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カシミアはサステナブルになれるのか? 今一度考えたいラグジュアリー素材の環境負荷

軽くて暖かく、肌触りのいいカシミアニット。近年は低価格でも手に入れられるようになった一方で、その環境負荷に対する懸念は高まっている。UK版『VOGUE』のエディターが、業界に広がるサステナブルな取り組みについて調査した。

手に届きやすくなったカシミアニットと、その裏で深刻化する過剰生産

カリフォルニア発のリフォーメーションは、再生繊維を95%使用した新しいカシミアニットを昨年12月に発表した。

Photo: Courtesy of Reformation

かつては富裕層向けの素材だったカシミアだが、近年はハイストリートブランドのおかげで手頃な価格で買えるようになった。しかし、環境への影響に対する懸念が高まるなか、私たちは安易に手を出していいものなのだろうか?

「カシミアは最も肌触りのいい繊維のひとつですが、最も課題の多い繊維のひとつでもあります」と話すのは、リフォーメーションREFORMATION)のチーフ・サステナビリティ・オフィサー兼オペレーション担当副社長のキャスリーン・タルボット。「その生産と加工は多くの資源を消費し、一枚のセーターを作るのにも、通常は複数頭のカシミアヤギの産毛が必要とされます。そしてカシミアは限られた地域で生産されるもので、その地域では土地の劣化や過放牧といった、環境負荷への深い懸念があるのです」

実際、過放牧と気候変動は、世界のカシミア供給の大部分を占めるモンゴルの牧草地の推定70%を劣化させているという報告がある。リフォーメーションでは2023年、バージンカシミアは調達する生地の1%にも満たないにもかかわらず、素材のカーボンフットプリントの40%近くを占めていることがわかった。

同ブランドは徐々にリサイクルカシミアへの移行を進めており、2019年にはリサイクルカシミアを70%使用したラインナップを制作。気になる品質だが、タルボットによると近年はその加工技術が飛躍的に向上しており、2024年末にはリサイクルカシミアを95%使用したコレクションを発表することができた。「いくつもの試作を重ね、さまざまなウォッシュや仕上げをテストしたことが、このステップアップに繋がりました」と彼女は説明する。「商品に実際に触れた人々には驚かれますね。肌触りや長持ちするかといった点で、従来のカシミアとプレミアム・リサイクルカシミアの違いがほとんどわからないほどです」

現在市場に出回っているリサイクルカシミアの大半は、プレコンシューマーリサイクル・カシミアであることも特記に値する。プレコンシューマーリサイクル・カシミアとは、ライフサイクルを終えた既存の衣類からではなく、製造工程で余った繊維から生産したものだ。「プレコンシューマーリサイクル・カシミアを活用するというのは、とても重要な第一歩です」とタルボット。ポストコンシューマーリサイクル・カシミアは、混紡繊維や合成繊維のトリムや糸が使用されているため大規模なリサイクルがより困難であるとされるが、彼女はその活用も視野に入れているそうで、「ポストコンシューマーリサイクル素材も提供できるよう、インフラと適切なシステムを開発していきたい」と意欲を見せる。

カシミア産業を支える、モンゴルのコミュニティを守るために

ロンドンを拠点とするオユナは、持続可能な方法でカシミアを生産しているモンゴルのコミュニティにスポットライトを当てている。

Photo: Courtesy of Oyuna

リサイクル素材を使用することは環境負荷を軽減するためのひとつの解決策ではあるが、カシミア産業がモンゴルをはじめとする国で人々の生活を支えているのも事実。デザイナーのオユナ・ツェレンドルジが2002年にオユナ(OYUNA)を立ち上げたのは、母国モンゴルの地域社会と、そこで生産される美しい高品質のカシミアにスポットライトを当てようとしたのがきっかけだった。「カシミア産業を守っているのは遊牧民たちです」と彼女は言う。「カシミアは遊牧民にとって非常に重要な収入源なので、その生産を止めるわけにはいかないのです」

その一方で、ツェレンドルジは生産のペースを落とす必要性があると指摘。より多くの収穫を得るためにヤギを交配させた結果、近年カシミアの品質が低下していることを取り上げ、「カシミアを持続可能なものにするためには、一昔前、過剰な消費主義がなかった時代に立ち返る必要があります。(昔は)まだ土地や伝統に対する敬意がありました」と話す。「カシミアは大衆品にはなれないのです」

そこでツェレンドルジは、環境に優しく倫理的な慣行を実践する牧畜業者からカシミアを調達していることを保証するため、非営利団体のサステナブル・ファイバー・アライアンス(SFA)と提携。SFAは、動物福祉の向上、生物多様性の保護と責任ある土地利用、牧民の適正労働の促進、繊維品質の維持・向上、効果的な管理システムの運営という5つの主要分野に焦点を当てた「サステナブルなカシミア基準」を設けており、ツェレンドルジはこの基準を満たしたアイテムを展開している。

モンゴルには約2,900万頭のヤギが生息している。

Photo: Courtesy of Oyuna

真のサステナビリティを実現するまでにはまだ長い道のりがあるとはいえ、遊牧民が解決策の重要な一部を担っていることは明らかだ。SFAの共同設立者で、モンゴル生まれのウナ・ジョーンズはこう説明する。「土壌(管理)は生物多様性と食料安全保障の確保に不可欠です。適切に管理された放牧地は、生物多様性の維持や脱炭素にプラスの効果をもたらし、炭素隔離にも役立ちます」

バージンカシミアをこのまま消費し続けるわけにはいかないという点で、専門家たちの意見は同じだ。「カシミアは高級品ですし、そうあり続けるべきです」と、SFAのリサーチ&ポリシー責任者であるザラ・モリス=トレーナーは強調する。「もしカシミア製のプロダクトが安く売られているとしたら、その企業はほかで利益を上げているか、あるいはその過程で妥協しているかのどちらかでしょう」

Text: Emily Chan Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK

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