2020年1月にダボスで行われた世界経済サミットで、ジェーン・グドールはこう訴えた。
「私たち一人ひとりが、日々、地球に影響を与えています。その影響の大きさは、私たちに与えられた選択肢に左右されます。例えば一つの買い物にしても、『生産地はどこか、どうやって作られたか、環境破壊をしていないか、動物虐待はないか、安価な背景に児童奴隷はないか』など、考えられることは無数にあります。百万人、十億人の人間がそれぞれこうした思考を持ち、賢明な選択をすることで、人々の努力は累積され、世界を良い方向に進めるのです」
この言葉には、彼女自身が目の当たりにした変わり果てた森の姿と、動物たちの悲しい声なき声がある。1960年、当時26歳のジェーンはイギリスからタンザニアのゴンべの密林に入り、世界初となる類人猿の長期行動研究を行っていた。
しかし、1986年に出席した会議で加速する農地開拓による自然破壊、それとともに、次々と住む場所を奪われ姿を消す動物たちの状況に気が付いた瞬間、彼女の挑戦は、研究から自然保護活動へと大至急舵を切ったのだった。
「未来を最も脅かすのは、無関心」
子ども向け絵本『I am Jane Goodall』にも載っているジェーンの有名な言葉がある。
「私たちの未来を最も脅かすものは無関心である」
気候危機ついて世界中の若者と意見を交わすうちに、ジェーンが感じたのは、「絶望」「怒り」そして「無関心」だった。これまでの持続不可能な資源利用は、公害、生息地の破壊、生物多様性の喪失、さらには気候変動を生んでしまった。
こうした大人たちが生んだ重い課題に直面しつつも、若い世代が希望をもって自発的に環境問題に取り組めるよう、ジェーンは環境教育プログラム「ルーツアンドシューツ」を立ち上げた。名称には「希望の根っこ(ルーツ)が世界中に広がり新芽(シューツ)となって、困難の壁を突き破りますように」という彼女の思いが込められている。
88歳を超えた今でも、世界100カ国以上で森林再生のための年間550万本の植樹や、貧困地域に住む子どもたちへの教育、女性への高いヘルスケア、サステナブルな経済活動などの支援にあたっているジェーン。彼女のイノベーティブな活動は、真に持続可能な社会の実現へと一つの線でつながっている。
「あなたの行動が変化をもたらす」
未来の子どもたち、動物、環境のため、事態を好転させるのに遅すぎることはない。今ならまだ間に合う。「私にできる身近な何か」を考え、日々の小さな努力を積み重ねていくことが大切なのだと、彼女は教えてくれる。
「人間には不屈の精神と、不可能に挑み決してあきらめない心がある。その心をもった人間一人ひとりが行動すれば、私たちの未来には希望がある」
ジェーンは今日も、力強く語りかける。
「あなたの行動は変化をもたらします。あなたはどんな変化をもたらしたいですか」
Text: Mina Oba Photos: Getty Images