二日目のファーストセッションを飾ったのは、ジョイセフやSDGs関連のアンバサダーもしているモデルで俳優の冨永愛と、同じくモデルでアクティビストのローレン・ワッサー。モデルという立場から、長い間ファッション業界を見てきた二人が、働くことの意義やセルフケアなどについて意見を交わした。
ワッサーはトップモデルへの道を駆け上がっていた2012年に生理用品が原因で「トキシックショック症候群(TSS)」を発症。幸い一命をとりとめたものの、足を切断することとなった。タンポンが市販化された1970年代以降、何人もの女性がTSSで命を落としているのにも関わらず、依然として周知が進んでいない状況に対し、「TSSについて世界に発信して伝えていくことも、私の仕事だと思っています」と疾患に関する啓発や安全な生理用品の必要性について力強く語った。
何のために、誰のために働くのか──働くことの意義について問われた冨永は、「大きい質問ですね」と笑顔を見せた後、次のように答えた。
「自分の年代によって変わってくると思うんです。私は10代・20代前半までは自分のキャリアのために目標があったので働いていました。子どもを産んだ後は、『子どものためにも働かなくてはいけない』と思った時期がありました。その後、さらに年齢を重ねるにつれて、自分や家族のためはもちろんですが、より広い意味で『自分以外の誰かのために働く』ことに、一層やりがいを感じるようになりました」
続いて、今年5月に日本初のESG重視型グローバルベンチャーキャピタルファンド「MPower Partners」を起業したキャシー松井、村上由美子、関美和によるトークセッションでは、「自分らしい人生の切り拓き方」をテーマに、キャリアに悩む女性たちの背中を押すような熱くて愛のあるメッセージが多く紡ぎだされた。
50代でのキャリアチェンジへの不安について問われると、村上は「不安はたくさんあった」と前置きしつつも、48歳で起業した自身の母親の姿を振り返った。
「専業主婦をしていた母が起業をして、もちろん苦労をしていましたが、それよりも生き生きとしていたんですね。そんな身近なロールモデルの存在が、起業という私の新たな挑戦を後押ししました。今後、茨の道はたくさんあると思いますが、ローンチできたことや、若い人から学びながら遠い世界が近くなる経験ができていることを幸運だと感じています」
「いつ子どもを産むべきか」——このような悩みを抱える女性は少なくないだろう。この質問にキャシーはいつも「妊娠したとき」と答えているという。「計画しすぎない」こともライフプランを考える上で大切なのだ。
「人生は99%プラン通りにいきません。計画を立てることは大事なことですが、『プランニング通りにできたか』を一つ一つ気にすると不必要なストレスに繋がります。ですから、ある程度方向性がわかれば、オープンマインドでいるべきだと思います。もう少しリラックスして、目の前にある機会を掴んでみてください」
読者から事前に寄せられた質問を見ると、社会の歪さやさまざまな格差に不安を感じている若者が多いことがわかる。そうした若者へのメッセージを求められた関は、こう答えた。
「直近で日本は『失われた20年』と言われていますが、50年、100年で見ると良い方向に変わっていると思います。以前は、産休や育休の制度自体がありませんでしたし『子どもを産んで働く』という選択肢もありませんでした。ですが今は制度がありますし、男性の育休の利用率も10%を超えるようになってきています。直近を見ると変わっていないことでも、長いスパンで見ると良くなっている。未来に向かって、自分たちが社会に貢献できるアクションを起こしていってほしいですね」
気候変動や人種差別などの社会的な課題の解決のために、ファッションは何ができるか。2021年7月にローンチした「FASHION FRONTIER PROGRAM」は、社会問題と向き合うファッションデザイナーを発掘し、業界及び社会全体に変革をもたらすことを目指すプロおジェクトだ。今回、数多くの応募者の中から選ばれたファイナリスト8名が、3カ月のプログラムに参加し制作した作品を発表。発起人の中里唯馬と審査員を務めた建築家の妹島和世、データサイエンティストの宮田裕章が本プログラムを振り返った。今後ファッションデザイナーに求められる役割について問われると、中里はこう語った。
