『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』
本書は関東大震災から100年の2023年に公開された映画『福田村事件』のモチーフとなっている。震災直後に四国から千葉県の福田村を訪れた行商人らが朝鮮人と疑いをかけられ地元の自警団によって虐殺された事件を核に、大震災発生時の人々の様子や植民地化政策、朝鮮人虐殺についてまで、入念な検証や歴史的な考察を経てまとめられた一冊だ。
「福田村事件は、関東大震災時の朝鮮人虐殺の余波で起こった痛ましい事件」であり、当時自警団は通行人の身体的な特徴や濁音が上手く言えるかなどを基に朝鮮人か否かを判断、朝鮮人となれば暴行を加え虐殺に及ぶという行為が各地で行われていたという。
震災以前から蔓延っていた差別が扇動されることで大勢の人が亡くなったにも拘らず、今に至るまできちんとした謝罪もなく、その事実を否定しようという動きが強まっていることの問題についても書籍内では触れられている。現代まで続く差別と深刻化する異常気象や地震の脅威。過去の虐殺は今とも重なっている。私たちは決してこの歴史を繰り返してはならないと刻み、そのためにすべき行動を考えたい。
『ダーリンはネトウヨ 韓国人留学生の私が日本人とつきあったら』
「韓国人留学生の私が日本人とつきあったら」という題の通り、韓国から大学入学のため日本に留学してきたうーちゃんと、その“ネトウヨダーリン”であるいっしーを中心とした物語。
「“きれいな日本語”を喋って」「“韓国女子”なのに気が強くないね」――インターネット上の情報に感化されたであろう、いっしーの人種差別的かつ女性蔑視的な発言にうーちゃんは違和感を抱き、その傷つきは次第に大きくなっていく。著者が11年間日本で暮らした体験を物語のもとにしているため、描かれるマイクロアグレッションや言動の数々は私たちもどこかで見聞きしたことがあるものばかり。
あとがきには「悪意もなく知らないうちに自分が加害者になりうる」と書かれた節が。誰しもが加害性を孕んでいること、そして虐殺もはじめは“小さな”差別から始まるのだと思い出す。読み進めやすいコミックエッセイなので、子どもから大人までまずは手に取ってほしい。
『パチンコ 上・下』
1910年〜1984年を舞台に、4世代にわたる在日コリアン一家を描いた超大作だ。フィクションでありながら、韓国系アメリカ人作家のミン・ジン・リーが構想から30年以上の歳月をかけ、数十人の在日コリアンに日本で取材を行うなど綿密なリサーチの上で書き上げられている。
直接的には言及されないものの物語の時代背景は関東大震災の頃と重なっており、登場人物たちが日本で受ける差別や置かれる境遇、警察官による暴力などの描写から当時の実際の暮らしを想像しながら読み進めることとなる。
本書は全米ベストセラーとなり全米図書賞の最終候補に選出されているほか、Apple TVで連続ドラマ化もされている。書籍もドラマも、どちらも強くおすすめしたい。
Text: Nanami Kobayashi