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教えて! 「不安」とうまく付き合うための5つの方法。

いま、世界人口の約3.6%もの人々が「不安」という見えない敵に苦しめられているといわれる。しかし、その症状を和らげるための治療を受けている人は、全体の4割にも満たない。では、そもそも「不安」ってなんだろう? どうすれば「不安」から自身を解放してあげられるだろう? その正体からセルフケア術まで、メンタルヘルスのプロたちにアドバイスを聞いた。

もっとも深刻なメンタルヘルス問題。

Photo: Deborah Turbeville/Conde Nast via Getty Images

私は昔から、ピクサーの『トイ・ストーリー』シリーズが大好きだ。特に、おもちゃたちがそれぞれに性格が違うところが気に入っている。バズは冒険心に溢れる楽天家、ウッディは誠実で冷静沈着(少し仕切り屋でもある)、ジェシーは元気で情熱的。そして、私が一番感情移入しているティラノサウルスのレックスは、感受性が強く、不確実さを心の底から嫌っている。

私は、自分がこういう性格なのは「おうし座」生まれだからだと思うこともあるが(おうし座は、出不精で変化を嫌うとよく言われる)、先が見通せないということに本当に耐えられないのだ。ちょっとした不便から真っ逆さまの破滅まで、見通しが立たないといくつもの不安が頭の中を駆け巡る。悪い時は何もかも投げ出して、パニックになりながら親友にメッセージを送りつける。そして気づくのだ。どうやらこれは、私一人だけの問題ではないらしい、と。

2018年発表の保健指標評価研究所の報告書では、パニック障害、強迫性障害、全般性不安障害(GAD)、社交不安のいずれかの形で不安に苦しむ人が全世界で2億8400万人もいるという(国連が発表している2019年の世界人口は約78億人なので、約3.6%に当たる)。この数字からも、現代におけるメンタルヘルス問題の中で「不安」はもっともメジャーなトピックと言えるだろう。アメリカ不安障害協会によれば、アメリカだけをみても不安に苦しむ人の割合は毎年18%に上っており、そのうち治療を受けているのはわずか36.9%にとどまっている。

不安とは何か。  その正体を掴め!

Photo: Getty Images

でも、不安とは一体全体どういう状態のことを呼ぶのだろう?

「概して言えば不安障害とは、不安があまりにも大きく、ごくありふれたことがやりたいのにできない、あるいは非常にやりづらくなっている状態です」

こう語るのは、精神科医にしてセルフヘルプ書のベストセラー『The Worry Trick』の著者であるデビッド・カーボネル博士。これは日常生活のさまざまな場面で現れ、日々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に深く影響を及ぼす。例えば、恥をかくことを恐れて、特定の状況下での車の運転や飛行機への搭乗、また人の集まりの中に出ていくことが困難になるという状況だ。根本的には、「普通」の行動が過度のストレスや苦痛を生み出している状態なのだ。『How to Be Yourself: Quiet Your Inner Critic and Rise Above Social Anxiety』の著者であるエレン・ヘンドリクセン博士は、こう解説する。

「不安と恐怖はよく似ています。不安とは、未来について抱く恐怖です。自分の想像の及ぶ範囲の先にある不安とは、『もしこうなったらどうしよう?』と、これから何がおこるか分からないということに対して、『自分は大丈夫なのか?』と絶えず自問することです」

不安を引き起こす重要な要素は、数十年前から変わっていない。困難な人間関係や失職、孤独、精神的外傷、そして他者との衝突などだ。しかしデジタル時代の現代では、特有の新たな問題も生まれている。24時間ネットワークにつながっているということは、単にニュースが目に入ってくる(良いニュース、悪いニュース、壊滅的なニュース)だけでなく、データハッキングやネット荒らし、システム障害などの危険にもさらされることを意味する。ハードルは数限りない。デジタル革命にともなって人同士のフィジカルな交流の必要性が減り、SNSの隆盛によって、フォロワー数やいいねの数といった、何らかの指標で測られる幸福がより重視されるようになっている。

テクノロジーの進化によって、日々の用事を済ませるために家を出る必要性も減っている。これも、さらなる問題を生じる要因だ。たとえストレスフルであっても、必須の用事によって他者と直接対面せざるを得なかったのが、今ではスクリーン上で快適に片付いてしまう。テキストを送れば済むのなら、どうして直に会ったり電話をしたりする必要があるのか。Slackがあるのに、どうして同僚と会話をしなければいけないのか。

生きる上で必要な機能。

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不安が生まれる場所。

不安の発生にからむ要素は複数あるが、遺伝もその要因だ。不安の傾向は遺伝子プールから受け継がれうるが、人生の重大な変化がそれを助長する。退学や初めての一人暮らし、転職、引っ越し、失恋、子どもの誕生など、状況の変化を伴う不確定な出来事がそれだ。不安で苦しんだことのなかった人にその傾向が現れるのは、そうしたターニングポイントで起こる場合が多いという。ヘンドリクセン博士は言う。

「しかしそれは自然の中に織り込まれ、遺伝的要素の占める割合が多いのです。多くの場合、不安の引き金となるのは人生における転機であり、特に不確定要素が多いシチュエーションで何か快適ではない状況が発生したり、結果が予測できないといったことが起こると現れることが多いのです」

