柴崎 今年は時期もズレているし、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックも続いていて劇場は閉じているところも多く、人々も映画をそこまで観ていないので、アカデミー賞が盛り上がりにかけるのは否めないですね。そんな中で、今年の授賞式の見どころはどこにあると思いますか?
D姐 受賞自体よりも、授賞式の進行に興味がありますよね。ゴールデン・グローブ賞もひどかったですが、4月5日に行われたSAG賞はたった1時間の短縮版ZOOMスタイルで録画という最悪な授賞式でした。その点、音楽のグラミー賞は通常運転よりよっぽどいいと言っても過言ではない素晴らしい授賞式で、アカデミー賞はぜひグラミー超えした授賞式にしてほしいです。
柴崎 一応ほかの授賞式と違って、今回はセレブたちが出席するスタイルのようなので、そこは楽しみですね。
D姐 ちなみにLAは今、コロナ感染率がぐっと下がって、やっとレストランや映画館、コンサートも再開し始め、急に条件はかなり良くなってパーティータウンにほぼ戻りました(笑)。
柴崎 おめでとうとございます! 延びに延びたアカデミー映画博物館がようやく今年の9月にオープン予定だそうですが、今年のアカデミーではこのネタで引っ張るのでしょうか?
D姐 コロナ延期もあったけど、外観も展示もさすがのトップレベルですよ。でも実はお家騒動もあったり、何より宮崎駿展もあるし楽しみです!「D姐と行くアカデミー映画博物館ツアー」とかやったら、ひと儲けできそうな気がするんですが(笑)。
柴崎 それにしても映画が落ち着いて観られるようになるタイミングを見越して、多くのスタジオはイチオシ作品を出し控えしている感は隠せないですよね。スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』、ウエス・アンダーソン監督の『The French Dispatch(原題)』、ティモシー・シャラメとゼンデイヤが共演する『DUNE/デューン 砂の惑星』、賞レースに絡みそうな大作や話題作は、来年のアカデミーに備えて公開を延期してますよね。
D姐 ティモシーの『DUNE~』は賞レース絡むかしら(笑)⁉ 私はあまりにも新作リリースが少なくて観るものがなくなっちゃって、日本のアニメを観まくりましたもん。日本アニメ最高。『DUNE~』は『トップガン2』、『MI7』、『マトリックス4』と同じ枠かしらね。
柴崎 賞にはノミネートされないけれど、出演者たちがプレゼンターとして引っ張りだこになるというスター映画枠ですね!
>オープニングを飾るのは「宮崎駿展」。LAのアカデミー映画博物館の全貌。
作品賞候補
『ファーザー』
『Judas and the Black Messiah(原題) 』
『Mank/マンク』
『ミナリ』
『ノマドランド』 ★D姐 ★柴崎
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
『シカゴ7裁判』
柴崎 『ノマドランド』で間違いなさそうですよね。小粒の良作が並ぶ今年のアカデミーでは、正直どの作品が獲ってもおかしくないと思いますが、アカデミーが批判され続けている女性やマイノリティ(特にアジア人)蔑視というイメージを払拭できるまたとないチャンスという政治も絡んでいますから。
D姐 正直、今年は「これがコロナ禍じゃなかったら、ノミネートされていないだろうなあ」というコロナ・ラッキーな映画があるのは否めない中で、『ノマドランド』はノミネートはもちろん、受賞候補の有力作品になっていたのは間違いないと思うんですよね、私は。
柴崎 クロエ・ジャオ監督の感性にはただただ脱帽ですが、それでも正直『ノマドランド』は今のタイミングじゃなかったら、ここまでアワード総なめとまではいかなかったのではと思ってしまいます。コロナ禍にすごく重たいテーマのダブルパンチで、気分が落ちてしまったというのもあるのですが。コロナじゃない世の中なのに自主隔離的生活を送らなくてはいけないって、寂しすぎる(涙)。
D姐 今のタイミングじゃなかったら、もっと違うトーンの映画に受け止められていたかもと思いますけどね。ここまで重い感じではなく、もうちょっと登場キャラクターと観客の距離感があって、むしろ暗黒フェアリーテイルに見えるのではないかとか。今だからこそパンデミックや政治的な意味で先行き不透明な感じが、アメリカの空気にも合ってましたね。
