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kemioとマイルズ、互いを自由にし合う関係。「一緒に人生を歩む運命だった」【プライド月間特集 わたしの選ぶ“家族” Vol.2】

プライド月間に合わせ、LGBTQIA+とそのコミュニティをフィーチャー。“Chosen Family” をテーマに、4組8名の対談を通して、さまざまな関係性や繋がり、社会の現状を見つめ直す。2組目は、Youtuberやモデルとして活躍するkemioと、元ルームメイトのマイルズ。LAで運命的に出会い、ともにニューヨークに引っ越した2人。マイルズがいるからカミングアウトができたと話すほどの、強い結びつきについて話を聞いた。

今の日本では、社会の枠組みや法制度、メディア表象などにおいて、LGBTQIA+やクィアは周縁化、そして不可視化されている現状がある。そんな当事者にとって、コミュニティや“Chosen Family”(=選ばれた家族。特にLGBTQIA+コミュニティにて、血縁や法的な関係を理由にせず、自ら選んで“家族”として支え合う存在)は大きな意味を持つ。

20歳で米国に移住をしたkemio。そこで出会ったのが、今では「兄弟のような関係」というマイルズだった。初めてのプライドパレードをともにし、コミュニティの力や自由を一緒に感じてきた2人。「『僕はゲイなんだ』って言葉にしなくても気持ちで通じ合えた」と語る関係性とは。

自分らしくいられる心地よさをやっと感じられた

肩車をするkemio(上)とマイルズ(下)

──6月はプライドマンスです。2人にとって「プライド」はどんな意味を持っていますか。

kemio 「自分が今まで経験してきたこと、生まれた場所、ありのままの自分を大切に思えること」ってここに来る前にマイルズに伝えたら、違うって言われたんですが(笑)。

マイルズ 僕にとってプライドは、ほかの人がどう思おうと自分自身を受け入れるということ。いつも自身に誇りを持っていたわけでも、自分が自分であることにハッピーだったわけでもないですが、成長する過程でゲイであることは僕にとって“プライド(誇り)”であることを学びました。 プライドとは、一人の人間として自分自身に心地よさを感じる、ということだと思います。

──コミュニティや“Chosen Family”の存在は、2人にどのような影響を与えていますか。

kemio 僕らが今住んでいるニューヨークでは、とても大きなプライドパレードが行われていて、たくさんの人がさまざまな場所から参加します。この街は自分が見つけようと思えば必ず自分の居場所やコミュニティを見つけられる場所だと思います。僕はアメリカに引っ越して数年後に初の書籍を出版し、そのなかでカミングアウトしました。日本に住んでいたとき、カミングアウトをするつもりはなかったですが、アメリカに引っ越して、マイルズと出会って「僕はゲイなんだ」って言葉にしなくても気持ちで通じ合えたことが大きくて。

出会ったばかりのときは言語が一切通じませんでしたが、それでも言葉では説明しようのない特別なつながりがあったんです。マイルズに初めてLAでプライドのパレードに連れていってもらうなど、日本で経験できなかったコミュニティの力も感じることができました。それまでアイデンティティで悩んできたことに対して、僕の頭のなかの世界を広げてくれましたね。

マイルズ 僕たちはかなり若い頃に出会いました。まだ20歳そこらで、2人ともLAに引っ越してきたばかりで。街なかで自分らしくいられる心地よさを初めて感じていたと思います。LAやニューヨークのような大都市では、出会う人の数も多く、コミュニティに参加する機会もたくさんある。もっと自由を感じられる気がします。僕たちは間違いなく一緒に進化し、その経験を共有してきました。それにkemioは出会った頃、まだ家族やファンにさえカミングアウトしていなかった。それについてはたくさん話しましたね。アメリカに移住して、やっと少しずつ自由を感じ、いろいろな体験をできるようになったんだと思います。

ともに成長し、互いの幸せを願い合う本当の家族

──出会った当初からこれまでで、2人の関係性は変化してきましたか。

kemio 間違いなくいろんな意味で変わりました。

マイルズ たくさんの節目をともに過ごしてきました。大人になってから友達を持つのと、誰かと一緒に成長するのではまったく違いますよね。出会ってからの8年は長くて、YouTubeにアップした昔のビデオを見返すと、僕たちはとても若く、無邪気に見えます。kemioは本当の家族のような存在です。クリスマスに帰省するときには、「kemioも一緒に来て、僕の家族と過ごさない?」って誘いました。

kemio マイルズの家族と会えたとき、本当にうれしかったです。全員が、僕に対しても本当の家族のように接してくれたんです。僕もそうですが、マイルズも大人になったなって思います。出会ったとき、マイルズは大学、僕は語学学校に通っていました。マイルズは今ではすごくしっかりしていますが、昔は“パーティーアニマル”で。でも当時からずっと、ニューヨークに行くのが夢だと話していました。僕自身はニューヨークに住むことに興味がなかったんですが、マイルズが引っ越すなら行こうかなって。今ではここでお互いに仕事をしていて、昔のマイルズを知っているからこそ家族のような気持ちになりますね。

