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COP28から見るファッション業界の現在地を、6つのポイントでチェック

第二の汚染産業と呼ばれるファッション業界。気候危機を乗り越えるために大転換は必須だ。CO2の削減状況や再生可能エネルギーに投資を始めた大手企業、『VOGUE』が参加する「We Wear Oil」キャンペーンからイノベーションまで、知っておきたいファッション業界の課題と前進を6つ紹介する。
COP28から見るファッション業界の現在地を、6つのポイントでチェック
Courtesy of the Fossil Fuel Fashion campaign

2週間あまりUAE(アラブ首長国連邦)のドバイで開催されたCOP28。産油国などの要請で「化石燃料の段階的な廃止」という重要な公約が外された残念な草案が発表されたため、会期を延長して交渉が続けられていたが、12月13日に「化石燃料から脱却する」ことを盛り込んだ文書が合意された。

一方、ステラ マッカートニーSTELLA McCARTNEY)は、革新的な素材を紹介するインスタレーション「Stella's Sustainable Market(ステラのサステナブル・マーケット)」をUAEで発表。「私は、地球上で最も有害な産業のひとつであるファッション業界の代表としてCOP28に来ました」と彼女は『VOGUE』に語った。「イノベーションパートナーの皆様に、こうしたプラットフォームを提供できたことに大きな意義を感じます。彼らが世界のステークホルダーや投資家と貴重なつながりを築く機会になり、人々と交流できることは素晴らしいことです。次世代につながる解決策を紹介し、支援し、その無限の可能性を示し、未来をより良くすることこそが、私たちが存在する意味だと思っています」

しかし、まだまだファッション業界では十分な行動が取られておらず、多くのブランドが気候危機対策への取り組みが著しく遅れているということは明らかだ。

サステナブルファッションのシンクタンク「ニュー・スタンダード・インスティテュート(New Standard Institute)」創設者であるマキシン・ベダットは、「多くのファッション企業が、自主的に『科学的根拠に基づく目標(Science Based Targets)』を設定し、パリ協定温室効果ガスの排出を削減することを約束しています。今こそ、実際にその役目を果たす覚悟のあるブランドと、実はグリーンウォッシングをしているブランドを明確にするときです。COP28で私が見た限りでは、気候変動対策の進展はまったく十分ではありません」

ここで、COP28で得られたファッションに関する6つの重要事項をチェックしよう。

1. CO2排出量の削減スピードが遅れている

5年前に130のブランドが国連のファッション業界気候行動憲章の一環として温室効果ガス排出量の削減を誓約したが、非営利団体スタンドアース(Stand.Earth)の最新の報告書によると、大半のブランドは現在、目標達成の目途が立っていない。

調査対象となった14の主要ファッションブランド(すべて国連の気候行動憲章の署名企業)のうち、9社が2018/2019年から2022年の間に温室効果ガス排出量が全体的に減少したと報告している。しかし、調査によると、2030年までに排出量を十分に削減し、地球温暖化を1.5度未満に抑えることができるのは、リーバイス(LEVI'S®)、ケリングKERING)、ラルフローレンRALPH LAUREN)、ギャップGAP)のみであることがわかった。一方、改善が最も必要とされている製造部門の排出量は、分析対象となったブランドのうち10社で依然として増加している。

2. 大手企業は再生可能エネルギーへの投資を開始

ファッション業界が気候変動目標を達成するためには、サプライチェーンにおける化石燃料からの脱却が必要だが、これはブランドの努力だけでは実現が難しい。そのため、グローバル・ファッション・アジェンダは、バングラデシュの衣料品製造を脱炭素化するための1億ドル(約145億円)の洋上風力発電プロジェクトを発表し、ヴェロモーダ(Vero Moda)やオンリー(Only)などの親会社であるベストセラー社(Bestseller)とH&Mグループが参加している。

3. 化石燃料を使用した衣料品を顕在化した、「We Wear Oil」キャンペーン

気候変動活動家のソフィア・キアンニが、「Fossil Fuel Fashion campaing(化石燃料ファッションキャンペーン)」とアラビア版『VOGUE』と共同で立ち上げた「We Wear Oil(私たちは石油を身にまとっている)」キャンペーンは、衣服の大半がいまだにポリエステル、アクリル、エラスタンといった化石燃料由来の合成繊維で作られていることを浮き彫りにした。「We Wear Oil」と題された画像には、石油のような物質に覆われたキアンニが写し出されている(撮影に使われたこの物質は食品用の成分と染料を用いて作成)。COP28で発表されたTextile Exchangeのレポートによると、化石由来の合成繊維の生産量は2022年には6300万トンから6700万トンに増加し、ポリエステルは全生産量の54%を占めるという。

「ステラのサステナブル・マーケット」のインスタレーションをCOP28で披露したステラ・マッカートニー。Photo: Sebastian Boettcher

4. ステラ・マッカートニーが素材イノベーションを披露

グラスゴーで開催されたCOP26で、「Future of Fashion」と題したインスタレーションを公開したステラ・マッカートニー。再びCOP28ではLVMHの支援を受け、レイディアント・マター(Radiant Matter)のバイオベースのスパンコール、キールラボ(Keel Labs)の海藻ベースの繊維ケルスン(Kelsun)、ナチュラル・ファイバー・ウェールディング(Natural Fiber Welding)のプラスチックフリーの代替レザーミリウム(Mirum)など、素材イノベーターたちスポットを当てた展示を行った。

また、レザーに代わるカーボンニュートラルな代替素材エアカーボン(AirCarbon)や、プラスチックに代わる生分解性の代替素材を開発するマンゴーマテリアル(Mango Material)とのコラボレーションも発表され、セルロース、ヘンプセルロース、リネンを混合した植物由来のフェイクファー、サヴィアン(Savian)を使用したコートも公開した。

5. 求められる透明性の向上

ブランドの透明性が不足するほど、ファッション業界の進捗状況を把握するのは難しい。そのため、ファッションレボリューション(Fashion Revolution)、スタンドアース(Stand.Earth)、アクション・スピーク・ラウダー(Action Speaks Louder)などの組織は、主要企業に対して明確な要求を提示。自社の衣服がどこでどのように作られ、どれだけ生産され、環境にどのような影響を与えたかを明らかにすること。目標を設定し、その設定方法を開示し、進捗状況を報告すること。そしてその目標を達成するためにどのような計画を立てているかを共有することなどが含まれている。

6. 法規制が後押しする社会変革

COP28と時を同じくしてEUが新たなエコデザイン法案を承認したことからもわかるように、ファッション業界全体の変化を加速させるためには、法整備が依然として最も強力な手段であることは明らかだろう。詳細はまだ詰める必要があるが、売れ残った繊維製品やフットウェア製品の破棄を禁止するほか、製品の循環性を向上させるためのその他の要件も盛り込まれる予定だ。

ベダットは、ニューヨークでビジネスを展開する年間売上1億ドル(約144億円)以上のブランドに対し、一定の情報開示と科学的根拠に基づく目標の設定を義務付ける法案「The Fashion Act」を支持するよう、より多くのブランドに呼びかけた。一方、ガニーGANNI)の創設者であるニコラ・レフストラップは、パネルディスカッションの中で政策的対応の必要性を改めて強調した。「私たちは、気候変動対策に関するあらゆる規制や方針を歓迎します。理想を言えば、金銭的なインセンティブも必要だと思います。これによって競争の均等を保ち、より多くの人がグリーントランスフォーメーションに投資する動機付けとなることでしょう」

Text: Emily Chan Translation & adapation: Mina Oba
FROM VOGUE.UK