カーボネル博士の意見も同じだ。

「遺伝的な傾向は存在し、影響の強さは家系によって異なります。私が強く感じているのは、生まれつき不安障害になりやすい人に何かが実際に起こった場合、そうなるだけの理由があったのだ、ということ。パニック障害の場合、18歳から30代前半までのあいだに起こることが多い。つまり、親元を離れて自立するとか大人になるといった本来ならば前向きな変化が、ある日突然、重圧に変わることがあるのです」

「治せる」は間違い。

そうした状態を脱する、つまり「治す」には、どうすればよいのだろう?カーボネル博士は、しかし、この「治す」という言葉には注意が必要だとアドバイスする。

「『治す』という言葉の使い方には問題があります。不安と病気は違うからです。不安が極端になると、『治さなければ』という精神状態に陥り、それに依存するようになります。そのような執着が生まれると、自分がちゃんと『治って』いるか確かめなければ、という考えに取り憑かれることにもなり、逆効果になってしまいます。不安は誰の人生にも当たり前に存在します。しかし、それが極端になると、日常生活に支障をきたすことになります。大切なのは、『治す』のではなく『コントロール』することです」

またヘンドリクセン教授は、不安は私たちが生きる上で必要な機能でもあるという。

「一部の不安は適応できるもので、必要なものです。私たちの身の安全を守り、向こう見ずな行動をしないためのストッパーになるからです。私たちが立ち止まって考えるのは、不安があるから。いわば煙探知機なのであって、スイッチを切ってしまってはいけないのです」

というわけで、ここからは具体的な対処法を学んでいこう。

不安をコントロールする方法を学ぼう!

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1. 不安を「具体的に」つかむ

では、具体的にどうすれば不安をコントロールすることができるのだろう? 不安とは曖昧なものなので、ヘンドリクセン教授曰く、自分の考えを質問に落とし込むのも一手だ。

「状況を具体的に仮定できれば、『もしこうなったら』という考えに反論ができます。たとえば上司に呼び出されたとしたら、自分が恐れる結果は何であるかを具体的に考えるのです。つまり、自分は何を心配しているのか自問する。そうすれば、理屈で不安を払拭しやすくなります」

具体的に掴むためのコツは以下のとおり。 
● 自分が恐れる結果を具体的につかむ。例:もし今日上司に仕事をクビにされたら? 
● 質問を陳述の形に変える。例:上司は今日、自分をクビにしたりしない。 
● 過去にそれが起こったかを自問する。例:これまで上司は自分をクビにしただろうか? 
● それが起こる確率は? 例:低い。
● 自分にはどうにもできないと考えることからも不安は生まれる。心配事に対する解決策を立ててみよう。そうすれば、不確実性を減らすことができる。

2. 曝露療法 

専門家の力を借りずに自分で対処する場合でも、不安を専門家の治療を受ける場合でも、不安への曝露が成功の鍵だ。しかし、曝露療法には、ストレスと不安を生み出す状況に直面する必要があることも覚えておこう。カーボネル教授は言う。

「ポイントは、焦らずに一つずつ行うこと。戦いや抵抗、努力が必要なかたちで進めるのは望ましくありません。そうすると、闘争・逃避反応を引き起こし、さらなる負荷がかかってしまうからです。曝露療法とは、不安と『戦う』ことではありません。その状況が不快であることを意識できるようになるまで、そこに身を晒すのです。逃げずに踏みとどまって、やがて不安が落ち着いてくることを理解することなのです」

注意すべきは、不安に対処することは、不安を引き起こしている原因から逃げることを意味するのではないということだ。不安の原因には、車の運転や職場でのプレゼンなどさまざまなことが考えられるが、対処するとは、そうしたことが自分の破滅につながるわけではないとわかるまで、不安の中に身を置くことだ。

「不安から逃げると、不安=自分にとって有害だという間違った考えを抱くことになります。ストレスフルな状況に身を置くという姿勢を取れば、不安に対する恐れが少しずつ緩和されていくはずです」

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3. 瞑想と呼吸

メンタルヘルスには瞑想が効果的だと証明されている。ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学の研究者は、不安への対処法としての瞑想の効果を調べるため、47回の治験を行った。この研究によって瞑想は、「もしこうなったら」という不安を鎮める上で高い効果があると示されたのだ。カーボネル教授はこう加える。

「呼吸法もいいツールです。パニック障害を持つ人は、概して呼吸のしかたが乱れがち。胸が苦しくなると、他にもさまざまな症状を引き起こします。これを和らげるためにも、リズミカルな呼吸のエクササイズを知っておくことを推奨します」

4. 睡眠

十分な睡眠をとれば、副腎が落ち着いて体内のコルチゾールが減り、闘争・逃避反応が起こりにくくなる。不安を感じやすい人はやがて平静を保てるようになり、不安の引き金になりうる出来事があっても立ち直りやすくなる。

5. エクササイズ

カーボネル教授はこうアドバイスしている。

「心身の健康にエクササイズは有効ですが、不安障害には特にそうです。不安障害を抱える人の多くはエクササイズを怖がりますが、その理由は心拍数が上がり、呼吸が乱れるからです。しかし注意を払いながらエクササイズすることを学べば、高い効果が期待できます。つまりバランスが問題なのです。一番いいのは習慣に組み込むこと。週3回から5回、30~40分のエクササイズが役に立ちます。逆に効果がないのは依存の思考に陥ることで、例えば『何か難しいことをしなければならないとき、必ず激しいワークアウトを1時間しなければ』というような思考です。エクササイズは盾ではありません。効果を得るためには、日々摂取するビタミンのように考えるのがいいでしょう」

Text: Emma Strenner

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