環境や健康への配慮から、オーガニックな食料生産を推進する動きが世界では加速し、EUでは「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略の下、有機栽培農地の割合を2030年までに25%にするという野心的な目標を掲げられている。こうした流れの中、2022年4月に「みどりの食料システム法」が日本で施行され、農薬や化学肥料の使用を大幅に低減していくとともに、2050年までに有機農業の取り組み面積を耕地面積の25%まで拡大することを目指している。
「日本で有機農業が広まっていくには、消費者の理解が極めて重要です」と、北海道の有機JAS認証機関ACCISの澤井潤子は語る。澤井によると、日本の国民一人当たりのオーガニック食品購入額は2018年時点で年間約1400円。一方で、アメリカやフランスはその約10倍以上、スイスは約25倍に近いという。オーガニックの魅力やそれを支える生産者の努力を、私たちはもっと積極的に知る必要があるのかもしれない。
有機JAS制度とは、国が定める規格に適合した生産が行われていることを第三者機関が検査し、認証された事業者に「有機JASマーク」の使用を認めるもの。注目すべき点は、農地、種苗・育苗、肥料、病害虫防除、栽培や製造の記録など “その食品が生産される全行程”で、一貫して基準に則った管理がなされていることを証明すものであること。つまり作物や加工食品のトレーサビリティを担保するマークであるとも言える。
消費者にとっては安全で信頼性の高い食品の目印であるとともに、有機JASマークのついた食品を買うことは、農業のゼロエミッション化を後押しし、地球温暖化の緩和や、輸入原料や化石燃料を原料とする化学肥料に頼らない、持続可能な食料生産システムを確立することにもつながるのだ。
大規模な有機農業を実現した、北海道のかぼちゃ農園
一方で、生産者は有機農業や有機JAS認証をどのように捉えているのだろうか。有機農業は防虫や除草の手間がかかるため小規模で行う農家も多い。また、作物のサイズや見た目を一般的な流通規格に合わせづらく、ロスが出やすいというリスクもある。さらに、有機JAS認証取得のための手間やコストも農家の負担となるためハードルが高いとの声も聞こえてくる。
そんな中、函館に近い森町のみよい農園は、東京ドーム10個分もの面積で有機かぼちゃを生産し、規模の大きい有機栽培を実現している。みよい農園の明井清治は、40年以上に渡って有機農業を実践しているそうで、これほどの規模で毎年連作しても毎年極上の甘いかぼちゃが実る。その秘密は、土壌の「微生物」にあるという。
「地球上のミネラルをすべて与えた、安全で栄養価の高い野菜をつくりたい。そんな思いから、海のミネラルを豊富に含んだ、地元のホタテ養殖で出る貝殻やその付着物をもとに有機肥料を開発し、使ってきました。10年ほど前からは、土中の微生物の数が野菜の栄養価や抗酸化力に比例すると知り、微生物の管理に力を入れています。微生物が的確に働いていれば、自然の野山の生態系に近い土となり病気や害虫も寄りつかない。だから大規模でも有機農業ができるんです。有機JAS認証を取得したのは、お客様に信頼の証を示したかったから。今は申請の仕組みも整理され、国からの補助もあり、昔よりハードルは下がっていると思います」
学校給食をオーガニックに。じゃがいも農家の次世代への思い
また、できる範囲から、有機栽培を実践している農家もいる。北海道十勝の折笠農場は、100ヘクタールの農地の内35ヘクタールを有機で生産している(主にじゃがいも、大豆、小麦、マスタード、ミニトマト)。折笠農場の折笠マスラオは、絶対不可能と言われた無農薬無肥料のりんご栽培を成功させた青森の木村秋則との出会いをきっかけに、20年前から有機農業を始めたと語ってくれた。
「木村さんに、全国に何万人もいる化学物質過敏症などで苦しむ人を無視した農業をしてはいけないと言われハッとしました。全国に向けた食料生産を担う十勝だからこそなおさらです。私はオーガニックを一部の人のためのものではなく、いつものスーパーで誰もが買えるものにしたい。近年は仲間と、学校給食で1月一回の100%オーガニックの日をつくろうという運動も地元仲間としています。それを体験した子どもたちが大人になった時、きっと農業や食をより良いものへ進化させてくれる。有機農業は未来の世代のためにも重要だと思って取り組んでいます」
持続可能な農法と食のトレーサビリティを証する有機JASマークを一つの目安に食品を選ぶことは、日本の農業や健康、次世代が生きる地球の未来への支援となる。例えば1週間のうち1度は100%オーガニックの日をつくることも、日々の中でできる小さな変革だ。自分の食卓からオーガニック普及を応援しよう。
Text: Maiko Morita Special thanks: Emi Sugiyama Editor: Mina Oba