柴崎 個人的にはアジア人枠でくくられがちな『ミナリ』の方が、希望があってホッとできて良かったです。ゴールデン・グローブでは「外国語映画賞」にノミネートされちゃいましたからね。
D姐 『ノマドランド』はアジア枠と考えたことはなかったですけど、私も『ミナリ』好きです(なぜ好きか説明しろって?)。ジャオ監督のセンスは色々なタイプの作品で観たいなあと思います。
柴崎 ジャオ監督が手がけるマーベル・スタジオの新作映画『エターナルズ』も、とても楽しみです。役者じゃない人を使うネオドキュメンタリーが定番スタイルの監督なので、本当のヒーローや悪役が多く登場したりして。例えば主演のアンジェリーナ・ジョリーの宿敵にブラッド・ピットとか(笑)。
監督賞候補
トマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』
デヴィッド・フィンチャー『Mank/マンク』
リー・アイザック・チョン『ミナリ』
クロエ・ジャオ『ノマドランド』 ★D姐 ★柴崎
エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤング・ウーマン』
柴崎 クロエ・ジャオが俄然優勢だとは思いますが、作品賞は『ノマドランド』にあげるので、監督賞はリー・アイザック・チョンにあげたいなというのは私の思いです(思いは聞いてないって?)。
D姐 私はジャオ監督。アジアンヘイトに関するスピーチをしてほしい。
柴崎 それは聞きたいです。あの強さと賢さをもったら、すごいことを言ってくれそう! ところで、今年は女性監督が2名ノミネートされるという史上初の快挙となっていますが、多くのスタジオが主要作品を来年に温存していることを考えると、今年はアカデミー側が多様性アピールの年として、割り切っている感も否めませんが……。
D姐 まぁ、でも女性監督の2作品はどっちもタイプは違うけれど面白かったですね。結果的に最多ノミネートを取っていますが、『MANK/マンク』は空気読んでない映画だなと思えてくるほど、多様性のないフツーの映画という感じがしてしまいましたもん。
柴崎 これを機に女性クリエイターたちもガンガン攻めてほしいですね。そうそう、外国語映画賞の候補にもなっている『アナザーラウンド』のトマス・ヴィンターベア監督もこのカテゴリーにノミネートされたことに、小さくガッツポーズしてしまいました。マッツ・ミケルセンが飲んで飲んで飲みまくる映画ですが、実は監督は今作に出演予定だった娘さんを撮影直前に交通事故で亡くしてしまったそうで。その娘さんのためにも映画を完成したかったと語っているんです。受賞はないでしょうけど、陰ながらめちゃくちゃ応援しています。
D姐 ええええ、そうなんですね。マッツの笑顔も見たいということで、大穴のトマス・ヴィンターベアでいこうかな。というのは別として、やっぱりジャオ監督で。
>賞レースを席巻中の『ノマドランド』。クロエ・ジャオ監督を知る5つのこと。
主演男優賞候補
リズ・アーメッド『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』 ★D姐
チャドウィック・ボーズマン『マ・レイニーのブラックボトム』
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』 ★柴崎
ゲイリー・オールドマン『Mank/マンク』
スティーヴン・ユァン『ミナリ』
柴崎 主演男優賞は『マ・レイニーのブラックボトム』が遺作となったチャドウィック・ボーズマンだとはいうのは分かっていますが、あえてアンソニー・ホプキンスに一票です。
D姐 お!柴崎先生の推し理由を是非お聞かせください!
柴崎 『ファーザー』の超人的な演技に鳥肌が立ち震えましたから。認知症の役がリアルすぎて。83歳であれだけのセリフを覚えて演じるって神ですよ。あまりのリアルさにアンソニー・ホプキンスが本当に認知症なんじゃないかと錯覚しちゃって、悲しくなりました。演技が上手すぎるのも逆にどうかと思うほど強烈な一撃でした。
D姐 柴崎さんの鳥肌を立たせるなんて、『マイティ・ソー』(2011)のお父さん役以来じゃないですか?
