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先住民族と都会人をつなぐアマゾン出身のモデル、ザヤ・グアラニが取り組む緑の意識改革【戦うモデルたち】

森林伐採や採掘に加え、干ばつで400以上もの集落が孤立するなど、COP28でも大々的に討論された“地球の肺”・アマゾンの環境破壊問題。先住民族としてこの地に生まれ育ったモデル、ザヤ・グアラニは、自身の名声を活かし、ファッション業界からさまざまな啓発活動に取り組んでいる。

2023年5月、NYで開催されたFragrance Foundation Awardsに出席したモデルのザヤ・グアラニ。Photo: Noam Galai/Getty Images

「私は、先住民族と伐採業者/鉱山労働者との“戦争”のさなかに、アマゾン川付近で生まれ育ちました。私が子どもの頃、建設会社がアマゾンの豊かな天然資源を発見したことで森林伐採が増加し、祖母の若い頃にはあった領土全体がすでに消失しました。私は、物心ついた時から森林破壊を目の当たりにしてきたのです」

2023年11月にUS版『VOGUE』の取材に対しこう語ったモデルのザヤ・グアラニは、現在22歳。ブラジル先住民のカムラぺ族とグアラニ・ムビヤ族の一員として、アマゾン川最大の支流・マデイラ川付近のロンドニア州ポルト・ベーリョで生まれ育った。17歳の時にモデルとして見出された彼女は、サンパウロに移住後アメリカの大手モデルエージェンシー「Ford Models」初の先住民族ファッションモデルとして契約。インターナショナルな名声を獲得したが、故郷アマゾンの自然を守るという信念のもと政治的な活動を続けたことから、エージェンシーと対立し、わずか1年で契約を終了した。

消えゆく地球の肺・アマゾンの緑のために

2023年10月に撮影されたアマゾン川が流れるブラジルの北部一帯。観測史上最悪といわれる干ばつの被害が広がっている。Photo: NurPhoto / Getty Images

「私が活動を続けていたとき、彼らから何度もやめるように言われました。結局のところ、エージェンシーの思惑はとても表層的なものだったのです。2022年2月にエージェンシーとの関係を断ち切ってからは、自分のポートレイトを社会的および環境に配慮した企業にのみ貸し出すなど、自分の活動の意図をより明確にしています」

2022年10月に『Sleek Magazine』に対しこう語ったザヤの目標は、地球規模の生態系崩壊を回避すべく、先住民族の哲学のもと「先住民族と現代人の架け橋」になることだ。その足がかりとして、まずはファッション業界から意識改革を起こすための取り組みに尽力している。

「ファッションは、多くの注目を集める産業です。私はブラジル版『VOGUE』に登場し、ラテン・アメリカン・ファッション・アワードでファッション・インフルエンサー・オブ・ザ・イヤーの栄誉を授与されました。これは、私にとって革命をもたらすための絶好のチャンスです」

こう語る彼女の故郷・アマゾンの緑は、現在森林伐採と鉱業によって急速に消失しており、多くの少数民族が頻繁に住む場所を変えなければならない現状が続いているという。そのため、モデルである自分にスポットライトを当て、この現状を広く世界に知って欲しいとザヤは続ける。

環境問題改善の鍵を握る先住民族

2023年4月、アースデーのイベントにて。Photo: Mychal Watts / Getty Images

「私がモデルのなった理由の一つは、単にファッションに興味があっただけではなく、先住民族の表現をもっと増やしていきたいと思ったから。例えば、私たちは自分の気持ちに合わせて体に絵を描きます。幸せなとき、悲しいとき、あるいは誰かが亡くなったときに絵を描きます。この伝統を含め、私たちの真のアイデンティティをファッションで表現することで、私たちの文化をより身近に感じ、ひいては私たちが直面している問題に関心を深めて欲しいと思ったからです」

これまでUGGグッチGUCCI)などのブランドのモデルを務める一方、ダレン・アロノフスキー監督映画Postcard from the Earth』に主演するなど、活動の幅を拡大しているザヤ。そんな彼女は、ショービジネスと並行して気候変動対策に多角的に取り組む団体「スロー・ファクトリー」や国連のアドバイザーとして、先住民族の文化と知恵を気候変動対策に盛り込むための助言も行うなど、目標達成に向けて着実に歩み続けている。

ファストファッションブランドとは仕事をするつもりはないと公言する一方、持続可能な服作りなど、ブランド自身が変わろうとする姿勢には惜しみないサポートをしたいと語る彼女のトレードマークは、アマゾン伝統の皮膚装飾技術(タトゥー)だ。ジェニパポの実から採取した黒インクで施したこのタトゥーこそ民族のプライドだと語る彼女は、いまこの瞬間も消失しつつある故郷アマゾンの緑に思いを馳せ、その胸中をこう語った。

「私の目標の1つは、世界の重要な会議の場で先住民が意思決定に確実に含まれるようにすること。もう先住民族抜きでは環境問題を語ることができないことは、誰もがわかっているはずです。私たち先住民族は、持続可能な生き方を実践しており、さまざまな業界もこのような変化を求めている。今こそ、私たちの知恵を活かす時だと思うのです。

私のようないちモデルが、このような政治的問題について声を上げることは必ずしも奨励されるものではありません。ですが、沈黙していることや、黙認することほど危険なことはないと思うのです。私は、故郷アマゾンの緑を守りたい。そのためにも、私はこれからも声をあげ続けます」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba