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10歳の少年環境活動家ジョージ Y ハリソンが、今年10月に刊行した絵本『地球をまもるってどんなこと? 小学生のわたしたちにできること』(KADOKAWA)には、こんな一節が書かれている。
3.5パーセントの人たちの活どうが、世界をかえたことがありました。もし学校のクラスに30人いたら、そのうちの『1人』がクラスぜんたいの3.5パーセントになります。環境もんだいにたいするあなたの活どうが、クラスをかえるきっかけになるかもしれません。そう考えると、力がわいてきませんか?
子どもの視点から、子どもたちへ気候変動の問題を伝え、連帯を呼びかける──そんな、今までにない本が誕生した。
ローマで手にしたアクティビティ・ブック
作者のハリソンは、2012年生まれ。シンガポール、ロンドンで暮らしたのち、現在は日本でインターナショナルスクールに通う。また、俳優・幸本澄樹としての顔ももち、NHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に出演した子役として、彼のことを知っている人も多いのではないだろうか。そんな彼が、8歳のときに絵本を作ろうと思ったのは自然な流れだったようだ。
「6歳のときに家族旅行でイタリアを訪れ、ローマにある国際連合食糧農業機関(FAO)の前に置かれていたアクティビティ・ブックを手にしたことをきっかけに、環境問題の深刻さを知りました。そこには、森林破壊のことや、フードウェイストのことなどが書かれ、地球が今、こんなにも危機的な状態にあることに大きな衝撃を受けました。
それから、まずはすぐにできる簡単なことから意識的に変えることを始めました。例えば、水を出しっぱなしにしないことや、電気をこまめに消すこと、買い物をする際にはなるべくフェアトレードのものを買うなど。そうしているうちに、絵本を作ろうと思ったんです」とハリソン。
「できること」を知ることで、不安が推進力に変わる
絵本には、ハリソンが実際に行なっている12の「できること」がわかりやすい言葉とイラストで描かれている。例えば、ハリソンが“思い入れの深いページ”と表現するページには、こんな言葉が紹介されている。
できること1:「ひとりの力」をしんじる
ぼくは、「ちりもつもれば山となる」ということわざが好きです。紙は1まいだけだとかるくてやぶれやすいですが、たくさんあつまって、ずかんなどの本になるとおもくて強くなりますよね。わたしたちも同じです。ぼくは、「子どもだから」とか「自分一人だけじゃいみがない」などと思わずに、できることをしていきたい。みんなもいっしょにやってくれますか?
ほかにも、「ベジタリアンになる日」をつくることの重要性のほか、テクノロジーの活用が生む温室効果ガスの削減効果なども紹介されている。10歳が綴る真摯な言葉には、子どもと一緒に読んでいる大人も、ハッとさせられるような学びが多く詰まっている。
「この本をつくる上で何よりも大事にしていたことは、ポジティブなストーリーであることです。絵本をつくる過程で、環境問題について改めてたくさんのことを調べたり学んだりすることに面白さを感じていた一方で、気候危機の現実を前に心が折れそうになるときがありました。もちろん、この『事実』を伝えることは重要なこと。でも、子どもたちの不安は、できるだけ小さくしたいというのが僕の願いです。今ある課題に対して『できること』を知ることで、未来に対する不安を取り除いていけると思うんです。そこから芽生えたポジティブな気持ちが、一人ひとりが自分の力を信じることにつながり、やがてその力が合わさって大きな変化につながると思います」
本を出版してから、学校の友人などから「本を読んでゴミ拾いに参加したよ」といった声をかけられるようになり、周囲の変化を感じていると話すハリソン。まさに、“3.5%の法則”を彼自身が実証しているといえるだろう。
国際機関が注目する若き環境アクティビスト
そんなハリソンは、とある環境イベントのパネルディスカッションでアウトドアブランドのスノーピーク(Snow Peak)の会長・山井太にこんな質問をしたという。
「大人ができることはわかったけれど、子どもができることがわかりません。大人と子どもが一緒にできることをしませんか?」
それを機に、サステナブルな素材を用いたTシャツを同ブランドと一緒につくったり、環境問題に取り組む人へのインタビューを行なったりしてきた。こうした活動が評価され、2021年秋にFAOが主催するワールド・フード・フォーラム「Masterclasses」にて環境問題に取り組む次世代として紹介され、今年度は自身の本をワールド・フード・フォーラムで発表した。今年4月には国連主催のイベント「Stockholm+50」にも招待され、さまざまな年代の人が集まる国際舞台で、若き環境アクティビストとして次世代のリアルな声を世界に届ける。
「Stockholm+50では、専門家に生物多様性の質問やディスカッションをすることができて、たくさんのことを学びました。そこで得た学びは、この本の中にも取り入れています」
また、ハリソンは誰もが意見を投稿できるスタイルのウェブサイト「George’s Room」を開設。「自分とは違った視点を持つ人たちがどんなことを考え、感じているのかを知りたかったんです。そして何より、安心して自分の意見やアクションをシェアできる場所を作りたかった。集まった声は、国際的な会合やメディアなどで発表していけたらと考えています」。そう話す姿は頼もしい。
「僕は112歳3カ月と20日生きるつもり」なんてときどき楽しい冗談を交えながら、屈託のない笑顔を見せるハリソン。最後に、これからどんなことに挑戦したいかを尋ねたところ、ヴィジョナリーな回答が返ってきた。
「近い将来、管理されなくなってしまって機能してない森を再生するお手伝いをしたいです。一本ずつ木を植えるとか、きちんと再生できる小さい森をみんなで管理していくとか。木は二酸化炭素を吸収してくれるので、小さいことから少しずつ、着実に実現したいです。それと、また本を出版したいと思っています。ベジタリアン料理のクックブックです。実は僕のスペシャルなアボカドトーストのレシピがあるんです。
もう少し先の将来は、建築家か弁護士になりたいと思っています。僕が建築家になる頃には、さらなる技術革新が起きているはず。その時代のサステナブルな素材を使った建物を作りたい。そして、僕はリサーチやディベートをすることが好きだから、弁護士にもなりたいと思っています」
Photo: Kaori Nishida Text: Mina Oba