柴崎 ちょっ、ちょっと! あれで鳥肌立ってないですから! どんだけアンソニー・ホプキンス・フェチなんですか私(笑)。 スティーブン・ユアンにも頑張ってほしいですが、どうしてもアンソニー・ホプキンスと比較すると演技的に見劣りしてしまうんですよね。でもスティーヴンがこうやってアカデミー賞ノミネート俳優としてのキャリアを築けていることを思うと、「ウォーキング・デッド」でニーガンにひどい殺され方をしたことにも、今となっては感謝しかありません。
D姐 いやー、あのニーガンはひどかった、ひどすぎた。いまだに許せない(笑)。私は『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ』のリズ・アーメッドも素晴らしかったと思うの。誰か『セッション』と『サウンド・オブ・メタル』のマッシュアップ動画、作ってくれないかしら。でもなんだかんだいって激戦ばかりじゃないですか?
主演女優賞候補
アンドラ・デイ『The United States vs. Billie Holiday(原題)』
キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』 ★柴崎
フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』 ★D姐
ヴァネッサ・カービー『私というパズル』
ヴィオラ・デイヴィス『マ・レイニーのブラックボトム』
柴崎 多様性という言葉に敏感になっているアカデミー賞なので、見渡すと受賞者は非白人ばかり……。となるといけないので、主演女優はキャリー・マリガンでどうでしょうか? ヴィオラ・デイヴィスとの接戦になりそうですが、キャリーの方が一つ上ということで。今年は基本的にリモート参加がNGのようなので、華やかさもほしいでしょうし。
D姐 じゃあ、私はヴィオラ・デイヴィスで(笑)。あの汗まみれの、見ているだけでこっちの体温も2度上がっちゃいそうなギトギトの存在感を出せる演技力はさすがですよ。『マ・レイニーのブラックボトム』はヴィオラが出てくるとキャラに釘付けで、ストーリーが頭に入ってこなかった。
柴崎 歌モノで被りますが、もともとシンガーであるアンドラ・デイも大穴です。
D姐 本当はマーゴット・ロビーにやらせたかった役をマーゴットはプロデューサーにまわって“補欠”のキャリーが演じたみたいなことも言われましたが、キャリーはそんな噂を吹き飛ばす怪演でしたよね。
柴崎 あの役、マーゴットが演じるはずだったんですね。知らなかった! しかし、怪演と言えばこのお方。フランシス・マクドーマンド先生はいつでも素晴らしいですよね。でも、2018年に主演女優賞を受賞したばかりなので、さすがに今回はないでしょうか。
D姐 3年前に主演女優賞を受賞したばかりだから避けられそうという勘繰りを捨ててフラットな見方でいえば、私はやっぱり本当はフランシス・マクドーマンドなんですけどね、そして是非スピーチをしてほしい。今年はいつも以上に色々言いたいことがあるはず。バックステージで敗者インタビューみたいなのがあればいいのに。
柴崎 M-1スタイルかい! でもあの高笑いをもう一度聞かせてほしいです。
D姐 そういえばフランシスさんはプロデューサー(そもそもジャオ監督を抜擢したのが彼女)だから、作品賞受賞すればスピーチの可能性大ですね~。
>役柄も生き方も、現実から目を背けない。フランシス・マクドーマンドが創造するリアル。
助演男優賞候補
サシャ・バロン・コーエン『シカゴ7裁判』
ダニエル・カルーヤ『Judas and the Black Messiah(原題)』 ★D姐 ★柴崎
レスリー・オドム・Jr『あの夜、マイアミで』
ポール・レイシー『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
レイキース・スタンフィールド『Judas and the Black Messiah(原題)』
D姐 2018年のアカデミー賞のときから我々が全力で応援していたダニエル・カルーヤ。『ゲット・アウト』(2017)では主演にもかかわらずプレミアに呼ばれなかった彼ですが、その悔しさをはらしてほしいです。
柴崎 『Judas and the Black Messiah(原題)』はダニエル・カルーヤとキース・スタンフィールドのダブル主演ですが、二人とも助演男優賞にノミネートされているのは、主演男優賞はチャドウィック・ボーズマンが獲ることを考えての作戦でしょうか?
D姐 いや本当、今年の助演男優賞問題の闇は実は深いですよ。『オデッセイ』(2015)がゴールデン・グローブで「コメディ・ミュージカル」部門になった時以来の必死さ、受賞への執念を感じられるんですが。それにしてもサシャ・バロン・コーエンがオスカーに本格的映画でノミネートする日がくるとは思いませんでした。
柴崎 『シカゴ7裁判』で堂々の助演、しかも『続・ボラット栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』では脚色賞にもノミネートされてるんですね。パンデミックしかり、世の中なにが起こるかわかりません!
D姐 『シカゴ7裁判』は作品賞の対抗馬でもあると思うのですが、要は当時の政府への反逆者扱いされたアメリカ人とそれを擁護するというメインキャスト3人を全てイギリス人で演じているというのも感慨深いです。きっとあの3役は、アメリカ人俳優(もしくは彼らのエージェント)は誰も演じたくなかったのではないかと勘ぐってしまいます。
柴崎 そのおかげで、エディ・レッドメインとサシャ・バロン・コーエンが『レ・ミゼラブル』(2012)以来のコラボにありつけましたもんね。って誰得⁉
助演女優賞候補
マリア・バカローヴァ『続·ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』
グレン・クローズ『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』
オリヴィア・コールマン『ファーザー』
アマンダ・サイフリッド 『Mank/マンク』
ユン・ヨジョン『ミナリ』 ★D姐 ★柴崎
柴崎 これまで7度ノミネートされながら無冠のグレン・クローズ(74歳)が、『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』の演技で8度目にして初めてオスカーを手に入れるか、はたまた悔し涙を流すことになるのかが、助演女優賞の最大の話題ではないでしょうか。
D姐 長年アメリカに住んでいますが、英語で“Elegy”と付くタイトルものって初めて聞いて、あのエレジー? 演歌界の業界用語でしょ、と思ってたので逆に新鮮で。しかもグレン・クローズのあのキャラ(笑)。
柴崎 グレン・クローズは同じ役で最低映画を決めるゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)にもノミネートされているので、アワード続きですね。にしてもアカデミーって残酷。賞あげないんだったら、いっそのことノミネートしないであげてほしいですよ。あ、それはそれで嫌なもんなんですかね?
D姐 ここはある意味、誰がとってもサプライズ枠ですね。あのアマンダが⁉ オリヴィア・コールマンがまたも⁉ ボラットの娘が⁉ あのアメリカ版リアルひとみ婆さんみたいなグレンが⁉ って、そんな中で嬉しいサプライズになりそうなのがユン・ヨンジョンさんかなー。
柴崎 ユン・ヨンジュンさんがSAG賞でスピーチしているときに、Zoom画面に映っていたオリヴィア・コールマンのリアクションがオスカー受賞女優とは思えない大げさな動きで、釘付けになってしまいました。今年はベテラン勢の頑張りが光っている気がしますが、こうやって全体を見渡すと10部門と最多ノミネートされている『MANK/マンク』の主要部門は無冠で終わりそうですね。アカデミーって必ずと言っていいほど1枠はサプライズがあるじゃないですか? そこがどこになるかに期待です。
D姐 ダニエル・カルーヤを抑えてサシャ・バロン・コーエンとかあったら椅子から転げ落ちますけど!
二人の予測まとめはこちら。
【D姐予想】
作品賞 『ノマドランド』
監督賞 クロエ・ジャオ
主演男優賞 リズ・アーメッド
主演女優賞 フランシス・マクドーマンド
助演男優賞 ダニエル・カルーヤ
助演女優賞 ユン・ヨンジョン
【柴崎予想】
作品賞 『ノマドランド』
監督賞 クロエ・ジャオ
主演男優賞 アンソニー・ホプキンス
主演女優賞 キャリー・マリガン
助演男優賞 ダニエル・カルーヤ
助演女優賞 ユン・ヨンジョン
Profile
D姐
米国ハリウッド在住。セレブやエンターテイメント業界のニュースを独自の切り口で紹介する、アクセス総数5億ページ超の大人気サイト『ABC振興会』を運営。また、多数のメディアで音楽やセレブに関する記事を執筆する。テレビやラジオ、雑誌用にセレブやアーティストのインタビュー、レッドカーペットの取材等をロサンゼルスで行う。
柴崎里絵子
ライター兼編集者。映画、音楽に精通し、得意の英語力で海外の旬な情報もタイムリーに収集。マルチなスキルを生かし、『VOGUE JAPAN』誌面とウェブでさまざまな取材も担当する。