【細尾(京都)】西陣織の伝統の殻を破り、世界を舞台に飛躍する
西陣織は、染め、箔貼り、裁断など20以上の工程を専門の職人が担うという独特の協業システムを持ち、1200年に渡って美を追求してきた京都の伝統工芸。1688年創業の「細尾」は、その老舗織元だ。12代目にあたる細尾真孝は、若い頃は保守的な伝統工芸の世界に馴染めず、自分はクリエイティブな仕事がしたいと音楽活動を行うなど、家業とは距離を置いていた。転機が訪れたのは先代が海外展開を始めた2006年。西陣織の世界にイノベーションを起こせると確信し、家業に戻った。
当初は思うような成果が出せずにいたが、3年後のある日、建築家ピーター・マリノから、ラグジュアリーブランドの店舗の内装に西陣織を使いたいというリクエストが飛び込んできた。ただ、伝統的な32cm幅の織機ではリクエストに応えられない。そこで周囲の反対を押し切って150cm幅の織機を自ら開発。ついにディオールのブティックを西陣織が飾ることになった。その後はシャネル、エルメス、グッチなど名だたるブランドとコラボするなど、活動の場は一気に世界へと広がった。伝統を守ることは挑戦を続け、革新を続けて、時代に合わせて常に変わり続けることだと細尾はいう。2019年には烏丸御池駅の近くにショップ、ショールーム、ギャラリー、カフェなどからなるフラッグシップストアをオープン。多角的なアプローチで西陣織の魅力を発信している。
ホソオ フラッグシップ ストア(HOSOO FLAGSHIP STORE)
京都府京都市中京区柿本町412
Tel./075-221-8888
https://www.hosoo.co.jp/
【谷口製土所(石川・小松)】粘土屋として窯元を支えながら、九谷焼の未来を見据える
1951年の創業以来、70年以上に渡って九谷焼用の粘土を作ってきた谷口製土所の3代目・谷口浩一は、32歳で家業を引き継いだ。原料となる花坂陶石を採石場から仕入れ、粉砕し、不純物を除去して粘土を作るのだが、九谷に製土所はたった2軒しかなく、しかも採掘した陶石の約40%は陶土として使うことができず、廃棄しているのが実情だ。世界的に名高い華やかな絵付けの裏側にある、陶石を掘る山や自然環境の問題に目を向けつつ、製土所として、生地を焼く窯元や周辺のさまざまな人たちの輪をつなげ、九谷焼を未来に伝えていく必要があると考えた。
九谷焼を支える製土業を存続させていくためには、粘土作りだけでなく新たなことへのチャレンジも必要だと、8年前に自社ブランドの九谷焼「HANASAKA」を立ち上げた。なかでも陶土としては使えなかった陶石から作った釉薬を塗った優しい色調の陶磁器「Uneシリーズ」が好評だ。あえて絵付けはせずに、素朴な温かさを感じさせる手仕事感を残しながら、細やかなろくろの技術によるモダンなシルエットも兼ね備える。2019年には九谷焼の美と技に触れられる体験型ミュージアム「九谷セラミック・ラボラトリー」のオープンに合わせ、ラボ内に新しい製土工場を建設。花坂陶石の粉砕から陶土が完成するまでの工程の一部を、間近で見ることができる。
谷口製土所
石川県小松市若杉町ワ124
Tel./0761-22-5977
https://www.taniguchi-seido.com/
九谷セラミック・ラボラトリー
石川県小松市若杉町ア91
Tel./0761-48-4235
https://cerabo-kutani.com/
【能作(富山・高岡)】鋳物づくりにかける職人たちの熱意に触れる工場体験
400年の歴史を持つ鋳物の町、富山県高岡市。1611年に加賀藩2代藩主・前田利長が、産業振興のために7人の鋳物師を招いたのが始まりだ。「能作」は、その高岡の鋳物産業を代表する企業として、茶道具や仏具から、鍋、釜などの日用品まで、時代のニーズに合わせた幅広い製品を展開してきた。ただ昭和の後半になると、茶道具や仏具の需要が減少し、会社は苦境に立たされた。それを救ったのが、2002年に現会長の能作克治が開発した真鍮製の風鈴だった。美しい音色を奏でると評判になり、月間1,000個を超えるヒット商品に。
その後は、創業当時より手掛ける銅合金鋳物の原点に立ち返り、真鍮を素材とする日用品などを製造。さらに手でも簡単に曲げられる金属・錫に着目し、現在の主力商品でもある、手肌になじみやすく、抗菌性が高い純錫製のテーブルウェアや手で曲げられる器の「KAGO」を生み出した。2017年には、能作が創業以来培ってきたものづくりの技術を見学・体験できる場として、緑豊かな田園風景の中に建てた新工場を一般に開放。鋳物づくりのリアルな現場を見学しながら、高岡の鋳物の歴史や職人の技を知ることができるほか、生型鋳造法と呼ばれる、砂で型を作る伝統的な鋳造方法を実際に体験できるプログラムも用意されている。