グラミー賞でヴェルサーチェ(VERSACE)ののドレスを纏ったオリヴィア・ロドリゴや、ミュグレー(MUGLER)の80年代もののワンピースをエミー賞に着て参加したラバーン・コックスなど、ヴィンテージのレッドカーペットルックが豊作となっている今年のアワードシーズン。しかし、アーカイブピースではなくオリジナルをベースにしたレプリカを着るセレブも、実は徐々に増えてきている。直近では、キャリー・マリガンがスキャパレリ(SCHIAPARELLI)が1949年に製作したガウンの復刻版をゴールデングローブ賞で着用。そしてマーゴット・ロビーも、映画テレビ芸術アカデミー賞(AACTAアワード)で、1998年春夏コレクションに発表されたヴィヴィアン ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)の“パイレーツ”ブライダルドレスを再現したルックを披露した。
アーカイブアイテムを讃えるレプリカの落とし穴
こうしたリメイクルックは、近年のヴィンテージへの関心の高まりを反映しているのは明らかだ。しかし、すでにあるものを着るのではなく、新しいものを作り出すことは、ヴィンテージの本質を見失っていることにはならないのか。オンラインヴィンテージショップTab Vintageの創業者であるアレクシス・ノヴァックは、「ヴィンテージピースを参考にするという面白さはありますが、以前には存在しなかった過剰なものを作り出しています」と『VOGUE』に語っている。
サステナブルであるという点はもちろんだが、ファッション史に残る超レアなピースを探し出すこともヴィンテージの魅力のひとつだ。「ヴィンテージ・ディーラーやアーキビストは、貴重なピースを探し出すために多くの時間とエネルギーとお金を費やしています 」とノヴァックは続ける。 「大手ブランドやメゾンが昔のデザインを再現してしまうと、私たちみたいな個人ビジネスは太刀打ちできません」
当然ながら、オリジナルのピースを着用するのが難しい理由はいくつかある。
メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートが毎年開催する特別展覧会の2024年のテーマは『Sleeping Beauties: Reawakening Fashion(眠れる美への追憶──ファッションがふたたび目覚めるとき)』。メットガラのドレスコードのインスピレーションともなる同テーマは、コスチューム・インスティテュートが所有する、二度と着ることができないほどもろい、歴史的に価値がある衣服にちなんでいる。その中のひとつが、ディオール(DIOR)が1949-50年秋冬コレクションで発表した「ジュノン」ボールガウンだ。昨年、ナタリー・ポートマンがカンヌ国際映画祭でレプリカを纏ったこの一枚は、「アーカイブや博物館などに所蔵されているディオールの最も貴重なデザイン」のひとつで、展示されれば世界中の話題を呼ぶとMon Vintageの創業者マリー・ブランシェは語る。「メゾンはかつてないほど過去(のデザイン)を活用し、それぞれのヘリテージを作品に取り入れています」と続けた。
マリリン・モンローが1962年にジョン・F・ケネディ大統領の誕生日を祝う式典でバースデーソングを歌った際に実際に着ていたかの有名ドレスをキム・カーダシアンが2022年のメットガラに纏って出席し、批判を浴びたのは記憶に新しい。Aralda Vintageの創業者であるブリン・ジョーンズは「アーカイブ・ファッションに関しては、衣服の保存を常に最優先するべき」だと言う。「(世の中には)博物館などで保管されるべきピースがあります。これらは、もう着るにはあまりにも貴重で、壊れやすいです。そういう意味でリメイクは、ランウェイに登場したルックを実際に着たいときにはいい代替案です。そしてうまくやれば、過去への素晴らしいトリビュートになり得ます」
実物にしかない圧倒的なオーラ
ヴィンテージのアイテムを纏えないもうひとつの理由はサイズだ。アーカイブピースの多くはサンプルサイズに仕立てられていて、それだけで着られる人がかなり限定される。「サイズや仕立ての必要性を考えると、正しく着こなせる可能性はさらに低くなります」とジョーンズは加えた。
それでも、ピースのイメージにぴったりと合うセレブが纏えば、レプリカには決して再現できない魅力が実物にはあることがわかる。『デューン 砂の惑星PART2』のロンドンプレミアにミュグレーによる1995-96年秋冬オートクチュールコレクションのボディスーツを着用したゼンデイヤや、第75回カンヌ国際映画祭でのベラ・ハディッドがいい例だ。ジョーンズは言う──「復刻版を着ても、歴史の一部となっているピースを着たときのような心を揺さぶる効果はないのです」
Text: Emily Chan Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.CO.UK