トム・ブラウンとアンドリュー・ボルトンの家では、誰もがトム ブラウン(THOM BROWNE)を身に纏っている。美しいマンハッタンの家の前で茂みを整える庭師、忠実な広報担当者、そしてワイヤーヘアードのダックスフントのヘクターも、トム ブラウンのシグネチャーである4本線のストライプが入ったグレーのカシミアセーターを着ている。
ヘクターとブラウンに取材する予定の朝、国連のハイレベル政治フォーラムに向かう外交官たちを乗せた黒塗りの車の群れに、私は巻き込まれてしまった。私だって、行くべき場所があり、重要な人々……と犬に会わなければならないのだ、と思いながら足を揺らした。
到着すると、ヘクターは完璧なプロフェッショナル精神で、屋内での撮影をものにした。私は物静かで礼儀正しいブラウンと固い握手を交わし、紳士的なヘクターに出迎えられた。ヘクターは、グリーンのダマスク柄のソファの彼の“ポジション”を私に譲ってくれた。
トム ブラウンのバッグ「ヘクター」は、文字通り彼をイメージして作られた。ファッション業界で有名なアイテムなので、実際に会う前からヘクターを知っているような気がしてくる。しかし、本物のヘクターはレザー版のそれよりはるかに活発で(そしてふわふわで)、元気に尻尾を振り、私たちの足の間を忙しく動き回る。
その日は、ヘクターにとっては珍しく静かな朝だった。『DOGUE』カバー撮影のために集まった見慣れない人々の群れ見て、ブラウンは驚いた。「ヘクターは何にでも吠えるのです」と、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)会長でもあるブラウンは言う。ブラウンとボルトンは毎朝、ヘクターを前庭に放し、安全な囲いの中で思う存分吠えさせているという。
私が去ろうとすると、ブラウンは錬鉄製の門の通り側に立つよう指示した。ヘクター自慢の遠吠えを見せてくれるという。ヘクターは小さなニットを着たままドア飛び出てきて、レンガ造りの邸宅のアーチ型をした玄関前の階段に腰を下ろし、ありったけの大声を出してくれた。
その後、家の中に戻るようブラウンがヘクターに指示しても、ヘクターは動かない。「ほらほら!」と、ブラウンは1オクターブ上の声でヘクターを促す。「ヘクター、ほら、入りなさい」。頑固な子どもと交渉する親のように、ブラウンの声はさらにキビキビとする。結局ブラウンが折れ、ヘクターはしばらく外で好きに吠えさせることにした。皆がトム ブラウンの服を着ていても、実際はヘクターを中心とした世界で生きているのだ。
以下、トム・ブラウンが『DOGUE』のインタビューに答えてくれた。
──ヘクターのいちばんの長所は?
彼の精神でしょうか。あとはとてもキュートなところです。
──ヘクターが映画に出るなら、誰に声優を担当してほしいですか?
ダニエル・デイ=ルイスです。
──ヘクターに話しかけるとき、甘い声になりますか?
はい、もちろんなります(笑)。飼い主たちにはそれぞれ、外では聞かれたくない声があるでしょう?
──ヘクターの変なニックネームはありますか? その由来は?
そのままヘクターか、ヘッキーと呼んでいます。
──ヘクターを連れて行きたい場所はありますか?
どこへでも連れて行きたいところですが、ヘクターはあまり旅行が得意ではありません。何度かヨーロッパに同行させました。とても面白い話があるのですが、話していいのかな……(広報担当者が首を振る)、ダメでした(笑)。本当はあらゆる場所に一緒に行きたいと思っています。
──ヘクターに1つだけ伝えられるなら、何と言いたいですか?
街で見かけたものを何でも食べないで! ヘクターは胃が弱いんです。
──最も「人間っぽい」ヘクターの行動は?
ヘクターは人間のような目をしています。きっと私が言っていることを理解していると、目を見たら分かります。
──最も「犬っぽい」ヘクターの行動は?
何にでも吠えること。私たちは朝、ちょっとしたゲームをします。ドアを開け、ヘクターを外に出して、近所じゅうに声を響かせます。
──ヘクターのフルネームは?
ヘクター・ブラウン=ボルトンです。
──星座は?
1月下旬生まれなので、そのあたりの星座です(やぎ座かみずがめ座)。
──お気に入りのおもちゃは?
ハリネズミのおもちゃです。
──ヘクターの好きな食べ物は?
お腹が繊細なので、ドッグフードだけを食べます。
──ヘクターの悪いクセはありますか?
吐くこと。場所は決まっていなくて、家中どこにでも吐きます。
──変なクセは?
変なのかわかりませんが、自分のしっぽを追いかけます。
──ヘクターから見たあなたの悪いクセは何だと思いますか?
旅行が多いから、多分、たくさん留守番させてしまうことですね。
Text: Hannah Jackson Photography: Poupay Jutharat Translation: Rikako Takahashi Adaptation: Mamiko Nakano
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