──撮影中に「兄弟のような関係」だと言っていましたね。

マイルズ 兄弟のようにくだらないことでよく喧嘩します(笑)。

──お互いから受けた影響や発見はありますか。

kemio マイルズはとても優しいんです。自分がどれだけ人や物や何かを愛しているかを伝えることをためらわない。日本育ちの僕はハグすることも「好き」って伝えることもあまりせず、空気のなかでわかり合えると思うところがあるので、最初の頃はお互いにコミュニケーションとれないときがありましたね。そこから言葉にする大切さを学びました。あと掃除とか(笑)。

マイルズ 僕らの友情が特別なのは2人がとても違っているから。本当に真逆です。kemioは日本育ちで、僕はアメリカ育ちだから、新しいスラングや食べ物をいつも教えてもらっていますし、K-POPにハマったのもkemioのおかげ。自分とは全く異なるバックグラウンドのベストフレンドを持って、新しいことを知るのは楽しいですね。日本に一緒に帰省すると、kemioがどのような環境で育ったのかを知ることができるのが一番うれしいです。

──喧嘩したあと、どのように仲直りするんですか?

kemio いつも次の日になる前にお互いが謝ろうとしている気がします。

マイルズ それかもう喧嘩したことすら忘れてしまっているよね。1時間後に電話をして、「ランチに行こう」というようなこともよくある。

kemio マイルズが「いい日にしよう」と言ってくれるんです。僕のほうがまだまだ子どもだなって思います。

──長い時間をともに過ごして、お互いの関係性を今どのように感じていますか。

マイルズ それぞれ違う場所で生まれ育っているし、ちょっと変に聞こえるかもしれませんが、僕らは友達になるべくしてなったと思います。

kemio こうやっていつもすぐスピるんで(笑)。

マイルズ 僕らは一緒に人生を歩む運命だったような気がします。kemioのような友人は今までいませんでした。この世界が、僕らが一緒に成長するために適切なタイミングで適切な場所に僕たちを導いてくれたんだと思います。

kemio 8年間でいろいろなことがあって、「もう友達じゃなくなってしまうかも」くらいの喧嘩をしたこともありました。最初の頃は文化やコミュニケーションの取り方の違いもあって、「何でわかってくれないんだ」って何度も思ったし、マイルズもきっと同じだったと思います。でも今振り返ってみると、一緒に経験して、乗り越えて、マイルズとじゃなかったらできなかったなって思うことばかり。マイルズには幸せになってもらいたいし、自分のやりたい夢を掴んでもらいたいですね。

コミュニティやサポートがあるから、カミングアウトができた

──“Chosen Family”の考え方が広まることは、LGBTQIA+にとってどのような力を持っていると考えますか。

マイルズ このコミュニティでは、ほとんどの人が社会における課題、政治の問題、ときには家族にさえサポートされない現実に直面します。だからこそ、Chosen Familyを持つことは本当に必要な支えになりうるもの。サポートや認められる体験、話し相手がいないなかで、自分らしく生きていこうとすることは困難です。

アメリカはオープンな国とはいえ、同性婚トランスジェンダーの権利についてほかの国と同様にまだまだ試練があります。友人がいるだけで支えになることもあるし、血のつながりがなくてもその人にとって本当に大切な存在であればそれでいいんです。

kemio マイルズが言ったことに同感ですし、カミングアウトは別にしなくていいと思うんです。自分がそうだったように、心の準備ができていなかったらする必要はない。家族にカミングアウトをして自分が思っていた反応が返ってこなかったりすると、孤独を感じてしまうじゃないですか。僕の親はおじいちゃんおばあちゃんでしたが、アメリカにマイルズがいるって思えたので、受け入れてほしいというよりも知っていてほしいというスタンスで家族に話せました。だからこそ、Chosen Familyとか友達、自分のコミュニティがあると思えることは本当に心強いことです。

