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混沌とした世界の中でこそ再確認したい、「日本らしさとは、私たちの中にある」【連載・ヴォーグ ジャパンアーカイブ】

経済や文化のグローバル化が進む中で、世界におけるアジア諸国の影響力は年々強くなっている。そんな新たなアジアン・パワーを紹介する今月号にちなんで今回ピックアップするのは2013年4月号。バロック的な視点で日本美を追求したパワフルな一冊からは、今こそ私たちが向き合うべき「日本らしさ」とは何か、そして「それは誰/どこからの視点か」が大切なのだと教えてくれる。

色彩にあふれ、何度見ても飽きることのない大充実の誌面である。日本にインスパイアされた服が多かった2013年春夏コレクションにちなんで、タイトルは「LOOK EAST! ニッポンって、かわいい。」。表紙モデルは金髪の白人女性。ミウッチャ・プラダがデザインした、家紋や琳派の意匠を連想させる柄のトップを着ている。ふむ。 当然ながら、「LOOK EAST!」は日本を西方から眺める視点である。はるかユーラシア大陸の反対側の欧州、さらには大西洋を越えたアメリカ大陸からの視点。ヴォーグ ジャパン編集部の立ち位置もニューヨーク、あるいはパリなのかもしれない。そして日本を再発見するために「東を見る」西欧人たちの視点に同化したのだろう。モードの中心は西欧なのだから「LOOKEAST!」を用いることに疑問はなかったのかもしれないが、今は私のように「それはどこから見てるんだ」と言いたくなる読者もいるだろう。

一方、巻頭のエディターズレターで、当時の編集長は前年に亡くなった歌舞伎俳優の中村勘三郎さんの言葉を引用している。「型があるから“型破り”ができる。型がなければただの“型なし”だ」。そして自信を失っていると言われる日本の人々に向かってこう続けるのだ。「今ここで思い出してみてはどうでしょうか? 『日本』はどこかから〝取り戻す〞のではなく、私たち自身の“ここ”にあるのだと」

ご記憶だろうか、「日本を、取り戻す。」という掛け声を。12年9月の総裁選から翌年にかけて、自民党が用いたスローガンである。新総裁には、安倍晋三氏が選出された。民主党政権下で野党だった自民党は、「戦後の歴史から、日本という国を日本国民の手に取り戻す」という安倍氏の掛け声のもと、同年12月の衆院選で勝利。安倍氏は首相に返り咲いた。直後に著書『美しい国へ』の増補版を出版。この号が発売されたのはそのおよそ2カ月後だ。そういう時代の空気の中で、日本の美意識を取り上げる特集を組むことにどのような意図があるのか、編集長の筆致はさりげなく、しかし痛烈な批判のようにも読める。タイトルの安直さとはまた違う視点がここにはしっかりと記されていることに、強い印象を受けた。

特集にはミウッチャ・プラダのインタビュー記事もある。最新のコレクションについて、ミウッチャは「幾何学的で精緻、そしてフェミニン」なものを追求する過程で、たまたま日本の美意識そのものに通じる衣装が生まれたのだと語る。あくまで偶然なのだと。そして『源氏物語』が好きだとも明かしている。「あらゆる感情や行動がそれぞれの色と形を持っている」という視覚優位的で共感覚的な彼女の感想は、日本の意匠を説明するのにそのまま使えそうだ。今は「文化の盗用」という言葉も広まりつつあるが、このときミウッチャは他国の文化になぞらえるようなデザインは避けていると明言。そして最新コレクションの力点はフェミニズムにこそ置かれていると語った。

2024年のNHKの大河ドラマの主人公が紫式部であることに関連してか、昨年からフェミニズムの視点で『源氏物語』を読み直す試みの書籍が複数刊行されている。偶然とはいえ、文化や時代の違いを超えた美の普遍性を語るときには、自ずとフェミニズムとの接点が生まれるのかもしれない。 この号の圧巻は、スタイリストの北村道子氏による即興の着物作りである。日本にインスパイアされた数々のハイブランドの最新コレクションの服を歌舞伎俳優の中村隼人に打ち掛け、巻きつけ、あたかも絢爛豪華な和装束のように仕上げている。「日本にインスパイアされたドレスにインスパイアされた着物」という斬新な発想。現場に立ち会った編集者は今も湯が沸きそうな熱気を込めて撮影の様子を語って聞かせてくれた。今だったらブランド広報担当者と着物ポリスが緊急出動しそうな挑戦的な企画だが、北村氏の美意識とカメラマンの腕によって実現した奇跡だという。

それから11年、世の中も誌面も大きく変わった。アジア系のモデルが劇的に増え、世界的に活躍するアジア系の新進デザイナーも多い。もし2024年に「LOOK EAST! ニッポンって、かわいい。」という特集を組むなら、その最も雄弁な視点の持ち主は、おそらく日本の西側に位置する中国や韓国の人たちだろう。今は西方から海を越えてたくさんの観光客がやってくる。同じアジアの南方の国々からも、日本のカルチャーに親近感を覚えて訪れる人は多い。その人たちの目に日本の意匠はどのように映っているのか。11年前のはるか西方から眺めた「LOOKEAST!」特集号とは異なる「隣人たちから見た日本」はどのような姿なのか。ぜひ知りたい。私が勝手に読みたがっているだけだが、一読者のリクエストとして記しておく。

Photos: Mikael Jansson (cover), Shinsuke Kojima (magazine) Model: Doutzen Kroes Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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