FASHION / TREND & STORY

ヴィクトリアズ・シークレット、新章の幕開けとなる「ワールドツアー」を発表。女性のための新たな“セクシー”を追い求めて

2019年11月にヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)のファッションショーが正式に中止されてから約4年。女性の視点からの新しい「セクシー」を模索しながら、「ワールドツアー」を発表した。大規模なリブランディングの成果が、今年9月に日の目を見ることになる。
Designer Bubu Ogisi in the Victorias Secret World Tour poster.
Designer Bubu Ogisi in the Victoria’s Secret World Tour poster.Photo: Courtesy of Victoria’s Secret 

最後のヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)ファッションショーがCBSで放送されたのは、2018年12月のこと。その1年前、このショーは世界中で10億人にものぼる視聴者を集めたが、その規模と成功はダイバーシティインクルージョンの推進に同社を盲目にさせた。

そして、さまざまな人種や体型を称えたリアーナによるブランド、サヴェージ X フェンティSAVAGE X FENTYが2018年にローンチすると、ヴィクトリアズ・シークレットの多様とは言い難い美の概念が浮き彫りになった。谷間をつくるプッシュアップブラ、鍛え上げられた腹筋、天使の羽、そして時には文化の盗用とも取れるヘッドピースやその他のアクセサリーに依存することは、時代遅れと映るようになったのだ。さらにはオーナーが性犯罪の疑いをかけられたジェフリー・エプスタインと絡んでいたことが明らかになり、2019年11月にこのファッションショーは正式に中止となった。

大規模なリブランディング

その後、同社は大規模かつ野心的なリブランディングに踏み切った。これまでのショーの設計者を排除しただけでなく、“エンジェル”と呼ばれてきたミューズを“VS コレクティブ”と改名し、ミーガン・ラピノー、プリヤンカー・チョープラーパロマ・エルセッサーを含むより多彩なモデルたちを起用。サイズ展開も拡大し、そのほかにも、男性主導の「セクシー」の定義にそぐわないという理由から、長年目が向けられることのなかった授乳ブラや乳がん手術後用のブラといった製品も開発した。ヴィクトリアズ・シークレットの親会社であるLブランズの創業者であるレスリー・H・ウェクスナーも会長兼CEOを退任し、保有する株式の過半数を売却。これらの変革を経て、アメリカにおけるランジェリーブランドのリーダーとしての地位を維持しながら、2022年には前年と比較してわずかな成長を遂げるまでになった。

現在、ヴィクトリアズ・シークレットはこれまでで最も大きく、最も目に見えやすい変化として、年に一度のショーの刷新にあたっている。これに加えて長編ドキュメンタリー映画も制作し、9月にその全貌を公開する予定だ。かなり急進的な改革ではあるが、同社はこの「ワールドツアー」がかつてのヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーと同じくらい華やかで、壮大なものになると確信している。

東京のJENNYFAXも参画。女性クリエイターたちに光を当てて

このプロジェクトを率いるヘッド・クリエイティブ・ディレクターのラウル・マルティネスは、「もう自分たちのことを説明する必要はない」と話す。「私たちは進化し、前進しましたが、大切な要素は忘れてはいません。私たちは女性の声を称えるストーリーテリングと、あのアイコニックなファッション・エンターテインメントの両方を実現させるのです」

「ヴィクトリアズ・シークレット・ワールドツアー」と名付けられたこの新しいショーには、世界4都市から国際的な女性クリエイターたちが参画。「VS 20」にはファッションデザイナー4人を中心に、映像作家、ミュージシャン、アーティストなどのクリエイターたちにスポットライトを当てる。ヴィクトリアズ・シークレットのネットワークを駆使し、ロンドンスプリヤ・レーレ(SUPRIYA LELE、ラゴスのブブ・オギシ(BUBU OGISI)、東京ジェニーファックス(JENNYFAX)、ボゴタのメリッサ・ヴァルデス(MELISSA VALDES)がそれぞれコレクションを制作し、その舞台裏が収録されるそうだ。この4人のデザイナーの物語は、ヴィクトリアズ・シークレットがデザインした作品の第5弾をフィーチャーしたファッションショーの映像で見ることができるという。

今求められる、新しいイメージメイキング

オハイオ州コロンバスのヴィクトリアズ・シークレットのオフィスで、VSファッションショーのアーカイブを見学するマーゴット・ボウマン。

Photo: Courtesy of Victoria’s Secret

ロンドンを拠点とするデザイナー、スープリヤ・レーレとそのチームを追いかけるディレクターのマーゴット・ボウマンは、若い頃にヴィクトリアズ・シークレットのランウェイショーを見ることを避けていたという。良くも悪くも、アイコニックかつパワフルな女性像が映し出されていたからだ。ボウマンは今、「より多くの人々が自分自身を重ねることができる、新しいイメージメイキングを展開する機会」と考えている。このヴィクトリアズ・シークレットの新しいイメージに、世界は注目するのだろうか?

ヴィクトリアズ・シークレットは昨年、マット・ティルナウアー監督のドキュメンタリー「Victoria's Secret: Angels and Demons」で、元オーナーとジェフリー・エプスタインとの関係を調査している。また、元Business of Fashionのジャーナリストが執筆した『Selling Sexy: Victoria’s Secret and the Unravelling of an American Retail Icon(原題:“セクシー”を売る: ヴィクトリアズ・シークレットとアメリカン・リテール・アイコンの崩壊)』は2024年初頭の発売を予定しており、このブランドが辿ってきた険しい道のりには当分関心が寄せられそうだ。そして同社が再構築を図っている間に、新たなライバルが現れたことも忘れてはならない。キム・カーダシアンは2019年にスキムズSKIMSを立ち上げ、現在では30億ドル以上の評価を受けるまでに成長をしており、ランウェイでシェイプウェアブームを巻き起こすなど、その影響力は計り知れない。また、アーティストのリゾも「セルフラブと内なる自信」をコンセプトに掲げたライバルブランド、イッティ(YITTY)を昨年に始動させており、これらのブランドはランジェリー業界がどのように変化しているかを例証している。

ヴィクトリアズ・シークレットが3月の決算で、ファッションショーの新バージョンに投資すると発表したとき、リゾはツイッターに「これはインクルーシビティの勝ちを意味する」と投稿。そして彼女はこう続けた。「でも、もしブランドが反発を受けたからという理由だけでこれをやっているのなら、『トレンド』が再び変わったときはどうなる? これらの企業のCEOは、真のインクルージョンを重視しているのだろうか? それとも、お金だけが目的?」

「VS 20」が担う役割

スープリヤ・レーレ。ロンドンのスタジオにて。

Photo: Courtesy of Victoria’s Secret 


女性のエンパワーメントというヴィクトリアズ・シークレットの新しいアジェンダを人々に納得してもらうために、「VS 20」が担う役割は大きい。インドの伝統を生かしたドレープデザインを展開するスープリヤ・レーレは、自身のブランドとヴィクトリアズ・シークレットの間に相乗効果を見出す。VSコレクティブのメンバーであるパロマ・エルセッサーは、レーレのロンドンのランウェイを歩いたことがあるモデルだ。「以前はそうでもなかったのですが、今なら共感できる部分があるんです。彼らの発信することがより現代に適したものになってきていると感じます」と彼女は言う。「チームと会った後、これは女性中心の視点を前面に押し出す大きな決断だと理解し、本当に素晴らしい機会だと思いました」。同社はレーレや他のデザイナーのコレクションを商品化することはなく、ワールドツアーはあくまで彼らの才能を披露するためものとするそうだ。

オギシはヴィクトリアズ・シークレットから連絡があったとき、驚きを隠せなかったという。「正直を言うと、当初は無視したんですよ」と彼女は笑う。「私の作品はランジェリー中心ではないので少し戸惑いましたが、このワールドツアーでヴィクトリアズ・シークレットはさまざまな“実験”をしていて、私の作品の核となる要素も、“実験”にあるのです。彼らがどのようにランジェリーを作っているのか、その構造に手を加え、どういった変化を起こすことができるのかを突き詰めていくと、とても素晴らしいアイデアだと思いました」。彼女の作品は、アフリカ各地の職人によるクラフツマンシップを取り入れたものだが、今回のコレクションではヨルバ神話と日本の神話をモチーフにしているという。彼女はこれについて、次のように説明する。「一人一人が神聖な存在、高次の存在、つまり、“女神”になるのです」

コムアイをフィーチャーしたキャンペーンヴィジュアル。

Photo: Courtesy of Victoria’s Secret
Photo: Courtesy of Victoria’s Secret 

ここで強調したいのは、オギシがあえて「女神」とし、「セックスの女神」だとしなかったこと。果たしてヴィクトリアズ・シークレットのワールドツアーは“セクシー”になるのだろうか? 「もちろん」とマルティネスは自信を見せる。そして彼はこう続けた。「でも今回は、“女性”のレンズを通したものです」

かつてのヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーと2023年のワールドツアーの大きな違いは、女性が単に視聴者を楽しませるための「物(object)」ではなく、「主体(subject)」となるということにあるだろう。作り手である女性たちも、それぞれ異なる視点から“セクシー”を追求している。このドキュメンタリーのロンドン編を手がけるディレクターのボウマンは、次のように指摘する。「レプレゼンテーションのあり方が大きく変化していることは確かですが、スクリーン上で描かれる女性たちに自分を重ねられるような作品は、特にファッションという枠組みではまだ珍しいと思います」。彼女は現状を見つめながらも、この映像にかける意気込みをこう語った。「人々がこの作品を見たときに、女性のあり方というのはひとつではない、いろいろな姿があるのだと思ってもらいたいです」

Text: Nicole Phelps Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.COM

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