今まで自分らしくないことをしたり、「こうあるべきだ」みたいな感覚もあったりしましたが、僕が自分の居場所を見つけた今思うのは、自分らしくいることが一番の近道だったなって。家族や友達に自分を受け入れてもらえなくても人生終わりじゃない、その環境が自分のいるすべての世界じゃないってことをみんな知っておいたほうがいいと思うんです。自分の居場所やコミュニティは自分で見つけることができると信じています、自分の人生がそうであったように。

──日本では婚姻の平等が認められていないなど、ニューヨークと比較して多くの抑圧が残っていると感じます。このような状況に対し、ご自身が感じている率直な気持ちを教えてください。それが今後どのように前進していくことを願っていますか。

マイルズ 僕が希望を感じるのは若い世代です。kemioがカミングアウトして今のように周囲からサポートを得られていることに彼自身も驚いたんじゃないかな。若い世代はいつもオープンマインドだと思います。アメリカだってある州では法律が後退し、コミュニティが直面しなければない試練が常に起こっていますよね。リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)もそう。

人々は前進していても、その裏側には意地悪なコメントをする人がいつもいて、特定のコミュニティに対するヘイトを生むような法律を作っています。若い世代、そして人々がより柔軟でオープンになることを願っています。

kemio 日本は昔に比べると、企業がLGBTQ+やプライドの協賛についたり、キャンペーンをしたり、徐々に変化は起きていますが、それでもまだ変わらなきゃいけないこともたくさんあります。僕がカミングアウトしたときに一番感じたのは、ジェンダーに関する教育を学校などであまり受けないこと。自分も学生のときにはセクシャリティだったり、自分の存在にたくさん混乱しました。そんなときに誰を頼ったらいいのか、何を頼ったらいいのかわかりませんでした。周りに悩んでいる友達がいて、それに寄り添いたいから自分で勉強するとか、知識を得たいとならない限りは、(知る機会がないので)「無知は罪」って言えないなって。

アメリカに引っ越して、法的に結婚することが社会のなかでどういうことなのか街で目にします。男性2人が幸せそうにベビーカーを押している光景を最初に見たときはすごく衝撃的で。当たり前のことですが、法律によって社会は大きく変わるんだなって。日本でもたくさんのアクティビストの方が声をあげ、変化のために行動を起こされています。これからどんどん世のなかがいい方向に向かっていくことを願って、自分も声を上げていきたいと思っています。「古きよき」を大切にする日本の文化も理解できますが、そのなかで苦しんでいる人たちがいるのは事実。もっともっと多くの声に耳を傾けてくれる政府になってくれたらいいなと思います。

──日本のLGBTQIA+コミュニティに伝えたいメッセージがあれば教えてください。

マイルズ 自分が感じていることを抑え込まず、内に目を向け、そして飛び込んでいくこと。感情や好きなものを抑えるのは、特に長い目で見ると困難です。一日の終わりに幸せでいられること、自分の存在に対してハッピーでいられること、そして友達をサポートできることなど、人と人のつながりが大切です。何よりも大きな心配は、あとで後悔するような人生を送ることではないでしょうか。

kemio 学生だった頃、自分のセクシュアリティに悩んでいても、誰に聞いたらいいかもわからなかったし、ソーシャルメディアがあったとはいえ同じような悩みを持つ人を見つけるのが難しかった。でも今はプライドも少し浸透し、『VOGUE』のように特集をした記事があったり、発信している方々がいたり、さまざまなところで自分は一人じゃないって感じられる情報を得ることができます。

もしセクシュアリティに悩んでいて孤独を感じる人がいたら、全然そうじゃないんだよって伝えたい。世界はもっと広くて、自分次第で自分の居場所を見つけられるし、コミュニティとつながることができる。今いる環境でここからすべてが決まってしまうとは思わないでほしい。あと、自分らしくいることがすべてにおいての近道だと思うので、そのままの自分を愛してほしいです。

Photos: Fumi Nagasaka Text: Maki Saijo Editor: Nanami Kobayashi

6月1日(土)〜30日(日)まで、VOGUEの公式アパレルライン「VOGUE Collection」にて、プライド月間を祝したチャリティプログラムを実施。寄付の対象となるのは、本企画で着用の「『VOGUE』カラフルロゴ 白Tシャツ」。売り上げ金の一部は、婚姻の平等(同性婚)の実現を目指す「Marriage For All Japan」に寄付される。

#PRIDEwithVOGUEJAPAN

※「『VOGUE』カラフルロゴ 白Tシャツ」は、レインボー・フラッグとは異なる配色になっています。新規生産を避けるため、今年は「『VOGUE』レインボーロゴ Tシャツ」は販売いたしません。