「年齢を重ねて賢者のように扱われがちだけど、気持ちは子ども。毎日を楽しみたいだけなんです」──クリステン・マクメナミーがクールであり続ける理由
スーパーモデル全盛期だった1990年代、ゴージャスで華々しさを競ったほかのモデルたちとは異なり、クリステン・マクメナミーは独創的でエッジの効いたスタイルで異彩を放っていた。58歳の今もランウェイや広告キャンペーン、雑誌のカバーなど、引く手あまたの彼女がキャリアをスタートさせたのは、実に40年以上も前のこと。
伝説の写真家ピーター・リンドバーグをはじめとする著名写真家たちに愛され、常に自由に全力でファッションとともに生きてきた彼女。ブロンドやロングヘアが主流だった当時のモデルたちの中で、真っ黒なショートヘアとマスキュリンな佇まいは独創的で、ひと際目を引いた。
「モデルの仕事を始めたのは17歳のとき。ピーター・リンドバーグと数々の現場をともにするようになったことで、パリでは名を知られるようになったんです。ところがその後NYに戻ったら、まったく受け入れてもらえなかった。万人から愛されるような笑顔も親しみやすい雰囲気も持ち合わせていなかった私は、挫折を味わっていました」。そんなある日、その後のキャリアを左右する出来事が突然訪れた。
「その頃は赤毛だったんですけど、スティーブン・マイゼルとの撮影現場で自分で髪をバサッと切って黒く染め、ついでに眉毛もそり落としたんです。スティーブンがヘアを担当していたギャレンに『綺麗に整えてあげて』と言って彼がヘアを仕上げてくれて、メイクのフランソワ・ナーズが私の眉毛を整えてくれたんです。それがすべての始まりでした。自分の中で確実に何かが変わったのを感じました」
この大胆なイメチェンが彼女のキャリアの道を拓き、現在に至るまでクリステンのモデル人生は進行形だ(途中数年間の活動休止期間もあるが)。58歳となり4児の母でもある彼女の生き方の指針となっているのが、マイゼルの教えだ。
「もしもスティーブンに求婚されていたら、絶対に結婚していたと思う(笑)。彼と働いたことのある女の子たちはみんなそう思っていたんじゃないかな。そのくらい彼は人間的な魅力と優しさにあふれた人。良き友であり、私の向上心を刺激してくれる素晴らしい存在で、本当にやりたいことは、リスクを負ってでも冒険してみるべきだと教えてくれたのも彼でした。ピーター・リンドバーグも素敵でしたし、グイド・パラオとはともに成長をしてきた仲間。ヘレナ・クリステンセンとはずっと変わらぬ友情で結ばれています」
コロナ禍に始めたインスタグラムは、多くの注目を集め、今や17万人以上のフォロワーを持つ。自らを被写体に1日1投稿に近い勢いで更新を続ける日々の“クリステン流コーデ”には、ファッションの楽しさと可能性が詰まっている。
「正直、最初はインスタグラムなんて若い子のやるもので、私向きではないという偏った考えを持っていました。でも始めてみると、ものすごくクリエイティブになれる。ファッションを生業としている私が、自分のワードローブを使って世界に見せたことのない私だけの写真を撮影するというのは、気分転換にもなるし、とにかく楽しい。普段なかなか日の目を見ることのない服やアクセサリーたちをお披露目できるいいチャンスにもなっています」。
投稿や写真撮影におけるマイルールなどは特になし。ロケーション選びも自ら行い、自宅はもちろん、ホテルの部屋や路地などで撮影されることも。
「撮影を続ける中で、自分が欲しい一枚を演出する技術も向上しました。現場に着いたら撮りたい写真のアングルを決めて、あとは誰かにカメラのシャッターを切ってもらうだけ。今はティーンエイジャーの息子2人と同居しているので、自宅で撮影をするときは彼らに頼むことが多いです。思いきり面倒くさそうに、しかもめちゃくちゃ適当に撮ろうとするから困っちゃうんだけど(笑)。あとは、やっぱり私のインスタグラムを見て、世間的に歳だと言われている人たちが、『いくつになっても、どんな服も好きに着ていいんだ』って思ってくれたらうれしいです。型にはまる必要なんてないんだって」
これまでファッションの失敗はナシ! その心は……。「ルールに従わない」をモットーに自己流を走り続けるモード&新インスタグラムの女王
ファッションは楽しむものであり、年齢や体型に関係なく、個性を輝かせることが大事だと、クリステンは繰り返し主張する。そんな彼女にファッションの失敗談があるかと聞くと、即「ない」との答えが返ってきた。
