2022年にリリースしたドキュメンタリー映画「The End of Medicine」(2022)では、脚本家に『Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』(2014)などのドキュメンタリーで受賞歴を誇る映画監督キーガン・クーンを迎え、「新たなパンデミックの出現」「抗生物質耐性」「動物」「動物を取り扱う人間」の相関関係を暴き、世界中で大きな話題となった。
『ネイチャー』誌によると、深刻化する温暖化により熱帯・亜熱帯地域に多い動物由来感染症がそれ以外の地域でも出現し始めており、今後も未知の感染症発症のリスクが加速度的に高まると発表していることから、もはや一刻の猶予もない状況にあるという。そんな中、動物愛護の立場から継承を鳴らし続けるフェニックスは、先の「VegNews」で自身の使命についてこんな風に語っている。
「病気や医療システムの逼迫と、動物の消費との間には関連性があります。“食の正義”の観点においても、常に栄養豊富な食に恵まれた人と、災害などで健康的な食事を得られないことの間には必ず関連性があります。このように、現代社会における生物多様性とは、すべてが連鎖していることを意味しており、動物の権利だけを主張したり、飽食の自由を容認することでは成立しません。動物の権利と、世界中にはびこる社会問題の間には明らかな関連性があります。そして、これらすべてを明確に伝えるのが私の使命だと思っています」
Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba