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今、“生き物”の危機にフォーカスする理由【MY VIEW│シリル・ディオン】

過去40年間に絶滅した脊椎動物の数は60%という現実を前に、「生き物の危機を解決することができれば、同時に気候の危機も解決できる」と、環境活動家で映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』(公開中)を監督したシリル・ディオンは語る。

地球の危機に直面している今、必要なのは……

アニマル ぼくたちと動物のこと』(公開中)で、ベラ(右)とヴィプランは、動物保護と気候変動問題に取り組む16歳。「6度目の大量絶滅」がすでにはじまり、50年後に人類は存在していないかもしれない。この大きな危機の核心に迫るべく、映画の中で二人は世界各地を巡る旅に出る。Photo: ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinema-2021

迫り来る「6度目の大量絶滅」。過去40年間に絶滅した脊椎動物の数は60%以上だと言われ、ヨーロッパでは飛翔昆虫の80%も姿を消しました。世界中を旅しながらさまざまな人と出会う中で、あるときふと気がついたのです。地球の危機に直面している今、私たちは“気候”の危機に焦点をあてることが多く、等しく大変な状況にある“生き物”の危機を重視できていないことに。もしも気候の問題が解決できたとしても、私たちは暮らしのために金属や鉱物の採掘などをやめることはなく、生物多様性を壊し続けます。しかし生き物の危機を解決することができれば、同時に気候の危機も解決できるのです。このことをより多くの人に気づいてもらいたいと思ったことが、この映画を作るきっかけとなりました。

「未来がない」と考えるティーンエイジャーたち

ときを同じくして、私はパリやドイツ、スイス、ベルギー、イギリスなどで行われる若者たちの気候マーチに参加するようになり、強いショックを受けました。あまりにも多くのティーンエイジャーが「自分たちには未来がない」と考えていることに。このままの状態にしておくわけにはいかないという責任感を覚えるとともに、若者たちには希望が必要だと痛感しました。経済的な豊かさが人生の成功だという価値観は終わりつつあります。命あるものすべてとつながり、理解し、守り、真の意味での関係性を育むことに全力を注ぐという新たな地平線に向かうことは素晴らしいだけでなく、私たちが手に入れられることだと伝えたい。そしてそれは、未来に対する不安や恐れを払拭する助けにもなります。だからこそ、16歳のベラとヴィプランの目を通して、生きとし生けるものの世界を描き、若き世代の感情や心の変化に共感できる映画にしたいと思ったのです。

ヴィプランと初めて出会ったのは、パリでの気候ストライキのときでした。彼とは2019年のカンヌ国際映画祭で再会し、気候変動の問題について深く鋭い内容を口にしていることに衝撃を受けました。一方で、ベラは生物多様性の喪失に心を寄せ、SNSを通して彼女が発信する賢くて面白い内容に心動かされ、ロンドンで初めて会ったときには改めて彼女の成熟した考えや議論する姿勢に魅了されました。実は、映画のナレーションはすべて旅の中で二人が日記に記した言葉から引用しています。それだけに、本作は二人のリアルで多様な心情の記録となっているのです。欧州議会で代議員を追いかけ、問いかけを無視され続けたときの怒り。インドのビーチに流れ着くプラスチックゴミの量を目撃したときの憮然とした気持ち。ケニアで野生動物たちの美しさに圧倒され露わにする喜び。国土の約4分の1が国立公園・自然保護区となっているコスタリカの当時の大統領カルロス・アルバラードにインタビューをし、イニシアティブに触れたときの興奮。羊を襲う野生動物との共生を考える会話の中で、「人間は嫌いだ」とベラが話した際、「生き物を守りたいのであれば、人間のことにも心を配る必要がある」という哲学者バティスト・モリゾに言われた言葉に対する彼女の心の動き。また、食用ウサギの工場畜産を目の当たりにしたときは、強い嫌悪感や悲しみを示しましたが、経済的な理由で畜産家の男性もウサギと同じように檻の中に閉じ込められているという、問題の複雑性を知ったことによって、男性の立場を尊重する対話が生まれました。これは二人にとっても印象的な経験となり、重要なチャプターとなりました。実はこの話には続きがあり、撮影のあとに男性はベラとヴィプランとの会話をきっかけに畜産業を畳み、新しいことを始めたそうです。異なる視点を提示することができる映画は、ときに世界に魔法をかけることができるのです。感情的にも、知性的にも、審美的にも見る人すべてに訴えかけ、伝えることができるというのは、映画の持つアートだと思っています。

「人類の役割を再定義する」

Photo: ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinema-2021

そして動物行動学者のジェーン・グドール博士に登場いただいたことは、とても大きなことでした。ベラにとってジェーンは人生のロールモデルのような存在なので、あまりに緊張して会うまで落ち着かない様子でしたが、3人が心通わすリラックスしたひとときが過ごせたと思います。ジェーンは不思議な存在です。彼女の純粋な笑顔は人の心を動かす力があります。ジェーンの隣に座っているだけで、私はまるで山の頂上で3週間瞑想していたかのような気分になるのです。 ティーンエイジャーは、世界を変えたい、世界は変えられると思う強いエネルギーを持っています。年齢を重ねるごとに、大人は社会の複雑性や構造的な戦略方法が見えるようになり、一方で世界を変えたいという感情や信念が弱まり保守的になってきてしまいます。現在45歳の私は、その間に立っています。ですから私がすべきことは、この二つの長所を結びつけることだと考えています。若者の推進力と大人の問題解決力を。

旅の最後に、ベラはこう言いました。「人間の役割を再定義しなければ」と。その言葉の通り、今の人類に課された役割というのは、私たちの心と体を守ってくれているものに目を向け、経済的な成長によって生み出された数々の常識を拒否することです。それができたら、私たちは今とは全く異なる行動をとり、街づくりや仕事も変わってくるでしょう。

私がそれに気づいたのは、16歳のときです。地球に対する愛を育む時間もなく働き、お金を稼ぎ、何かを買うことが人生の目的なのでしょうか。本来は、自分の人生と向き合い、愛し、守るべきものを守り、敬意を払うために生まれてきたんだと思います。社会の大きな渦に抗うことは決して簡単なことではありませんが、自分に誓った16歳のときの約束を裏切ったことは一度もありません。これは私が人生の中で誇れることの一つです。

Profile
シリル・ディオン
映画監督、作家、詩人、環境活動家。メラニー・ロランと監督した映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』(2015)はセザール賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。著書『未来を創造する物語 現代のレジスタンス実践ガイド』(18)は10万部を記録した。

Text: Cyril Dion As told to Mina Oba Editor: Yaka Matsumoto