「ファイナリストの作品は不完全なんだけど、メッセージを訴えかける強さが宿っています。それがファッションの楽しさの根源であり、これを失ってはいけない。これからのファッションデザイナーには、独自のスタイルや哲学と同時に、衣服の先にあるどんなライフスタイルが豊かなのか、ビジョンを示していく役割があると思います」
環境問題が喫緊の課題であることは言うまでもない。「私たちの地球が手遅れになる前に」と題した基調講演では、ジェーン・グドール・インスティテュート創設者で国連平和大使のジェーン・グドールが、環境問題の現状と今後私たちがとるべき行動を説いた。動物たちが置かれている劣悪な飼育環境や生息地の剥奪といった尊厳の軽視、生物多様性の破壊や農作物への影響など、人間がもたらした問題を挙げ、それらが複雑に絡み合い、地球を蝕んでいると警告した。動物行動学者として長年地球を見つめてきたグドールは、次世代への思いを寄せながら、力強い言葉でこう語った。
「裕福な人はライフスタイルを見直し、本当に必要なものが何なのかを見極めることが必要です。また、私たちは隣のコミュニティーを助けていかなければなりません。困窮した農村部では家族を養うために森の木を切り続けるでしょうし、都市部の貧困層は安く手に入るものを消費せざるを得ません。その安さの背景には、下請けの不当に低い賃金や強制労働、製造過程での環境破壊や動物の飼育環境も懸念され、負の連鎖が続いてしまうのです。すべての人が大事な存在であり、すべての人にインパクトを起こせる力があります。一つ一つの選択が、よりよい世界へと導いてくれます。手遅れになる前に、みんなで地球を守りましょう」
イベント最後を締めくくるトークセッションは「豊かさの再定義──"生きづらくない"社会をつくる!」と題し、生きづらさの原因と向き合い方、これからの“豊かさ”の指標などについてディスカッションが行われた。
モデレーターを務める一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子は、過去の調査をもとに「日本の若者は『自分で社会を変えられる』と思っている人の割合が低い」と問題提起した。どうすればそうした若者たちを励まし、ともに社会変革を起こしていけるのか問われたSpiber株式会社取締役兼代表執行役の関山和秀は、自身の経験を赤裸々に語った。
「高校生・大学生の頃に『自分が変えられる・変えてやろう』と思っていたかと問われるとそうではありませんでした。今でも『世の中を変えられる』とはあまり思っておらず、変えられる/変えられないという結果はやってみないとわからないと思っています。それよりも今求められていることがあって、それに対して自分がいかに効果的にアプローチできるかを常に考えています。『平和』は多くの人が共通する普遍的な価値であり、その平和がリスクに侵されることを解決することは人類にとって有益です。だから私は事業を通して世界平和を実現したいと本気で思っています。自分にできることから少しずつ取り組んでいくと、自信や次の一歩に繋がっていくんです」
また、「これからどう未来を創造できるか」という問いに対して、経済思想家の斎藤幸平は「豊かさや幸せの考え方は人それぞれであり、余地を残すことが重要」と強調した。
「今の社会では長時間労働・低賃金が蔓延し、余裕のない時間が過ぎていく。そんな中、自分の健康を維持することや、家族との時間や趣味の時間を持てません。家事代行サービスや生活家電を利用して効率化を図る人もいますが、それができる人は少数です。つまり、一人の選択や個人の意識で変えられる余地は限られています。ゆえに、“社会システムの問題”を“個人の選択で解決できる問題”にすり替えるのは良くない。例えば、いっそ日曜日は店を開けてはいけないというルールを制定したり、プラスチック製品を禁止する法律を施行すべき。政治や企業はルールを決められる力があるのだから。『幸せとは』といった問いは、やもすると個人の話に収斂されることが多い。しかし私たちは社会の中で生きているので、人々が幸せに生きられる社会の枠組みを検討することが有効なんです」
Text: Sumire Yukishiro Editor: Mina Oba
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