「なぜなら、それは学びだから。でも過去に出席したブリット・アワードで、『やっちゃった』と思った記憶はありますけどね。アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)の素敵なドレスを着て、派手なヘアメイクにたくさんのジュエリーをレイヤードして、がっつりつくり込んで出かけたんです。今思うと、あのスタイルはちょっと過剰だったかな(笑)。でもそれは“間違い”ではなく、“学び”! 次のスタイルに生かせばいいだけですから」
そんな彼女のファッションのモットーは「ルールに縛られないこと」。ファッションは外見的なことに見えるが、実際は着ている人の内面を反映しているという。「そもそも、もしルールに従っていたら、私は今頃こんな色のロングヘアにはせず、世間の常識に合わせてショートヘアにしているだろうし、ドレスの代わりにパンツとスニーカーをはいているはず」。そして加齢も恐れることはないと宣言する。
「加齢は誰にでも訪れるものなので、心配しても時間の無駄。自分が着たい服を着て、好きなように生きればいいんです。残念ながら肌はシワやシミが増えることでしょう。でも、気になる人は意識をすればいいだけ。私はできる限り直射日光を避けて、日常でもUVケアだけは欠かしません。年齢というのは自身がそれをどう捉えるかで変わってきます。あまり陳腐なことは言いたくないけれど、結局人はいつでも実年齢よりも自分は若いと思っているもの。それでいいんじゃないでしょうか?」
彼女自身、若い頃の写真を見返したりすることはほとんどないのだという。「当時の自分を懐かしみ、若さに焦がれるようなことはしたくない。まったく違う時代の自分を見てしんみりするよりも、今を、そして先を見るほうがずっと大事。とにかくみんなには自分をもっと信じてほしいです。社会や他人の意見や批判に振り回されることも多いと思います。でも次第にそういう声を上手にかわす術というのは身についてくるもの。ちなみに私は最近鼻ピアスを開けたばっかり。たとえうまくいかなかったとしても、変化を続け、自分自身に飽きないというのはものすごく大事なことだと思うんです」
もしモデルという職に就いていなかったら、生まれ育ったアメリカのペンシルベニア州を出ることはなかっただろうと彼女は推測する。
「おそらく地元で専業主婦になっていたと思います。大学ではビジネスを学んでいましたが、1年で嫌気がさしていた。だからといって、そのまま学位を取得していたとしても当時の私の地元では女性は学歴を生かさないし、生かす環境もなかった。私の家族はみんなそうだったので、私もとても不幸な専業主婦になっていたと思います。だから、せっかくこうやって大好きな仕事ができている今、くだらないことで悩んだりしたくないし、後悔もしたくないんです」
最後にこの号のテーマである「ゲットレディ」にちなみ、クリステンがドレスアップをする際のポイントを教えてもらった。「私の場合は必ず一着のドレスからスタートします。着るドレスが決まったら、あとはそのドレスにマッチするアクセサリーを合わせていくだけ」。そして彼女はインタビューをこう締めくくった。
「今ほど世間がファッションを謳歌している時代はないように思っています。私がモデルを始めた頃のことを考えると、58歳の私がヴォーグの表紙を飾るなんて奇跡ですよね(笑)? でも私は自分を通して、年齢を重ねた女性たちに諦める必要はないということを示したいんです。今は何歳でも自分の自由に生きられる素晴らしい時代で、楽しんだ者勝ち。私自身も年齢を重ねて人生の賢者のように扱われがちですが、実際はまだまだ毎日を楽しみたい子どものようなものなんです」
Styled by Ai Kamoshita Hair: Olivier Schawalder Makeup: Daniel Sallstrom Manicure: Edyta Betka Casting director: Gabrielle Seo Visuals director: Yukino Moore Set Design: Sean Thomson Production: Mini Title Styling assistant: Raphael Del Bono and Donnika Anderson Interview & Text: Rieko Shibazaki